思わせぶりで、思いがち
なんていうか最近は気分が乗らなくて文が下手くそだ。どうすれば良いんだろう。
「俺知ってますよ。これ、カップルが乗って頂上でキスする奴ですよね」
「別に間違ってはないのだけど、そういうアトラクションではないわよ?」
「そうなんですか?」
「本当にそう思ってたらなんで私を連れてきたのよ」
「冗談ですよ。分かってますって」
あの後、つまりジェットコースターに乗った後。
俺と係員先輩は休憩をしに、休憩が必要だったのは俺だけだけど。
ともかく、ブレイクのためにカフェに行った。
そこで、談笑とまでは言えないかもしれないがそれなりに楽しく会話をして、落ち着いてきたからまた何かに乗ろうというわけで今度はあんまり怖くなさそうな観覧車に来ていたのだ。
「一応、もう一度だけ忠告しておくけど。観覧車も揺れるし高いから少し怖いかもよ?」
「別に高所恐怖症ではないですし。大丈夫だと思いますよ。それに乗らないのはもったいないじゃないですか。ジェットコースターに並ぶ目玉的なところありますよね?」
「まぁ、そうね」
「思った以上に空いてますね。意外と並んでない」
「そうね。そろそろパレードの時間だからかしら」
「パレードですか?」
パレード、というとあれだろうか?あの、百鬼夜行的な、道を練り歩く的な。
いや、もっと明るい雰囲気の奴か、装飾されまくった車やキャラクター達がパフォーマンスする奴。
「そうよ、今からでも見に行く?」
「うーん、いや、良いです。なんかもう観覧車の気分なんで。運良く上から見えるの祈っときます」
観覧車の頂上はこの遊園地で一番高いところだ。
遮るものはないはずだし、タイミングによっては見えるだろう。
そういえば今何時だろう。
というか何時に帰ろう。
帰ったらまだ仕事あるんだっけ……。
帰りたくねぇ〜。でも早めに終わらせないとな。
六時二十八分。六時半か〜。
俺が腕時計を見ていたのを見て係員先輩が思い出したように聞く。
「そういえば何時ぐらいまで遊ぶつもりなの?」
「一応、今六時半ですね。そうですね。俺は先輩に合わせるんで問題ないんですけど」
「けど……?」
「帰ってやることあるんで終電までとかは勘弁」
「そう、良かったわ。あわよくばお持ち帰りなんてことはないのね」
「俺の方は飲む予定もないんで大丈夫ですよ。あ、それとも実は期待してました?」
「そんなことないわ。本当にね」
先輩はものをはっきり言うタイプの人だ。その先輩が本当にと言うことは本当に違うのだろう。
さばさば系と言うのだろうか?
自分の気持ちを素直に言えるのは普通に凄いことだと思う。
好き嫌いは分かれるかもだけど。
「先輩は冷たいようで優しいですよね。人生損してそう」
「貴方はもっと言い方を考えたり相手の気持ちに気を使うべきだわ」
「すいません。でも馬鹿にするようなつもりは全然ないですよ。損かどうかなんて自分にしか分からないでしょ?他人に計れるものじゃない。俺には真似できないなって話です」
「貴方は褒めると同時に下げるようなことを言わなくちゃ気が済まない主義なのね。やっと貴方の性格が悪いのが分かってきたわ」
「バレちゃいましたか」
「でも、優しいわ」
性格は悪いのに優しい。
だとしたらそんなにだるいことはないだろう。
「ここまでするのは先輩ぐらいです」
「だとしたら私は嫌われてるのね」
「いやいや、好意的に思ってますよ」
「そう、男の子というのは良く分からないものなのね」
「それちょっとジェンダー発言じゃないですか?」
そんな風に雑談をしていると俺たちの順番が来た。
ゴンドラの中に入り奥に座る。
そして対角線に係員先輩が座った。
二日間。それを考えれば妥当な距離だろうな。
むしろここまで付き合ってくれたのが奇跡みたいなところがあるのかもしれない。
「ありがとうございます。今日は付き合ってくれて」
「どういたしまして。どうせ暇だったから良いわよ。これでお別れなわけだしね」
「そうですねー。正直ここまで一緒に周ってくれると思いませんでした」
「私も貴方にはそこそこ好印象を抱いているのよ。まぁ、距離の詰め方はすごいなと思ったけれど」
「はは、先輩が良い人なのはすぐに分かったから。仲良くなっておきたいなって。二日間しかなかったんで」
「私は貴方のことを性格が悪いと評したのに貴方は私を良い人と褒めるのね」
「性格が悪いと良い人って別じゃないですか?」
「…………。貴方は、子どもっぽいようでいてその実。とても大人よね。だからこんなに気を許してしまったのかしら」
係員先輩は俺の人柄と思っているようだがその辺は少し天界効果があるのかもしれない。
人界に於いてトラブルがないように少し本当に軽ーい。自販機ならかる〜いって表示される感じの思考阻害みたいな誘導みたいなのがかかるのだ。
それでも基本は自力でトラブルは回避しなくてはならないのだが。
「──そんな貴方には不要なのかもだけれど」
俺が何か軽いおちゃらけた返しを考えていると係員先輩がぼそっと呟いた。
「一応先輩からの忠告よ。気を付けないさい。あなた女の人に後ろから刺されそうだから」
「酷いっすねぇ。そんな信用ないですか?」
後ろから刺されそうとはなんとも生々しい。
少し調子に乗ってチャラつき過ぎてしまっただろうか。
ただ、話の続きを聞くとそういうわけではなく。
「いえ、あなたカッコいいからあんまり思わせぶりな態度を取らないようにしなさい。女はみんなイケメンが好きなんだから面倒くさいことになるわよ」
ちゃんと俺のことを気づかってくれた言葉だった。
「もしかして?惚れちゃいました?」
「そういうところは普通に面倒くさいわ。はぁ、、I日2日で落ちる。そんな安い女じゃないわよ」
「そっすね」
自然と笑みが溢れる。
俺もそうなのかもしれないが、不器用な人だ。
そういうところにやっぱり俺は惹かれてしまうんだろう。
思わせぶり、か。
そう、なのかもしれない。
多分俺は。
思わせぶりで、思いがちなのだ。
色々とよろしく