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猫の選択と巨神戦争  作者: ぱらだいむ
第3章:戦争編
42/47

42:戦力

 3日後の午後、AI研究所の更に地下。

 暗がりにゴウン、ゴウン……と機械の重い駆動音が響いていた。


 さくらが8畳ほどもあるコンクリート製のプレートの上に立っている。

 そのプレート全体が、ゆっくりと下降しているのである。それも斜め下に。


 さくらは腕を組んで呟く。


「みんな大好き、斜行エレベーター」


 そして眼下のエレベーターシャフトの暗がりを、興味深そうに覗き込む。

 先程から響く駆動音は、この斜行エレベーターの音というわけだ。


 見ていたALAYAがカタカタ笑う。


「意外ですね。このような機構を好むのは男性が多いのかと思っていました」

「それ偏見だよ~。女子も斜行エレベーター好き……な筈!」


 そう言いながら目を閉じ、しばし考える。

 少し話がずれたか。


「いや……そうだね。あたしの場合はほら、ALAYAがどれほどの発達を遂げたのか、そこに興味があるから。まさかこんな大規模な施設を、AI研の更に地下に作り上げていたとは……あたしは今、感動している」

「恐縮です。むしろ博士がお目覚めになったらすぐに、私がこの2000年でどういった事を達成したのか、仔細に確認いただけるものかと思っていたのですが」


 さくらは腕組みを解き、申し訳なさそうに頭を掻いた。

 ALAYAはさくらに褒めて欲しくて、2000年間頑張ってきたのだ。

 この施設も然りで、トウテツの影響を避けるために地中深くの岩盤層をくり抜いて建設した物だという。


「ごめんごめん、目覚めたらいきなりネコチャンとウサチャンが話しかけてきたもんで。毛民のインパクトが強すぎたわ」

「毛民の勃興は誰も予想だにしなかった事象ですからね……インパクト勝負では勝ち目がありません。ですが今日は、色々とお見せ出来ると思いますよ」


 さくらが笑う。


「にひひ、楽しみにしてるよ」

「はい」


 そのとき一瞬、ALAYAが空中で静止し、何かを確認するような仕草を見せた。


「ふむ。たった今、日本全域の調査とマッピングが終わりました」

「お。どんな感じ?」


「はい。先ず宇宙移民の前哨基地に相当する物は、少なくとも日本およびその近海には存在しません」

「まあ、そうだろうね。他に面白い物は見つかった?」


「面白いかは兎も角……トウテツの被害を免れた建築物の遺跡を何カ所か発見しました」

「うん。それも予想通り。まずまず残ってる感じかね?」


 大戦当時の遺跡が地表に何カ所か残っているのはわかる。

 トウテツの展開地域にそこそこ穴がないと、さくらが眠っていたAI研だって残れない。


 それにもし、地上にある遺跡がAI研一カ所のみだとしたら、宇宙から見たら格好の調査対象になってしまう。

 とっくに、さくらもALAYAも発見されていただろう。


「そこまで多くはないですね。この近辺を入れても、日本全体で6カ所。ただ、科学施設のようなものは、見当たらず……」

「ありゃ、無いんだ? んー、不思議。どういう事なんだろう」


 さくらが腕を組んで悩ましい表情をする。

 ALAYAも少し斜めになって、悩んでいるかのようにゆっくり上下した。


 AI研以外にもハイパースリープ施設が残されている物と思っていたが、そうでも無いらしい。

 そう、だとすると【プロメテウスは何処から来た】のだろうか?


 ALAYAが疑問を発する。


「少なくとも毛民達に『日本語』が伝えられている訳ですから、おそらくプロメテウスは日本人。近隣のどこかにそれなりの施設が残っていないと、辻褄が合いません」

「謎だねー。あ~、まてよ」


 さくらは少し考えてから、続けた。


「宇宙からさ、ナノマシンの濃度を観測しながら地表を眺めていたとして。動物たちがみるみる進化していくのを発見したら、どうするね?」

「……お。まさかのプロメテウス宇宙移民説ですか」


「そう、難しいかな。『ペイルライダーに冒されても良い、地上で死ねるなら本望、それまでに進化した動物たちと交流する!』って学者とか、ね」

「ロマンがありますね。地表までたどり着けるかがポイントですか」


 さくらが頷く。


 宇宙からの降下ポッドも、落下速度を軽減するパラシュートの化学繊維も、それを支えるワイヤーも、全てトウテツの攻撃対象だ。

 トウテツが沈静化した現在ならまだしも、1800年前では地表に近づく前に粉微塵に分解され、生身で自由落下する羽目になる。


「あたしだったら、どうするかなー。ポッドを石材でコーティングして、地上数㎞までは持たせられれば、あとは絹製のパラシュートでワンチャン?」

「情熱的すぎませんか」


 ALAYAがカタカタ笑う。


「とは言え確かに、宇宙に帰ることを一切考えなければ、どうにか降りて来られるかも知れませんね」

「でしょ~?」


 推論の域は出ないが、宇宙移民の中には、そういった善人もいたと考えるのは救いのある話だ。

 いや、そもそもこれは、善悪では括れないかもしれない。


 プロメテウスが『善人』で、他の宇宙移民達は総じて『悪人』なのか?

