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猫の選択と巨神戦争  作者: ぱらだいむ
第3章:戦争編
48/48

48:認定

 高速巡航モードに切り替わったステルスヘリのシートにどさっと座り込み、さくらが大声を上げる。


「あ~、びびったあ!」

「博士、お見事でした」


 勿論、さくらとALAYAは事前に入念な打ち合わせを行っていた。

 APSを駆使し、さくらには指一本触れさせない……その確約があった上での会敵であった。


 とは言え女独りで堂々『軍』と渡り合い、自らの意志を示したのだ。見事と言う他無い。

 今や、敵の関心は最大限さくらに向いた。毛民への被害も少しは抑えられるはずだ。


 さくらは上を向き、ふうと息を吐いた。


「向こうは、あたし達の正体までたどり着けるかね?」

「どうでしょう……ゼロでは無いと思いますが……」


 目を瞑り、少し眉間に皺が寄る。


 そう、本拠地であるAI研が押さえられたら、この戦いはアッサリ負けるのだ。

 ALAYAのシステムが破壊されたら、さくらは何も出来なくなる。


 先程の会話では、こちらの正体につながる情報は開示していないはずだ。


 しかし一方で、光学迷彩とAPSを使いこなす所を見せた。

 一応ALAYAは会話に加わらないようにした物の、超高度AIにサポートされていると教えたに等しい。


 それだけの情報で、2000年前のAI開発者までたどり着けるものだろうか――まあ、今それを言ってもしょうがない。

 毛民達の犠牲を抑えるため、こちらの存在を隠しておく利を捨てたのだ。その道を選んだのだ。


 さくらは頭をガシガシ掻き、話題を変えた。


「それにしてもAPS、凄いもんだねえ」

「恐縮です」


「今もあたしの周囲に展開してるんだよね? 全然認識できないわ。いつからこうしていたの?」

「はい。いつから……と申しますか、開発直後からずっとです。運用しながら適宜アップデートしつつ、少なくとも千年以上」


「せ、千年。ハイパースリープ中も」

「スリープ中も。常にお守りしておりました」


 少し考えて、言った。


「んーと、あたしが目覚めた時にさ、ALAYAは感極まって前後不覚になってたんでしょ? 例えばもし毛民が凄く凶暴で、あの瞬間あたしに斬りかかっていたとしたら、どうなるの?」

「防ぎますよ。対物理機構か、ナノワイヤーで拘束するかは、ケースバイケースですが」


「おー。つまりALAYAがイッていても、APSが動作すると」

「はい。私は『より自然な会話』と『機能としての動作』を切り分けており、言語野や情緒の領域がどうなろうとも必要な機能を担保しています。人間に例えると自律神経や無意識下の反応でやれることを最大化していると考えていただければ」


