#7 どうして、こんなにも彼らは。
翌日、クラスの話題は昨晩のレベッカが出ていたドラマでもちきりだった。
特に目を輝かせていたのがノアだ。
「レベッカちゃん!私昨日見たわ!
ドラマ、私漫画大好きだったの。レベッカちゃんのそのキャラクターのイメージそのままよ。可愛かったわ~~」
「でしょ!初主演であんな演技しちゃったらこれから仕事増えちゃうかもしれないわね」
レベッカは腰に手を当て自慢げに振る舞う。
始業の時間になりリンが教室に入る。
「ねぇ先生!昨日のドラマ見た?」
「あ、見たよ~。すごい良かった」
「そ、そうでしょっ!」
自分で聞いたはずなのにレベッカは少し恥ずかしそうに答える。
「今日はちょっと授業の時間に入ってもいいからみんなで話し合いたいことがあるんだ。」
机に伏せたままだったアーサーが少し顔をあげた。
「この間スポーツフェスティバルについて話したでしょ。先生が出るか出ないか決めてもよかったんだけどせっかくだからみんなで話したいと思ってね。」
リンは話を続ける。
「スポーツフェスティバルではクラス対抗で色んな種目で対決するんだ。ハーフスター高校はA~E組の5組編成だから僕たちは参加するとしてもオープン参加になる」
「はい」
クラスの中でも体の小さなルーが目一杯手を挙げた。
「オープン参加ってなんですか?」
「参加しても順位が付かないって事。だから勝っても負けても記録は残らないんだけど、全校の学校行事だから本校の理事長さんが誘ってくれたんだ。時間の都合で僕たちが参加できる種目は5つ、徒競走・玉入れ・綱引き・騎馬戦・リレー。」
「そう言われても何するかよくわからないんだよね」
「アオイ君、」
リンは目を細めてアオイのことを見て、手を挙げた。
「あ、はい」
アオイがそれに倣って手を挙げる。
「それぞれの種目で何をするかがあんまりわからないです」
「やっぱりそうだよね。
一つ、僕が考えたのは一度クラス内でやってみるって事なんだけど、どう?」
「いいと思う!最近勉強つまんない」
アオイはまた手を挙げずに口を開く。
すると教室の中からリンのアイデアに賛成する声が聞こえた。
「そうだね。今日は全員揃ってるしやってみるか」
実は、最近はどうしても断れない任務が入っている生徒も少なくなくちらほら欠席が目立っていたのだ。
「じゃあ着替えて校庭集合!」
リンの掛け声で生徒たちは校庭に駆けだした。
◇
第一種目、徒競走。
「これは簡単。足の速い人が勝ち。」
リンは生徒たちを横一列に並ばせた。
「よーい、」
リンが右手を挙げる。
生徒たちは片足を引いた。
「ドン!」
勢いよくリンが手をおろしたのと同時に19人が一気に走り出す。
スタートと同時にまきあがった風でリンの前髪が揺れた。
ゴールの目印に引かれたラインには職員室から呼び出されたオーブ立ち順位を伝える。
「一位 ルー、二位 アル、三位、ノンナ」
(はぇ~~~。きっと、最下位のメイでも普通の徒競走だったら一番だな……。)
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第二種目、玉入れ。
幸い、この校舎には倉庫に必要なものがそろっていた。
リンは長く眠っていた籠ごと球を取り出し、埃を掃う。
「あのかごに向かってこの球を投げ入れるんだ」
「俺こういうの得意かも」
手を挙げたユナにリンは球を投げて渡した。
「やってみな」
ユナは片方の目をつむって構える。
「よっ」
赤の球はすっときれいな軌道をえがいてかごの中に入った。
リンが拍手をすると、生徒たちも続いてユナに拍手を送った。
「これはチーム対抗戦だから出席番号でいいかな。奇数が赤チームで偶数が白チームね。
もちろん相手のかごを倒したり、妨害したりするのは反則。
じゃあ、いくよ。
……はじめ!」
ひょいひょいと、あっという間にかごが埋まっていく。
沢山あった球がものの一分ですべて無くなった。
(これは、……目立つな。)
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三種目目、綱引き。
「さっきと同じチーム分けで行こうか。僕の合図で各チーム引っ張りあってね。」
生徒たちはしゃがんで綱を掴んだ。
リンが長い縄の中心を踏む。
「よーい、……はじっ」
足を離すタイミングが遅れたリンの身体は、生徒たちが勢いよく縄を引っ張ったとたん宙に浮く。
「いったたたた」
尻もちをついたリン。
「リン先生大丈夫?」
飛び上がったリンに驚いてノアが手を離す。
案の定ノアのいたチームはずるずると引きずられていった。
決着がついた途端リンの元に駆け寄った生徒たち。
「だめだよノアちゃん、こういう時は放っておかないと。ね!先生」
リンの傍でかがむノアにモモがそう言った。
「はは……そうかもね(笑)」
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四種目目、騎馬戦。
「騎馬戦は4人一組で戦うよ。
じゃあジューク君、モモ君、アーサー君、あとは……エアル君」
リンはジュークを先頭に、その半歩後ろにモモとアーサーを立たせた。
「3人はしゃがんで……そうそう。
ジューク君は後ろに両腕を、左側にいるモモ君は右手をジューク君の左手に、右側にいるアーサー君は左手をジューク君の右手に。こうやってぎゅって。
うん。それで後ろの二人は空いた手をジューク君の肩に、そう!
