66 風の神 雷の審判を下す
「うん?トールはもう相手の事を理解したということ?」
相性はあれど、同じ類の存在だから膠着か僅差かと思ったが。
「はい、トールのレベルであれば少し手合わせをすれば解ります。」
「ワシらは脳筋じゃないからの。調べ方はそれぞれじゃが、トールは大体そんな感じじゃ。」
「フフ、昔から変わらないからね、アレはね。」
3人は誰よりもお互いを理解していた。
だからこそ思う。何故神話のような結果へと至ってしまったのかを。
「オラッ!!」
トールハンマーことミョルニルが炸裂する。
しかし、相手も身軽に避けて続ける。
ハンマーから度々発生される雷をも悠々と掻き消していた。
「さっきから気になるが。あの現象は・・」
ちょいと心に引っ掛かる。
「あれは風を利用していますね。」
「そうじゃの。」
風??あ、なんか聞いた事が。馬鹿な脳味噌よ、20回転ぐらいしてくりー。
うろ覚えだけど、確か風というよりその周囲に浮かぶ空気が電気を流しにくくしてるとか。
ただ、電流が流れにくいのであって、雷のボルト数は何億ととてもではないが、受け流す事は愚か消すレベルには至らない。はず。
なんとかポンコツな記憶力を捻り出して見せた。
「風は風でも神が使いし風であるなら別でございます。あれぐらいはできて普通なので、何も心配は入りませんよ。」
優しいロキがバカな俺に答えへを教えてくれました。
「普通の風というか空気レベルであればトールの雷を受け流す事はできません。
ただし、それはあくまでも《《普通》》レベルの話です。」
つまり、あのLRは神レベルでもまさかの上位神ということ?英雄クラスしか観てこなかったからか、その事実に結構驚いた。
「どこかに居るとは思ったが。」
「しかも風を司る神です。普通の空気を掻き集めるのではなく、更に流しにくい空気を見事に形成しています。
最も目に見える訳でも無いので、何がどうなっているのか。ま、そういった仕組みは本人にしか解りませんが。」
「そこまでポンと出るロキさんも凄いよ。」
「ありがとうございます。」
ロキさんが照れて上機嫌に。
「ムム・・・・・ワシなら正面から受け止められるわい。」
それは何の張り合い?
敵の攻撃を受け止めるとか縁起でも無いので止めてください。怪我では済まなかったら発狂もんですしね。
「ですが、ただ力を行使するだけではなく、自由自在にそれを操作するとは、トールもこれでいいお灸が据えられれば良いですが。」
「めちゃ人事のようだけど、それピンチでは?」
「まあ、あのままやり合ってもジリ貧ではあります。まあ、《《あのままやり合うなら》》ですが。」
何だか含みのある言い方だ。
「向こうも撤退を優先的に考えておるからの。アウトサイドからの攻撃と無理な接近戦はせんじゃろうしな。」
「うーーむ、それはそれで余計にマズいのでは?」
「ですが、アレイスター様の情報が持ち帰られて」
「君は黙ってくれないか?」
ロキがタジャマールを殺意で威圧して黙らせた。
究極のパワハラを今目の前で見せつけられた気がする。僕もその圧に押されて声も出ないけど。
「安心せよ、ワシらがおる。」
オーディンさんが優しく手を握ってくれた。
暖かい。
「その通りです。私たちがおります。
それにトールのあの顔は、もうこの勝負に見切りをつけました。」
ロキは逆の手を握ってきた。引率された子供かな?
トールの方は実際そんな厳しい表情はしていない。
むしろ、防がれても特にリアクションもせず、何かを観察しているようでもあった。
「向こうが退き気味に戦った時点でトールの勝ち。」
「奴は電光石火じゃからの。トールは意外と脳筋力バカでは無いのじゃ。」
「どちらかというと。」
「オラッ!」
「あぶなっ!」
目の前の金髪LRは更に距離を取った。
「最初だけ接近戦かよ。やっぱ時間稼ぎか。」
「もう遅いけどね。」
「あ?転移準備だろ。」
奥の何かしらの術式を準備しているマスターの仕草からそう判断した。
「あら、バレてたの。時間が掛かるから準備で上手く稼いでたけど。」
「んなもん解るに決まってんだろ!死ね!
