酒は飲んでも呑まれないのが剣士、酒を飲んで酒に呑まれちゃうのが社会人
「私のついだ酒が飲めないの?」
「いや、これ自分で注いだやつです」
「んー、生意気」
口を尖らせ、不服そうに言う先輩。めっちゃ可愛いけど酔い方酷いな。
最初の方は食べ物を頼みながらあまり飲まずに普通に話をしていたのだが人が増えてきたところら辺で会社への愚痴が増えてそこから急にビールの減りが早くなって言った。
天使は人間よりもアルコールの解毒が高く体への悪影響も少ないのだが。
限度はある。
既にジョッキ何杯分だろうか、流石に酔うだろ。
目が蕩けてる、いつものキリッとした雰囲気とは打って変わってゆるゆるしてる。
このギャップ並の男なら即堕ちしてるだろう。
まぁ、堕落しきってる俺には関係ないけどねー。
「あなたはきっと人生楽しいのでしょうね」
もう割と酔っている気がするのだがさらにお酒を飲みながら先輩が言う。
「え?」
「世渡り上手って言うの? 少し羨ましいわ」
「あぁー、先輩世渡り苦手そうですもんね」
「ん、うるさいわね。分かってるわよ」
少し拗ねたように言う先輩。
「まぁ、色々あったんですよ、俺も」
「私だって色々あったわよ」
「そうですね」
こうやって対面でサシでお酒を飲むと、気を使うとかそう言う感覚が弱まってくる。
よく分からない沈黙も何故か心地良かった。
居酒屋の喧騒とか先輩の赤い顔とかそういうのがたまらなく好きで思わず笑みが浮かぶ。
「まぁ、でも。あなたがいてくれて良かったわ」
先輩が一人納得したように言う。
「俺も先輩と会えて良かったです」
「んー、本当に思ってる?」
「勿論」
本当に幸運だった。色々と文句は言ってるがもし何かの間違いで時が戻ったとして俺は結局もう一度この職場を選ぶのだ。
「そう」
嘘と思われただろうか、先輩の反応は淡白なものだった。いや、いつも通りか、自分一人で噛み締めないで欲しいなぁ。
「ねぇ、ナギ君」
「何ですか?」
「なんでもない」
え、そんないたずらっぽいことするの、先輩。
可愛い。
「あのね、私いつも、あなたより。早く職場に来るでしょ。それに、この前も夜残ってたのは」
先輩はそこで一度、言うのをやめお酒を一気に飲んだ。
「あなたにおはようと、それからおかえりを言うためなのよ」