ここにエアル君が跨る」
エアルが跨ると下の3人は立ち上がる。
「こういうことか」
「いいね。この形で上に乗った人は自分の帽子を取られないように、敵の騎手の帽子をとるんだ。」
「何このゲーム、意味わから無すぎだろ!」
モモはそういってジュークとアーサーを押し出すように走り出した。
「ちょっと!」
校庭をぐるぐると走り回る3人。
「何やってるの!おろしてって!」
エアルはジュークの肩をぎゅっとつかんで暴走する馬に必死に振り落とされないようにしがみついた。
「私、上が良い!」
ノンナがそう言って、チェック、アオイ、ユナを引っ張ってしゃがませる。
「とんだお嬢様だな……」
チェックがぼそっとそういった。
3人は反抗する隙も無く見よう見まねで馬を作り
「はいよ」
軽々と立ち上がった。
「いけー!!」
そしてノンナの言うがまま走り出す。
あまりにも楽しそうにする生徒たちに
リンは止める気も起きず、しばらく見守っていた。
(僕が走っていったって追いつかないしな……(笑))
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五種目目、リレー。
リンは校庭いっぱいにトラックを描いた。
「ちょっといびつだけど、これでできるかな…。そしたらさっきの徒競走の順位の奇数と偶数でチーム分けしよう。」
リンがオーブに尋ねる。
「オーブ先生、リレーって見たことある?」
「……見たことくらいなら。」
そして、リンは20メートルほど離れた場所にバトンをもって立ち、生徒たちの近くにオーブを立たせた。
「じゃあ行きまーす。みんな見ていて」
威勢よくそういったリンは走り出す。
リンがあと少しでオーブに届きそうになり、オーブが走り出した。
「こうしてっ、バトンをっ」
久しく本気で走っていなかったリンは息を切らしながらそういう
……が、全くオーブに追いつかない。
「リン先生頑張れー!」
ユナがそう言うと生徒たちが次々にリンを励ます声を送った。
「ちょっとっ!そーいう競技じゃ……。オーブ先生本当にリレー見たことっ!」
オーブは一周した後に何かが違うと気づいたのかピタッと立ち止まる。
「え?」
リンもなんとか息を切らしながらぐるっと一周走って戻ってきた。
「……みんなこれ、本当は次の人にこれを渡してつないでく競技ね。じゃあちょっとチームで順番だけ決めて。偶数のチームは誰か2回走るように」
リンはそういって座り込んで話し合う生徒たちを見守る。
Gorororo Gorororororo………
少しすると空から怪しい音が聞こえてきた。
「あれ?」
ぽつり、ぽつり、と空を見上げるリンの顔に雨粒が落ちた。
「みんな、雨降ってきたよ」
「えー、あとこれだけならやろうよ。」
そういいながら一番手になった生徒2人がスタート位置につく。
「じゃあさっとやるか。いくよ……よーい、ドンっ!」
一番手のレベッカとアーサーはスタートを切った。
生徒たちは初めてなはずなのにスムーズにバトンパスをこなし、一人一人ものすごい速さでリンの描いたトラックをぐるっと周って戻ってくる。
広い校庭に19人の生徒と二人の先生。
生徒たちは飛んだり跳ねたりしながら自分のチームを応援する。
徐々に雨は強くなり、最後の生徒が走り始めるころには校庭はぐちゃぐちゃ。
もうどこにトラックが引いてあるのかもよくわからないくらいだった。
アンカーのバル、アルがスタートするとリンはどこで拾ったかもわからないようなボロボロの細いロープの端をオーブに渡した。
「何ですか、これ?」
「ゴールテープです。これを持ってそっちに立ってください」
オーブは渡されたロープを不思議そうに見る。
「……これに何の意味が?」
「オーブ先生が信じてくれるかわかりませんけど、沢山の子どもたちがこれを一番に切ることに全力を尽くすんですよ……!」
アル、バルが最終コーナーを回りオーブとリンが持つロープに向かって走る。
その差は寸分もない。
リンは競っている二人と二人を応援する生徒たちを見る。
(――――どうしてこんなにも君たちは)
僅かに先にアルがロープに触れ、リンは手を離した。
雨が降りしきる中、リンが持っていたロープの端はオーブに向かって弧を描く。
(――――君たちなんかに到底敵わない、まだあったばかりのこんな僕の前で……)
リンの立っていた場所からはアンカーの二人を囲む生徒たちの隙間から、普段は口数の少ないアルとバルの不器用に少しだけ口角の上がった表情が見えた。
(こんなにも“子どもらしく”いられるんだ……)
リンは生徒たちに呼びかける。
「皆さん!」
リンの声に生徒たちが振り返る。
「……スポーツフェスティバル、参加しますか?」
「「「「「はい!」」」」」
それは、
幼い頃からほとんどの時間を
彼ら・彼女ら一人一人の能力の使い道を
自らの命でさえも
組織の任務に選択させられてきたリトルマーダー達が
―――初めて自ら『選んだ』瞬間だった。




