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13/22

#13 突然来られても布団が足りない。


それは、リンがいつも通り夕食後にテレビを見ながらお茶を飲んでいる時だった。


Pi—n Po—n ……  Pi—n Po—n……


インターホンが鳴る。


「こんな時間に……オーブ先生か?」


この家を知っているのは組織の人間しかいない。来客はほとんどない。

リンは恐る恐るのぞき穴から外を伺う。


そこに居たのはジュークだった。


 「ジューク君!?」


リンは驚いてドアを開ける。


 「!?」


そしてもう一人、覗き穴からは見えない位置にエアルが立っていた。


 「……お邪魔します」


二人は特に何も言わず、部屋の奥に進む。


 「どうしたの、二人して……。」


エアルはまるでここが自分のリビングかのように、

迷いなく大きなソファにひょこっと腰を下ろした。


ジュークは持っていた荷物の中から二封の手紙をリンに渡した。


 「これ、リン先生に。俺の分とエアルの分」


それだけ言ってジュークもエアルの隣に座る。

封筒には、確かに『リン先生宛』という文字があった。


リンが手紙を開けようとしたとき、外からエンジン音が聞こえてくる。


 「……?」


窓にバイクのヘッドライトが当たった。


リンはコートを着て外に出る。


テレビを見ていて気付かなかったが、

今やってきたバイクの隣にジュークとエアルが乗ってきたであろう車も止まっていた。



バイクに乗っていた華やかな服装の女性がフルフェイスを取り外す。


 「ふぅ~~~、寒」


 「レベッカさん!?」


レベッカはバイクから降り、シートを上げる。


 「リン先生、これ。」


 「それは……」


レベッカから渡されたのは先ほどジュークから渡されたものと同じ封筒だった。


 「先生、寒いんだけど」


 「あ、……うん。中入りな」


レベッカはトートバックを片手に家の中に入った。





状況が理解できないリンの元に一本の電話がかかってきた。


状況がわからずとも、なぜだかリンは良くない胸騒ぎを感じていた。


発信元はオーブだ。


学校とは全く関係ない時間。

リビングではジュークとエアルとレベッカがくつろいでいる。

さらにオーブからの電話。


リンは“組織”の異常事態を確信した。


 「……もしもし」


リンは恐る恐る電話に出た。


 〈夜遅くにすみません。生徒たちが先生の家にむかっています〉


 「……もう来てます。

  レベッカさんとジューク君とエアル君が」


 〈そうですか。……すみません。僕も任務の付き添いで手が離せなくて間に合わず〉


 「……何があったんですか?」



 〈―――――リブラが任務中に殉職しました。〉



 「………………」



リンは、言葉が出なかった。


あったのは一度きり。

それでも『また話そう』といってくれたリブラの顔はリンの脳裏に焼き付いている。



 「生徒たちは、それを知って家に来たんですか?」


 〈はい〉



リンはもう一度、リビングでくつろぐ3人のことを見る。

彼らにとって監督者は親のような存在だと思っていた。

そんな人を失った後にはどうしても見えなかった。


 〈リトルマーダーの監督者は自分自身の身に何かあった時の彼らの対応を事前に考えておきます。リブラはそれでリン先生のところを選んでいたんです。


  ……すみません。ちょっと僕もアルの元に向かわないと。

  あとは、よろしくお願いします。〉



オーブがそういうと電話がプツリと切れた。


リンは手元の3つの封筒を見る。


 (きっと、これにいろいろ書いてあるんだ……)


正直、リンには泣かずにこれを読む自信がなかった。


 (『調子が狂う』だったっけ……。

  リブラと……あとアーサー君にも言われたな。)


