まさか、絶叫系に乗れないなんてこと、あるわけないじゃないっすか
更新忘れてた。そろそろストックが尽きそうだから頑張ります。
「お待たせ」
仕事(俺の場合はバイトってかこれからが仕事)を終えたあと噴水広場と呼ばれているカップルの待ち合わせ場所として有名なところで係員先輩が来るのを待っていた。
着替えとか準備は女の人の方が時間がかかるからってのと、スタッフルームから一緒に出て行って遊ぶというのは、テーマーパークの職員として如何なものかということで、せめてもの抵抗としてここで待ち合わせをしていた。
「いえいえ、別に全然待ってないですよ。俺も来たばっかなんで」
「別に待った? とは聞いてないからそういうこと言わなくて良いのよ
「あ、じゃあ、似合ってますね」
「じゃあ、ってのは余計なのだけれど……。それにいつも通りのただの普段着だし」
「でも、制服ばっか見てたんで新鮮です。制服も似合いますけど。そういう、少し緩くした大人っぽい服も似合いますね」
「そう、ありがとう」
少し、気恥ずかしそうに顔を手で隠しながらお礼を言う。
声は平坦で冷たくも感じるけどやっぱり感情豊かな人だと思う。
「照れてますね」
「それは言わなくて良いわよ」
そしてきっぱりと言う人だからやりやすい。
職場でも信頼されてる理由は仕事が出来るだけじゃなくそういう人柄もあるのだろう。
皮を被らなくても良い人だと思われるのは凄いことだと思う。
◇
「勉強になります」
よく言えばニコニコ悪く言えばへらへらしたまま私の指摘にそう返す。
「別に私達はデートの練習をしてるわけじゃないのだけどね」
私は呆れ気味にそう返した。
ただ、そこでふと会話がフラッシュバッグする。
一人じゃダメなのよね。今何か二人限定のものが売ってたりあるのかと思ったけど。
もしかして、予行演習?
あり得ない、女の子を誘いでもしたら浮気みたいなものだ。
普通ならあり得ない。
ただこの後輩は何処か抜けているところがある。
常識が時々食い違っている感覚になるのだ。
「え、もしかして凪くん。彼女とか居る?」
「え?居ないですけど」
「そう、なら、良いわ」
良かった、そこまで常識知らずというわけじゃなさそう。
「じゃあ、行きましょっか。時間も丁度いいんで、ジェットコースター行きましょ」
そう言って手を差し出す。
一瞬戸惑ったが手を繋ごうということか。
いきなり大胆なことだ、それともそんなに早くジェットコースターに乗りたいのだろうか。
脳裏にお母さんの手を引っ張る子供が浮かんだ。
「あ、俺、着ぐるみ着てないんでした」
「ふふ、手を繋ぎたいの?」
「いえ、いや、まぁ。ノリで出ちゃっただけです。行きましょ」
◇
クスクスと楽しそうな笑い声を背中に感じながらジェットコースターの方へ向かう。
着ぐるみ越しだと手を繋いで引っ張られることも多かったが素の手で手を繋いだことなんてない。
てか、女性の手の掴み方とか分からん。
ここで運命調整局の雑学を教えてあげよう。
遊園地が初デートのカップルは別れることが多い。
なお、ちゃんとしたデータはない。
まぁ、ただ理由としては会話が続かないってのがあるらしい。
会話が続かなくたって関係次第だろと思うかもだがだからこそ『初デート』の話なのだ。
俺のオヌヌメとしては、無理に面白い話とか質問責めにするんじゃなくその場その場で他愛もない会話を探すのがオススメだ。
問題があるとしたらこの考えも今この場で考えたことってことだけど……。
「先輩はこの遊園地結構遊んだことあるんですか?」
「う〜ん、そんなには。一応全部のアトラクションは乗ってるけど。職場で遊ぶというのは案外気恥ずかしいものよ」
「へぇー、そうなんですね。まぁ、先輩あんまり遊園地とかではしゃいでそうなイメージないですもんね」
「そうかもしれないわね」
例の、ジェットコースターに着いた。
このジェットコースターに二人で乗るのが運命調整局の方の仕事だ。
今回は楽な方だ。ついでみたいなところもあるしなラッキーだ。
いや、ラッキーか?
