67 雷神
「調子に乗らないでよね!!」
アネモイの怒りの暴風を炸裂させる。その激しい暴風は彼女の感情を表しているようでもあった。
「その風は強力だな。んで、その竜巻は雷すら外側へ逸らすと?
なら、こっちは無理矢理近接戦でゴリ押すしかねえか?」
「如何にもバーサーカーが考えそうな安直な判断ね。脳筋神様なの?」
トールの性格を理解していることもあってか、敵側のLRアネモイは何故か執拗に挑発を繰り返す。
たが、そのトールは意外にも挑発には乗らなかった。以前のトールであれば、挑発に対して秒で喧嘩に応じるほどド短気であった。
そんなトールはチラッと、アレイスターを横目に見つめた。
自身の主がこの戦いを見守っている。無様な戦い方だけは見せられない。そんな彼女の自制心が強く働いていた。
だが、それが返って彼女本来の力を抑え付けてしまっている状態でもあった。
基本的に場の空気や流れに身を任せて戦うスタイルをモットーとしているため、こういった頭を使いながら冷静に戦うのは大変不慣れであった。
「普段なら自分勝手に暴れてたが、そうもいかないか・・・アタシも丸くなったもんだ。不思議な感覚だな。悪くないってか、むしろ心地いいな・・・・」
「??何独り言を?」
「うっせ。」
トールは再び戦闘態勢を取った。
攻めるにはまず竜巻を排除し、本体へと近づいてから直接攻撃を実行せねばならない。雷による遠隔攻撃はほぼ効果が無いと先ほどから判断していた。
特にトールの場合、遠隔による攻撃よりも直接的な攻撃の方がよりトール神としての雷の効力を発揮しやすい。
「実行すべきは裁きの雷『雷神ミョルニル』限定解放」
ハンマーに雷が纏う。更には追加で神性の光力が加わっていく。そして雷の放電と光のオーラがハンマーへ備わっていくと、すぐさま輝かしく発光する。
「本当に馬鹿正直に近距離で・・・」
アネモイは今の状況からより警戒心を上げた。
「風神ってのは厄介だからな。潰せる内に潰させてもらうぜ。」
「確かにその状態で近づかれたら不利ですが、それで勝てると?」
「あ?さっきから何を気にしてんのか知らねえけど、アタシと同格と思うなよ。ただのガチャガチャで現れたポッとでの奴等とは質が違うからよ。」
既に言葉はいらなくなった。アネモイが先に仕掛けた。
遠距離から風の刃がトールを目掛けて襲ってくる。あくまでも冷静に敵を遠距離からの攻撃をすることに徹底していた。
しかしトールは軽快に避ける。
雷で身を守れるとは言え、すり抜ける可能性があるため、敢えて避ける事でダメージを確実に回避した。
すぐさま接近戦を仕掛けようとアネモイへ急接近する。
しかし、アネモイは後方へ離れながらも竜巻をバリケードのように前へ作っては、近付けないように封鎖する。
「!」
今度は竜巻の合間を縫うように蛇のような風魔法がトールへと近付く。
「魔法や物理なら弾き返せんだよ!」
ハンマーを使い、迫り来る全ての風魔法をかき消していく。
今度はアネモイの頭上へ遠距離から落雷を落とす。
しかし、慌てる事なく上へ手を挙げ、風を起こして空気上のバリアを張った。
「甘い。」
落雷は周囲へ飛散し、消え去る。
「甘くはねえよ!」
その隙に竜巻の中を見事に素早く掻い潜り、アネモイの前へと現れたトールである。
「!!」
咄嗟に風の魔法で生成した剣でハンマーを受け止める。だが。
「悪いが馬力が違うんだよ!!」
全力で振られたハンマーに耐えきれず、アネモイは一瞬で下へと叩きつけられる。
スドーーーーン!!と常人なら潰れてもおかしくない衝撃音と叩きつけられた風圧が周囲へと広がる。
「ぐぅっ!!」
アネモイは地面へと叩きつけられ苦悶の表情浮かべも。
「!!」
アネモイは痛みを堪え、次に迫り来るトールの猛追を何とか横へ避けた。
今度は空振ったハンマーの一撃で凹んだ地面が更に砕けては、大きな地割れが発生した。
「やるな!」
と狂気の笑みでアネモイを睨む。
「っっ!!」
アネモイは苦痛と電流による攻撃によって、手が一時的に麻痺していた。
「けど逃さねえけどな!」
遠距離の隙を与えず、トールは果敢に近づいては攻め込む。アネモイはもう一度この攻撃を受け止められる自信がないため、何とか避けつつ距離を取ろうとしている。
「オラッ!!」
ハンマーがスタンプのように地面に何度も押し付けられる。
「逃げてるだけじゃあ意味ねえ・・・」
「1人だけじゃないよ!」
横からセイジが短剣を投げた。トールは見向きもせずに2本指で摘みキャッチした。
「1本だけか?お?」
短剣から何か別の力が働いたのを感じ取る。
「それは神を殺せる短剣だからね。」
「なるほどな。勝手にこっちへ向かうようだ。」
ヂリヂリと摘まれてもなおトールへと向かおうという意思があった。
「こっちへ引き寄せもできる。」
摘まれた短剣を離すと、セイジの元へと返ってきた。
「へぇ〜・・神殺しの武器か。異界人なら持っていても不思議はねえよなぁ。」
「あらら?これで余裕って・・・厳しいな。」
アネモイへの援護であったため、セイジ本人からすれば当たれば吉程度のものであった。
「セイジ!近付くのは危険ですわ。」
「解ってるよ。だから前衛は任せたよ。」
じわりじわりとゆっくりと後ろへ退がっていく。