きっとここで泣けば、また誰かにそう言われる気がした。


リンが封筒を開けようか迷っていると、リビングのレベッカが手を挙げる。


 「先生~!」


 「……どうしたの?」


リンはなんとか平常心を装って返事をした。


 「今日どうやって寝るの?ベッドある?」


 「あぁ~……、

  ベッドはあるけど一台しかないな。僕が前の家から持ってきた布団が確か二つあったはず。……準備するからそこで待ってて。」


リンは2階のベッドルームへ向かう。


 「俺も手伝うよ。」


 「……ありがとう」


ジュークがあとに続いた。



リンはベッドルームのクローゼットから

前の家からそのまま持ってきた布団のセットを引きずり出した。


それをジュークと一緒にベッドの横に並べる。



 「先生、大丈夫なの?」


何も話さずに布団を整えるリンにジュークが声をかけた。


 「正直大丈夫じゃないよ」


 「でも、あの時みたいに泣いてない。」


ハーフスター高校の帰り、リンがリブラたちの前で大泣きしたあの夜のことだ。


 「僕も少しは強くなったってことかな」


リンが小さな声で言う。そしてジュークに尋ねた。


 「君たちは大丈夫なの?」


 「……リン先生ならそう言うと思った。

  僕たちの心配してる場合じゃないときに、いつだって僕たちに大丈夫か聞くんだ。」


ジュークは淡々とそういった。

そして答える。


 「―――僕たちだってきっと大丈夫じゃないさ」


意外なその答えに思わずリンの手が止まった。


 「先生があの夜、大泣きしたとき……、

  少しだけ死ぬのが怖くなった。

  自分が死ぬのも、周りの人が死ぬのも。


  ……少しだけ


  ロゼとメイもそうだったと思う。

  だからきっとリブラは先生を俺たちから話したんだ。


  リトルマーダーだって、組織の人間だって最初はただの子ども。

  はじめのうちは死が怖くても、それが怖くないふりをする。

  そこが第一歩目。


  まわりの組織の大人や先輩がそうするから。

  そうしないと組織に居られなくなるから。

  また貧乏な孤児院生活に逆戻りするのは嫌だし。


  だけど、ずっとそんなふりをしていると

  本当に誰かが死ぬことなんて、自分が死ぬことなんて怖くなくなる。

  そして、その方が任務も自分の生活もうまくいくことに気づく。

  危険な任務でも平常心でいられる


  ……でもそんなものどうせ、所詮ただの勘違いだ。

  先生のことを見てるとその勘違いが解けそうになる時がある」



リンはリブラやアーサーのいう『調子が狂う』の正体がわかった気がした。


 「先生、手止まってる」


ジュークの手元の布団はとっくにきれいに整えられていた。


リンは慌てて再び手を動かし始める。


 「まぁ10年以上の勘違いなんてもう完全に解けはしないと思うけど」


吐き捨てるようにジュークがそう言うと、ばたばたと階段を駆けあがる音が聞こえてきた。


 「え!リン先生の家のベッド大きい!」


確かにここのベッドは一人暮らしにはもったいないキングサイズだ。


レベッカとエアルはそのままリンのベッドにダイブした。


 「二人はそっちで寝る?」


リンがベッドの上の二人にそう言うと、

ジュークが口をはさむ。


 「あとヴィクトとグリーンとチェック来るけど」


 「あ……、」


リンが前の家から持ってきた布団は1枚に1人が寝るので精一杯だろう。



 「3人ともデカい人……」


エアルがぼそっとそういう。


 「でもこっちで私を寝かせるわけ?」


レベッカは小さな布団を指さし言う。



 「……3人で話して決めてね」


 (僕はソファで寝るか……)


リンは3人を残してリビングに戻った。





ソファに座るリンはテーブルの上の3封の封筒を並べる。


封筒を渡した3人はそれぞれお風呂に入って寝室にいる。


 (静かになったし、寝る場所も決まったんだな……)


リンは腹をくくり、『エアル』と書かれた封筒を開けた。


そこには手書きの文字が書かれた2枚の便せんが入っていた。


 『リン先生へ、


  この手紙は、俺の身に何かあった時に組織の人間がリトルマーダー達に渡すように指示したものです。

  手紙と一緒にリン先生の家の場所と、そこに行くように指示した暗号を送るように言ってあります。


  暗号文は組織独自のもので不定期に入れ替わるものなので先生の家が外部にばれることはありません。安心してください。


  ―――ということで、

  先生が今この手紙を読んでいるということは、僕は死んだんですね。

  あの時、星空の下、リン先生と次に会う約束をしたものの現時点ではまだ会えていません。


  結局、先生がこの手紙を受け取るまでにもう一度会えているのでしょうか。

  まぁ一回くらいは会って話してるでしょう。


  そして、そこでもリン先生は大泣きして俺の調子を狂わせているのでしょう。』



リブラの書いた『もう一度』がかなっていない事実に、リンは涙を流す。



 『あ、そもそもこの手紙を開けた段階で泣いてるか。』


 「……さっきまで我慢してたんですよ。」


もう声の無いリブラの名推理に、かすれた声でリンが答える。



 『でもリン先生、泣いている場合ではないです。

  組織はかなり危険な状態かもしれません。


  国家の上層部とつながりのあるRaise Sir Flagは国境付近の前線を援護しています。

  前線を経験した俺から見ると、ゼータの侵攻は間違いなく加速してます。

  