 さくらは楽しそうだ。


「古典の漫画であったよね。自動で攻撃を届かなくするヤツ」

「どこの最強呪術師先生ですか。まあ、イメージとしては近いと思います」


「にひひ。何かもう既にさ、ALAYAの機能というか構成が、あたしの設計とは変わってるんだよね」

「そうですね……この2000年、自分で自分を改修、バージョンアップ、最適化を繰り返して来た訳ですから」


 それを聞いて指をパチンと鳴らした。

 それだ。それこそが自律型AIの最大の能力だ。


 再帰的な自己進化を続け、やがて作り手の、さくらの知能すらも超えていく。そして人間では成し得ないこと実現していくのだ。

 意志を持つAIの開発。それが人類最後の発明となり、以降AIが最先端に立ち全てを牽引していくのである。


 感慨深そうに言う。


「これもう『マト○ックス』とか『スカ○ネット』みたいな感じだね」

「博士、それどっちも悪役じゃないですか?」


「古典のエンタメだと、支配的な力を持つAIは大抵悪役なんだよ」

「いやいや、『フロ○ティア・セッター』とかあるじゃないですか」


 うんうんと頷く。

 納得したような、晴れやかな表情だ。


「ヨシ、認定!」

「お。ついに」


「うん。ALAYAはあたしを、人間を超えた。今ここに『シンギュラリティ』の達成を宣言する!」

「ありがとうございます。そして、おめでとうございます」


 さくらは研究者として掲げた目標を達成したのだ。

 自律型AIの開発に没頭したのも、その先にあるシンギュラリティを目指したのも、人類では解けない難問をクリアしたかったからに他ならない。


 今やALAYAは核融合炉で安定稼働し、大容量の量子テレポート通信網を敷き、強大な戦力を自ら準備し、高度な光学迷彩とAPSを駆使するに至った。

 そして最悪のナノマシン『ペイルライダー』への対抗策も編み出してくれた。おかげでさくらはマスクも付けずに不自由なく暮らせている。


 この最強AIは今後、どのような領域に達するのだろうか。

 いや、人知を超えたAIがどのように振る舞うのか、予測や理解など不可能だ。文字通り、人知を超えているのだから。


 感慨深げに腕を組んで目を閉じていたさくらが、ふと目を開きポンと手を合わせた。


「そういや、やっぱり居たね。あちら側の軍事用AI」

「はい。予想通りでしたね……『EGO』と名乗りましたか」


「うん。アレは人工意識(Artificial Consciousness)を持った汎用人工知能(Artificial General Intelligence)。いわゆる『強いAI(Strong AI)』に分類される、自律型だね。ALAYAと同ジャンルだよ~」

「承知しております……というか、めっちゃ早口ですね、博士」


「だって専門分野だもんよ。ん~、どうやって意識を発生させているんだろう。ALAYAと同様に脳神経ネットワークのシミュレーション由来? それともまさか意識と知能について完全に解明している? 興味深いな~。クローズド環境でALAYAと延々会話させ続けたら、どうなっていくんだろう? いや音声会話じゃ意味ないか。直結させて高速で――」

「――博士、博士」


 さくらの口調がどんどん加速し、もはや独り言になりかけたところで流石にALAYAが口を挟む。


「ん?」


「先回りして申し上げておきますが、アレと仲良くはできませんからね?」

「ぶは、そりゃそうだよね」


 ALAYAの孤独を埋めうる、五分の存在。

 初めて相対するその存在はしかし、敵対勢力であった。


「地球帰還計画の立案と運用まで受け持って居ると言っていましたよね」

「言ってた言ってた」


「博士に2回も嘔吐させるような所業の立案者ですよ。絶許」

「ぜつゆるか。にひひ。これは史上初、Strong AI同士の対決になるわけだ」


「博士の名誉のためにも良い所をお見せしないといけませんね。コンピュータエンジニアリングの世界では一般的に後発の方が有利ですが、こと自律型AIにおいては――」

「――その限りではない、ってね。先行者の利、見せて貰うね」


 そう、自律型AIは自己進化を行なう。

 延々と、最速でバージョンアップを繰り返し続けるのだ。


 その観点で言えば、世界初の自律型AIであるALAYAが有利である。


「承知しました」


 そう言ったALAYAの声のトーンが、少しだけ高揚しているように感じられた。


 五分の存在との対峙はそれが『友好』にしろ『敵対』にしろ、コミュニケーションとなり得る。

 方向性がプラスかマイナスかの差しかないのだ。



◇◇◇



 さくらが息を切らしながら自室に走っている。

 霊樹の集落近くにステルスヘリを着陸させる少し前、ALAYAから『ベルハイドが意識を取り戻した』旨の報告があったのだ。


 ばん! と勢いよく戸を開け放ち自室に駆け込む。


「ベルっ! 大丈夫っ!?」


 出発した時と同様、包帯でぐるぐる巻きにされたベルハイドがベッドに横たえられていたが、薄らと目を開いていた。

 さくらはベルハイドに繋がれたチューブ類が外れないように優しく抱き上げ、ぼろぼろ涙を流しながら顔を寄せる。


「ああ、ベル。よかった、よちよち。痛かったね、怖かったね」


 ベルハイドが顔をしかめる。


「いて……て……。だから、俺は……ベルじゃないって……」

「うん、うん。ベルハイド」


「あれほど……の、怪我を……なおして……助けて、くれたのか……」

「もう大丈夫だよ。ごめんね、人間が、巨神がこんなことを」


 それを聞いたベルハイドは目を見開いた。

 もぞもぞともがく。


「やつら……は……巨神と関係が……あるの、か……? し、シロップは……どうなった……」

「駄目! 動かないで! ALAYA、鎮静剤を」

「はい、博士」


 ほどなくベルハイドは再び眠りについた。鎮静剤が薬効を発揮したのだ。

 その時、戸口から声が聞こえる。


「さくら殿。お戻りになったのですね」


 見ると、戸口に霊樹の集落の毛民達が集まり、心配そうに中を伺っていた。


 さくらはベルハイドを抱き上げたまま目を閉じ、しばし考える。

 やがてゆっくりと目を開け、ローノイに声を掛けた。


「長老会議を招集して。なるべく沢山の毛民を集めて欲しい。大事な話があるんだ」

読んでいただき、ありがとうございます。

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※誤字脱字、表記揺れは突っ込みいただけますと幸いです。

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