単純で明快な溢れ出る感情
「え、あぁ、そうなんですか」
それは、どういう意味なのだろう。別に好きって話でもないのだと思うけど。
急な自白に俺は思わず取り乱した。
「ふふ、取り乱した。私の勝ちね」
先輩がふっと勝ち誇るように笑う。
「揶揄われただけですか」
「んー、別にそういう訳でもないけれど、そうね。それで良いわ」
俺はなんとなく恥ずいかしくなって手元にあったお酒を飲み干した。
あぁ、俺も酔って来たかもしれない。
「先輩」
「何?」
いつもと変わらない様子で先輩が聞く。
「好きです」
俺はいつもと変わらない様子でごく当たり前のことのように。さもなんでもないかのように言った。
いつものように少し怒られるだろうか。あまり先輩を揶揄うなって。
あれ、でも返事が来ない。聞こえなかっただろうか。それとも無視して飲んでいるのだろうか。
下げていた頭を上げると、目を見開き顔を真っ赤にした先輩がいた。
顔が赤いのは酔っているせいだろうか。いや、明らかにさっきより赤い。耳まで真っ赤だ。
「ホント?」
妙に圧のある質問。
誤魔化すことも考えたいつものように笑って、冗談ですよって。
でも、多分ダメだ。それは、こういう嘘をついて仕舞えば二度とこの人に好きとは言えないだろう。
「ホントです」
「そう」
先輩は俯いてそう答えた。
それは、どういう反応なんだ!
え? 待って、これ。次職場に行った時どうすれば良いんだ。
ミスった、調子乗った。
場の雰囲気で流された。
先輩はやっぱりモテるのだろうか。こんな後輩の迷惑にも慣れっこなのだろうか。
急に気まずくて前が向けない。
先輩が見れない。
つん、と足を突かれた。
先輩の足だ。
少し迷ったが恐る恐る顔を上げる。
髪をかき揚げ耳にかけて言った。
「私も好きよ」
それは、ずるいわ。
俺は思いっきり酒を飲んだ、てか呑んだ。
「先輩おつまみ追加しましょ。お酒も!」
なんか顔が熱くなってきた……。
あー、なんでも良いから叫びたい気分だ。
「そうね」
幸いにも先輩は何も言わずに同意を示してくれた。
それからはさっきまでのやり取りは嘘だったかのように特に触れることもなく普通に会話を続けた。
それは仕事の愚痴だったりただの世間話だったり、哲学だったり……。
「んー、先輩。飲み過ぎですよ」
「いえ、私は少し醒めてきたわ……。珍しいわね。あなたがそれだけ酔っているの」
「酔ってませんよ、今日はありがとうございました」
「えぇ、私こそありがとう」
「いえいえ、家まで送ってきますね」
「えぇ、そうね。それじゃあ、お願い」