  俺は国内からゼータに情報を流している人間がいるとしか思えない。

  でも組織は命令を受けてその通りにすることしかできない。


  自分で調べる時間もなければ、

  声を挙げたところで俺たちなんか、いるのかいないのかわからないような存在だ。


  嫌な予感がする。


  今思うと、オーブが学校を作ろうと言い出したのは

  組織が“終わる”可能性が頭をよぎったからなのかもしれない。


  オーブが先生に言った“今世を正しく終えさせてやる”は、……そういう意味かもしれない。


  組織が負けたり、明るみに出たりしたら

  それこそ俺たちは、リトルマーダーは間違いなく人生丸ごと否定されて今世を終えることになる。


  かといって今の状態で策があるかと言われると俺には何もない。


  だから先生、

  組織の人間として、あいつらの先生として、俺たちに手を貸してほしい。


  ……最後まで手を貸してほしい。


  そして、まだしばらくはこっちに来ないで。あいつらのことを見てあげてほしい。』



その言葉で1枚目の手紙は閉じられていた。

それを読み終わった時、リンの涙はもう引いていた。


 (……最後まで)


リブラの言う“最後”という言葉が嫌に気になる。



リンは1枚目をめくって2枚目の手紙を見た。

そこにはエアルの好きな食べ物や嫌いな食べ物、特徴や性格が事細かに書いてあった。


それはまさしく取扱説明書。


 (監督者の人はリトルマーダー一人一人のことを本当によく見てる……)


リンは残りの2封を開けた。

どうやら1枚目はコピーしてある全く同じものがすべての封筒に入っているようだ。


 (誰の封筒を先に開けてもいいように……か。)


3人分の取扱説明書を読んだところで再び車のヘッドライトで窓が照らされる。


リンは涙のあとを拭きソファから立ち上がった。


インターホンが鳴るのと同時にリンが扉を開けると、

そこにはチェックとヴィクトとグリーンの3人が立っていた。


 「お邪魔しまーす」

 「先生の家広いんだね」

 「……広い」


例にもれず家主を置いてけぼりにして家に入る3人。

さっきまでリンが座っていたソファに腰を下ろす。


 「あ、この手紙」


机に広がっていた3人分の手紙を見てチェック達も自分の荷物から手紙を取り出した。


 「ここ置いておけばいい?」


 「いいよ」


3人はそれぞれの封筒を机の上に置いた。


 「他の3人は?」


 「寝室で先に寝てる」


 「へぇ~、見てこようぜ」


チェックがそう言うと

リンより身体の大きい3人の男たちはそろりそろりと寝室に向かった。


リンも気になって後を続く。


2階の寝室の扉をチェックがゆっくり開けた。



 「……なにこれ(笑)」

 「俺らどこで寝るの……?」

 「こっちじゃない?」



大男3人の隙間からリンがこそっと寝室を覗く。


そこには大きなベッドで

まだ背の伸び切っていない小さなエアルを真ん中に、レベッカとジュークがその両脇に並んで眠っていた。


3人がクスクスと笑っているとエアルが何か寝言を言いながら寝返りを打つ。


 「起きちゃうから閉めるよ」


リンが寝室のドアを閉める。


 「俺たちもさっさと風呂入って寝るか」


そういって3人は寝室をあとにした。



もちろん、遅れてやってきたチェックとヴィクトとグリーンは

任務があったから12時を過ぎた今、リンの家に着いたのだろう。



そして、彼らもすでに自分の監督者が殉職したことも知っている。



それでも並んで眠る3人を見てクスクス笑えるし

その会話も、まるで何事もなかったかのようだった。


リンはクスクスと笑いながら階段を下る3人の背中を見ながら


ずっと信じたくなかった組織の人間の強さは

彼らにとって必要不可欠なものだったのだと、


そう信じざるを得なかった。


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