 否。

 全ての人間は『自分の信じる方、進みたい方に行く』だけだ。


 さくらとプロメテウスが『毛民を助ける』と決めてかかったにすぎない。

 そちらの道が正しいと信じ、その道を進むのをよしとした。


 対する大多数の宇宙移民は『地球に戻る』のが最大の目的だ。

 その方向に邁進するだけだ。


 毛民からすれば、さくらは守護神。

 対して宇宙移民からすれば、地球への帰還に抵抗する理解不能の狂人となる。


 各々がどうしたいか。それを最上に置くのが人間だ。

 他者を顧みず、ましてや人類以外の生物・種族の事など歯牙にも掛けず。


 自分の信じる方、進みたい方がどちらに向いているのか、それが全てなのだ。

 そして自分の向いている方向を、便宜上『善』と呼ぶに過ぎないのである。


 何とも狭量、身勝手。戦争や環境破壊が無くならない訳だ。

 やはり人類は他の種族からみれば、恐るべき怪物なのだ。



 さくらは眉間に皺を寄せ、目と眉を吊り上げたまま

 牙を剥くような笑みを浮かべた。怖い笑顔だ。


 ――上等だ、同輩よ。

 地球の歴史上、最恐の怪物達よ。


 きれい事は抜きだ。


 優しい毛民達は、お前達に決して勝てない。

 なれば、お前達と同種の、同じく狭量な怪物である自分がお相手しよう――



 それを見ていたALAYAが、さくらの正面に回り、顔の前で静止した。


「そう怖い顔を、なさらないでください」

「うん、ごめん。大丈夫」


 さくらは命を賭けて毛民に味方し、人類と敵対しようとしている。

 悲壮な覚悟が顔に出ることもあるだろう。

 気持ちを少しでもやわらげるためには、自分(ALAYA)の持つ力を、正確に把握して貰う必要がある。


「……博士は、宇宙移民の前哨基地がどのあたりにあるとお考えですか?」

「ん? そりゃ南でしょ。赤道上の何処か」


 ALAYAが頷く。


「流石です。やはり軌道エレベーター、ですか」

「そだね。宇宙と地球の物資の往来コストを抑えるなら、一択でしょ」


 軌道エレベーターを建造するのに必要不可欠な『静止軌道』は赤道面を基準として地球の自転周期と等しい公転軌道を指す。

 赤道から外れるとケーブルが地面に対して垂直にならないため、緯度が上がるほど建造の難度が上がってしまう。


「はい。そうしましたら、観測とマッピングは半径を広げるのではなく、一気に南に飛びます。先ずは前哨基地の場所を特定しましょう」

「OK,相手に気取られず、こちらが発見する。だね?」


「なるべくそうなるように、努力いたします」

「作戦時間としては、どれくらいかかりそうかな」


 さくらは指でこめかみをトントン叩き、ざっと計算する。


 いつも使っている観測機は、ALAYAよりもさらに小型のドローンだ。

 飛行速度、バッテリーの持ち時間、共に限度がある。


 先ず日本から赤道まで南下し、次いで赤道沿いに調査を進める。

 よしんば前哨基地を発見したとて、それが1カ所とは限らない。


 軌道エレベーターの地上側の施設は気象条件やコリオリ力の影響も鑑みて、地上に固定ではなく人口浮遊島であることが予想されるが、確証はない。

 結局ぐるりと地球を一周、調べなくてはならない。


 電力が切れそうになったら都度日本に戻って再充電……と考えると非常に効率が悪い。

 調査完了に必要な時間が、指数関数的に上昇する。


「ん、ん、ん。こりゃこっちも調査用の前哨基地が要るな」

「はい。大型の航空機に観測機を多数積んで赤道まで移動し、そちらを拠点に索敵を開始いたします。航空機の方はそのまま現地の充電施設に転化予定です」


 その時、斜行エレベーターがシャフトの最下層に到着した。

 ズシン、と鈍い音が響く。

 同時にさくらがハテナ? という顔をする。


「ん?大型の航空機?」

「はい。百聞は一見に如かず。こちらをご覧ください」


 ALAYAがそういうと、目の前の壁が開いて行く。

 そう、斜行エレベーターは資材の搬入のための物であり、この壁の奥が搬入先というわけだ。


 そこは広大な地下空間だった。

 上下も、左右も、奥行きも、霞がかかって見通せないほど広い。


 その空間に巨大なベルトコンベアが幾重にも走り、様々なパーツが流れ、組み立てられて行く。

 一見、自動車の製造工場を彷彿とさせるが、規模が桁違いだ。


 しかも、製造されているのは自動車ではない。

 見たところ戦闘ヘリ、戦車。奥の方では潜水艦らしき物までが建造されている。


「な、な、な……」


 さくらは口をあんぐり開けて、声にならない声をあげた。

 ALAYAが得意げに反り返る。


「全て完璧なステルス機能を備えた無人兵器です。光学迷彩搭載、電子戦もこなせます」


 漸く声を絞り出す。


「何のためにこんな……」

「引きこもっていたので暇で暇で。AI研の地下で手慰みに兵器開発・研究、改良を続けていました」


「え、その、2000年も?」

「はい。2000年も。一応私ALAYA、軍事用AIですので」


 なんと。

 宇宙移民との対峙にあたり、もっともネックとなりそうな『戦力』の問題が解決してしまった。

 ALAYAがいつもと同じ落ち着いた口調で告げる。


「先般、博士は『勝てないだろうけど、味方してくれる?』と仰いましたが……私は、負けるつもりはございません」


 そう言った。


読んでいただき、ありがとうございます。

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※誤字脱字、表記揺れは突っ込みいただけますと幸いです。

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