楽とはいえ仕事中に更なる仕事が入っただけじゃね?
まぁ、断ることもできないし嫌じゃないから良いか。
「そこそこ並んでますね」
「そうね、20分ぐらいかかりそうかしら」
少し後ろを振り返ってみると例の男子、と女子が居た。
まっずいな。先に乗らないと。
「行きましょ、先輩」
「そうね、他のアトラクションも周るのよね?」
「え、まぁ、そうですね」
別に目当てはこれだけなのだが。
せっかくなら乗る方が良いだろう。
先輩を誘うことにもなったしお礼もしなくちゃな。
「ところで先輩」
「何?」
「俺ジェットコースター乗ったことないんですけど。どんな感じなんですか?」
「え、ないの?」
「はい」
「外から見えた通りなのだけど……。いえ、乗ってみれば分かるわ」
そう言って、ちょっと意地悪な笑みを浮かべる係員先輩。
「うわー、焦らしてくる感じですか。でもまぁそうですね」
先入観なしでやってみるというのも大事かもしれないな。
それから20分ほど経って俺達の順番が来た。
「はい、それでは安全バーをお下げください」
鉄のパイプにカバーつけた、安全バーとやらを前から自分の方に下げる。
一度下げきると上がらないようになっているらしい。
手すりというわけではなかったのか。
「これってどこ掴むんですか?」
「まぁ、その安全バーを掴むか……。と、いえ。その安全バーを掴むかどこも掴まないかのどちらかね」
「成る程、この安全バーか隣の人を掴むかってことですね?」
「隣の人なんて言ってないのだけど」
「と、まで言ったじゃないですか」
「はぁ、そうね。ただ、そういうのはカップルのすることよ」
「そっすよね〜」
そんな風に話しているとジェットコースターが動き出した。
少しづつ登っていく。
なんだ?全然遅い。
外でちゃんと見て来なかったから分からないけどいきなり速いわけじゃないのか。
電力とかじゃなくて位置エネルギーで落下のスピードでレールの上を走るのか。
これから落ちると思うとちょっと緊張するな。
「先輩はこういうの得意なんですか?」
「得意ではないけれど、慣れたわ。でも、久しぶりだから……」
「隣の人にしがみついちゃうかもしれないですか?」
「そうね、安全バーにしがみついちゃうかも」
ジェットコースターが頂上に到達する。
前の席の方から、視界から消えていき急降下していく。
俺は思いっきり叫んだ。
「はっはっはっははははは、はぁはぁはぁ」
「大丈夫?笑ってるの?過呼吸になってるの?」
「過呼吸っす」
「見事に安全バーにしがみついてたわね」
「舐めてたっす。あれっす。マジ、あれ、それっす」
「落ち着きなさい。まずは口調を直しない」
「は、はい。ひっひっふー」
「それ違う奴」
「スーハー、スーハー」
「大丈夫?」
「はい、落ち着きました。正直先輩にしがみつかなかっただけ褒めて欲しいです。もっと掴む場所欲しい」
落ちてみると意外と怖い。背中がゾクッとした。あの安全バー以外自分をその場に繋ぎ止めてくれるものがないと考えると大分心細い。
「まぁ、スリルを楽しむものだからね」
「別に死なないことは分かってるんですけど命を他人に握られてるような感覚が……」
全力で椅子にしゃがみ付いてくださいって方がまだ楽かもしれない。
「ふふふ」
「笑わないで下さいよ」
「ごめんなさい、なんだかあなたにも苦手なものがあるんだなって。なんだかんだ何でも飄々とこなしてたから」
「俺も、まさかここまで怖いとは思いませんでした」
「どこかで休憩する?」
「そうですね」
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