日常に戻る日はよく分かんないけど気持ち悪い
ちょっとまだ待ってください
あの後、あの後ってのはつまり天界に帰ってきてデスクに座って少し先輩と話をした後。
あの後は普通に仕事を終えて深夜に家に帰った。
今度はゲームをするなんてことなく眠りに入った。
「おはようございます」
「おはよう、ナギくん」
先輩に挨拶をしてデスクに座る。
何というかいつも通りだ。
感覚で言うなら修学旅行の次の日の学校みたいな。
まだ、感傷に浸っていたかったと思う反面日常に戻った安心感もないわけではない。
やっぱりちょっと気持ち悪い。
「もうちょっと、視察したかったです」
係員先輩がくれたキーホルダーを眺め気の抜けたことを言う。
「何?その先輩が恋しいの?」
「いや、そうっちゃそうですけど。それだったらまた先輩の隣で働けることも嬉しいですよ。急に日常に戻るから、もうちょっと切り替える時間が欲しいだけです」
「それで休んだら今度は休みからの切り替えの時間が欲しくなるんでしょ?」
「そうなんですよね〜」
「少し、仕事すればすぐに直るわよ。ほら、明日は、ご飯食べに行くんでしょ?仕事で来れないなんてやめてよね」
そうだ、そうじゃないか。
明日は先輩とご飯に行くんで今日はその繋ぎみたいなところある。
久しく金曜日にワクワクを感じていなかったが久しぶりに感じてきた。
「どこ食べに行きます?」
「そうね、その。飲みに、行かない?」
「飲みにですか?良いですよ。というか、そうだと思ってました」
「前と同じ場所に、飲みに行きましょ」
「分かりました。今から楽しみにしときます」
「ええ、そうしてちょうだい」
やっぱり先輩お酒好きだなぁ。
まぁ、天使は人よりアルコールの分解ができるからあんまり害もないし大丈夫だろうけど。
先輩は他の人ともこうやって飲みに行ってるのだろうか。
まぁ、だったらなんだって話しだしな。今は、仕事だ。
何故か、こういう日に限って急な仕事は入らなくてしばらくは急な日常に違和感を感じながらも俺は仕事を終わらせていった。
昼休憩になり俺は外に出た。
「さーて、何食べに行こっかなぁ」
「良かったら一緒に食べに行かないかい?」
「え、上司とご飯とか死んでもごめんなんですけど」
「それを面と向かって言える君にとっては余裕なんじゃないかな?」
いつの間にか隣にいた神が声をかけてくる。
体が子供だから見えないんだよなぁ。
「えぇ〜、一人で食べたい気分です」
「まぁまぁ、そう言わずにさ。奢るよ」
「よし、行きましょう。俺焼肉が良いです」
「今昼だからね?」
昼間から焼肉を食べて何が悪い。
まぁ、お酒は流石に飲めないからなぁ。
「僕の行き付けの定食屋があるんだ。そこに行こうよ」
「まぁ、良いですよ」
大丈夫かなぁ、神に定食屋に連れて行かれると消されるとかいう噂流れてないだろうか。その場合俺は今すぐ回れ右するのだが。
定食屋かぁ。良いかもな、何が食べたいって訳じゃないし色々選べるのは有りだ。
最近はバリエーションも決まってきて飽きかけて来てたから丁度良いな。
神が前を歩くのに合わせ後ろを歩く。でも歩幅が小さいから、ちょっと詰まるな。
別に前を歩いちゃ行けないというわけではないが目的地を知らないからな。
少し歩くと普段はあまり行かない場所にきた。
てか、俺の行動範囲が狭すぎるのか。
珍しさに少し周りを見回しているといつの間にか神が少し前にいた。
「ん?」
少し物色しすぎたか?
小走りして追いつこうとしたが近づいた分神は前に行く。
「いや、何故、奢られようというときにこんなトリックみたいなのを仕掛けられてんだ」
さて、どうやら間違えたらしいな。
神のことを見失ってしまったらしい。
え〜、今回、日常回じゃないのかよ。
んー、思い出せ、いつから違和感を感じてた?
ダメだ、違和感とか感じてなかったわ。
「あぁ、でもそうか。もう着いてるんだ」
だから神は案内をやめたのか。
一人納得した俺は暖簾を潜った。
「やぁやぁ、遅かったじゃないか」
「ちゃんと案内してくださいよ」
「案内はしたさ」
「いらっしゃいませ」
店長さんが挨拶をしてくれたのに会釈を返す。
店は全体的に落ち着いた雰囲気があって安心感がした。
「さっきのはこの場所が特殊なんですか?」
「はい、誰かに案内されても辿り付けないようにしてます」
客を拒んでる店ってなんなんだ。
そしてそんなところに誘った神はやはり性格が悪い。
「まぁ、貴方みたいに辿り着けちゃう人もいるんですけどね」
店長さんが苦笑しつつ言った。
「そうだね、流石は神候補だ」
俺と店長さんの会話に口を挟んできたのは神。
もしかして、そんな話をするために呼んだのか。
猛烈に帰りたくなってきた。
「なんで知ってるんですか、神候補じゃないですよ。神候補の候補です」
天界のそこは少し面倒くさいのだ。
まぁ、その話はおいおいするとしよう。
「すいません。この店で一番高いのを二つ、お願いします」
「容赦ないな!君」