あの男から魔力の流れを感知した。」
ど短期トール様。
「ただ戦っているだけでは無いのね。」
「たりめーだ!アレイスター様が観てくれる戦いだぜ?んな、適当な事できるかよ。」
「でも、私へは届かず。しかし、私も攻めれず。
お互いジリ貧よね。」
「まあ、な。このままならな。もう十分観たから良いけどな。それにすぐに片付いたら観てくんないしな。」
「はい?」
トールはそんな相手の疑問をスルーして、ハンマーを上へと掲げる。
「魔力式電磁波。」
彼女の一言でアクアリウムという国を包む電流のバリアが張られた。
「!!」
セイジの唱えようとした魔力らしきものが一気に消失した。
「なっ!」
「これでやりたい事、逃げるっていう選択肢は消えた訳だ。アタシとしては消化不良が嫌でな。この前もそんな事あってな、
だからよぉ、今度こそはちゃんとぶっ殺してやんねえとな。」
トールの姿が少しずつ変わる。
漆黒の鎧を全身へ装備されていく。頭までも2本角つきのヘルメットで覆い尽くされていく。
「これでも戦神だ。中でも飛び切り強え。
アタシ本来の戦闘を魅せてやんぜ。」
トールの周りに激しい落雷が降り注ぐ。
ゼウスの雷とは別物であった。
トールのは激しい怒りを象徴としているようであり、荒々しく放電している。
「・・・・トール神、やってくれましたね。」
「これでも待ってやった方だ。」
「一体何を・・・?3神が揃った時点で油断したと思ったけど。
まさかそんな中でも貴女が冷静だったとはね。」
「アレイスター様がいるからに決まってんだろ。理由なんてもんはそんなんで十分だ。
さてと・・・判決の時だ。」
トールはハンマーを力一杯に片手で振るう。そのまま地面へ叩きつけると、音が鳴り響く。
地響きとは別にカーーンと判決音のような響きであった。
「雷鳴裁き 慘華。」
上空から雷の龍が複数に分裂し、空中へ飛び立った神を捉えようと襲い掛かる。
「なっ!!」
なす術もなく、直撃した。
今までであれば、単直な攻撃であったがために回避できた。
しかし、複雑な角度と複数同時攻撃は予測不可能であった。
「流石にこれじゃあくたばんねえわな。」
トールは見上げた。
煙を全て払い、現した姿は風神であった。
緑色の透き通った鎧に目に見える竜巻の数である。
「それがお前の全力か、なら大事なもの守れよ。でないと・・・・・ここに居る奴らが先に死ぬぜ?」
トールの悪役らしい笑みで風神が反応する。
「このバーサーカーがっ!!」
本気の風と雷の化身がぶつかる。
アレイスター
「ピカッと目の前が光るので目がチカチカしておりまする。」
「あまり見上げん方がええぞい。」
そう言って誰かのおっぱいが後ろ頭にグイグイ押し付けられている。
「我々レベルであれば見慣れております。それにトールも今の力を試しておきたいのでしょう。」
「今の力?」
「ワシらは特別じゃからな。
アレイスター様の愛を受け取った手前、下手な真似をしたくは無いからの。じゃから、程よい相手が欲しかったんじゃろうな。」
「トールが何もそう思っている訳ではなく、我々一同がそう思っております。
現時点で実質的な戦闘の手応えを調べられているのはフレイヤ、アーレス、アフロディーテ、ゼウス、アテネ、ハーデス、ガイアぐらいです。
他はLRとの戦闘経験があまりにも少ないので。」
ああ、そう言うこと。
確かにここまでガッツリと争った事無いもんな。牽制とかで出向いただけだしな。
「うーむ、けど互角の戦いじゃない?」
「いえ。むしろ、アレイスター様のお陰で我々は他とは違う力を有しております。
これはアレイスター様にしかないお力です。
トールはまだその力を使っておりません。」
召喚士か。『使役』と『神化』が関係してるのかな?そのお陰で他とは違う優位性が生まれたということか。
「トールの雷がピカピカ光ってんのも関係あるのかな。」
「そこはあまり変わらないかと。」
あ、はい。
「ピカピカ連射しとるのはトールの試し撃ちじゃろうな。雷は連続して出すより、1発に電力を集中させた方がより鋭く殺傷性の高い一撃を放てる筈じゃからの。」
「ほえ〜やっぱゼウスとは別物なのかな。」
「そうじゃの。雷にも一応種類みたいのがあるからの。
トールは裁きの雷、ゼウスの場合は天空神としての自然力を絡めた雷じゃ。
簡単に言うとじゃ、トールは対象を絞り殺す事を得意としておる。
逆にゼウスは天空神がゆえに、全てを支配し、全てに干渉させる事が得意と言った所かの。」
ゼウスは何も雷だけが取り柄ではない。が、その違いはなんとなく理解した。
トールは今のような1対1では優位に立てる。
ゼウスは全体を支配するのに優位に立てる。
神でも似たような攻撃をするが、内容や在り方によっては色々と違うらしい。
「だからトールが勝てるのか。」
「そう言う事です。相手も同じ神族の風を司る神アネモイでしょう。あそこまで巧みに風を操れるので、その可能性は非常に高いです。」
えーーと。何の根拠があってその結論に至ったのか解らない。
しかし、彼女の背中には薄く、透明のように見えずらいが翼を有している。
「いや、それだけで判断するって・・・・」