「全く・・・解ったわ。私のマスター。」
そんなアネモイの勇士につられたのか、再び強く立ち上がった。
「確かにSSRをゾロゾロと動かすよりはマシだな。人数増やしても弱ければ即死ぬし。
なら、スキルや恩恵に恵まれた異界人の方がLRとの連携も取りやすい。か。」
トールは2対1の状況ではあるが、問題なく冷静に分析をする。
「トール。」
トールの後方から魔法による念話が聞こえた。
「ロキ?」
「どうする?」
「手を出すな。これはアタシの戦いだ。それにこの程度ではアレイスター様も納得できないだろう。
圧倒的までに相手の裁きと神罰を与える。その姿こそ、アレイスター様への忠誠であり、望みだ。」
当のアレイスター本人は戦い慣れしていないため、『早く終わってほしい』と思っていただけである。
「そう・・じゃあ頑張ってね。」
「任せな。」
ロキの念話が切れる。
トールもまた改めてハンマーを構え直すも。
「しかし面倒な・・・・・やっぱ使うか?」
トールはハンマーを地面へ立てた。そして神である彼女が祈りを捧げ始めた。
片膝を着き、心からアレイスターへ祈る。
その光景は正に異様であった。
「アレイスター様、このトール、貴方様の愛を使わせていただきます。」
すると、今度はトールへ赤い稲妻が撃ち込まれた。そして赤光に包まれた身体の表面が徐々に赤く光輝く。
その光の中から稲妻模様を身体の至る所に刻み込まれたトールが姿を現した。
装備していた鎧のフル装備一切身に付けておらず、綺麗な素肌が露わになっていた。
そんな身体には、薄い赤き光と雷がパチパチと放電し続けている。
目には雷マークが刻まれる。
肌は銀色ではあるが、所々が内側から赤く発行している状態であった。
「これで手加減はできんが、いいだろ?」
更に悪質そうにニヤニヤするトールは指をアネモイへ向けた。
「『赤裁雷』」
短い呪文を唱えるとその指先から目では追えないレベルの速度で赤い雷が放たれていた。
正確には唱えた直後にアネモイの肩を射抜いていた。
「!!」
気づいた時には貫かれており、やがて遅れて痛みがやってきた。
「アネモイ!!」
つい本名をセイジからポロリと出てしまったが、それどころではなかった。アネモイも気付いた時にきた電流と貫かれた痛みが内から襲い苦悶する。
「ぐぅぅぅぅ!」
「今回復を」
「次っ!来る!」
「あっ!」
遅かった。今度はセイジが握っていた短剣が狙われていた。
そしてトールへ振り向いたのと同時のタイミングで撃ち込まれる。
またしても気付く前に腕を消し炭にされてしまった。セイジが握っていた短剣は残っていたが、右腕はこの世から消えていた。
「な?あれ?・・・あ、あああああああああああ!!」
冷静で飄々としてセイジであったが、未経験の領域に取り乱してしまった。
「『獅子の心』!!」
後ろで待機していたSSRの魔導士が魔法をかけてセイジの精神を安定させた。
「はぁ!?ぐっ・・・ふぅ!!」
正気を取り戻したセイジの痛みを、アネモイは即座に軽減する魔法を唱えていた。自分のダメージを無視して主人を優先させたのだ。
しかし、それだけでは精神、肉体共々完全に回復できない。
セイジは受け入れられない現実にただ呆然とする。
「セイジ!」
「これは・・・・戦いになんねえか。
だが、アレイスター様のお力の一端を見せれたのも良かった。これ程まで神性が強化されるとはな。いや、愛によって強化されている。だな。」
トールは両腕を大きく上へ広げて天を仰ぐ。
「私を狙いなさい!!」
アネモイは今一歩前へ出て、セイジを守ろうとする。
「主を守る心意気は評価すんぜ。
だがアイツはアタシに刃を向けた。どちらにせよ、戦場に出てきたなら責務を果たしてもらうつもりだがな。
つか、アレイスター様狙っておいて死なねえ訳ねえだろうが、タコ。」
トールはハンマーを構えはしなかった。素手のまま2人の元へとゆっくりと近付く。
トールが歩いた跡にも電流が流れる。
ゆっくりと近づくその姿はトール神の怒りそのものであった。
「裁きの雷は一回の威力が強くてな?
敢えて遠くから撃っていたが、近付くだとどうなるのか?試してみてぇな。近距離の方が得意だからよ。」
「あっ、貴女は神なの!!ただの狂人ですわ!」
「狂人で結構だ。アレイスター様のために生きていられるなら他に興味なんてない。」
「戦いに渇望を見出していたのでは」
「ああ?あれは建前だっての。
アレイスター様が居るか居ないかでの理由付けだ。アレイスター様が居られるのであれば、圧倒的な殲滅を楽しんでいただけるようにショーを行う必要がある。アレイスター様を持て成すのが、アタシらの存在意義だからな。
これは召喚された者たちの義務だし。」
神としてではなく、1人のこの世界に生きる者としてトールは存在していた。
だからこそ、そのおかしな言動には一切の驕りもなかった。
狂人のような一言ではあるが、トールの表情があまりにも清々しいため、他は何も言えない。
「狂ってすらいない・・・それが普通という事ですか・・・」
「お前の普通が何かは知らねえが、アタシにとってはアレイスター様と共に居るという事が基準となる。」
「段々頭痛くなって来た。」
アネモイの頭は混乱し始める。




