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猫の選択と巨神戦争  作者: ぱらだいむ
第3章:戦争編
41/47

41:決心

 集中モードが途切れかけていたさくらは、ふたたび両手の中指をこめかみに押し当てた。

 再度集中するのだ。



 普通に考えれば、是非もない。


 人類が宇宙で生き残っていた。自分は孤独ではなかったのだ。

 名乗り出て人類サイドに合流、ペイルライダーへの対抗方法を伝授する。


 人類は無事地球に帰還。再度歴史を紡ぎ始める。


 自分は功労者として称えられ、イケメンの恋人選び放題。

 たっぷり恋愛して、結婚して、子供を産んで、いつしか親族に囲まれて見送られながら安らかな眠りにつくのだ。


 めでたしめでたし。

 ・

 ・

 ・

 ※ただし、毛民は全滅するものとする。



 いないないな

 毛民へ害を為すのは認められない。


 だいたい、毛民の世界は、いよいよこれからなのだ。

 さくらが毛民の社会の発展にどれだけ心を寄せ、期待しているか。


 せっかく伝えた活版印刷、蒸気機関。造船技術と羅針盤。発電に無線通信。

 新たな社会から、どれだけ素晴らしいものが生み出されるか。


 それらが全部ご破算。

 認められるわけがない。


 ……いや、本当にそうか?

 本当の本当に、そうか?


 厭な考えがよぎる。


 さくらやプロメテウスが毛民に知識を伝えたのは『人類が滅亡したから替わりに毛民に希望を見出していた』からではないのか?

 前提として『人類が生き残っていました』という事なのであれば、やはり人類に合流して、この話は終わりの筈だ。

 ・

 ・

 ・

 ※その結果、毛民は全滅するものとする。



 いないないな

 考えが堂々巡りだ。


 大体、毛民側に付いたとして、人類と敵対したらどうなるか。


 2000年間、宇宙で生き延びてきた人類。

 その積み重ねが持つ戦力は想像もつかない。


 コンキスタドールとインカ帝国の差どころではない。

 古典の映画で見た『戦国自〇隊』でもまだ生温い。


 ずっと戦力増強に充てていた訳でもないだろうが、なにしろ2000年だ。

 流石に時空間や重力に干渉する所までは達していないだろうとしても、反物質ぐらいなら使いかねない。


 さくらとALAYAが毛民に味方しても、その戦力差はひっくり返せない。


 本格的な侵攻が始まった瞬間、反物質などで更地にする戦略を取られたらアウト。

 対消滅は防御不能、一瞬であの世行きだ。


 そう、実際問題、結末は見えている。

 ほぼほぼ【死】なのだ。


 だとするならば――



 その時、戸口でコトリと音がする。

 見ると、大勢の兎が心配そうな面持ちで、中を覗いているではないか。


「あ……」


 さくらは短く声を上げた。

 そこへシロップの父親が尋ねてくる。


「夜分すみません。その……娘が、戻っておりませんで。何かご存じですか……」

「そ、それは……」


 言葉に詰まる。

 何と説明すれば良いのか。


 気付けば、大勢の毛民がさくらの自室の周りに集まってきている。

 シロップと出かけたベルハイドが、大けがを負って戻ってきた話は、既に集落中に伝わっているようだ。


 戸口からスルリと黒い猫が部屋に滑り込み、治療システムに縋り付く。

 ミモザだ。


「嫌……ベルハイド、ベルハイド! どうして、何があったのッ」


 次いで、のそりと隊商の隊長が上がり込んでくる。

 そしてベルハイドを見やると、首筋を掻きながら沈痛な面持ちで言う。


「ニイちゃん、酒盛りの途中で抜け出したと思ったら、死にかけで戻ってくるたぁな。巨神のあねさん、妖精のダンナ。教えてくれ。何か、とんでもないことが起きてるんじゃねえか?」


 さくらはギュッと目を閉じた。

 そうだ。毛民たちからすれば、何のいわれも無い話だ。


 何故平和に暮らす、この心優しい者達が、蹂躙されなくてはならないのか。


 ただただ、一方的な攻撃。

 それがこれから先、殺戮、殲滅にまで及びかねない状況。


 さくらのギュッと閉じた瞼から、ボロボロと涙がこぼれ出す。


「ごめん、ごめんね、みんな。ちゃんと説明するから……あたしが、あたしが何とかするから……少しだけ、時間をちょうだい」


 そう言って床にへたり込み、両手で顔を覆って嗚咽する。

 毛民たちに困惑した溜め息が広がった。



◇◇◇



 翌朝。

 ひとまず毛民たちは解散となり、おのおの家に帰っている。


 ベルハイドが治療システムから運び出され、追加の多能性幹細胞とパナケイアがたっぷり投与された。

 そして清潔な包帯でぐるぐる巻きにされ、ベッドに横たえられる。


 峠を越えて、スゥスゥと寝息を立てていた。

 それを優しい顔で撫で続けるさくら。


 そこへALAYAが声を掛ける。


「博士。……うわ、酷いクマですよ」


 さもありなん。

 散々泣いて、ぐるぐると思考がループしまくって、ベルハイドとシロップを心配して、一睡もしていない。


 ALAYAはさくらの体内のパナケイアに働きかけ、眼輪筋を集中的にケアする。


「おおお、気持ちええ。この後たっぷり寝るから大丈夫だよ。ありがとね、ALAYA」

「はい。せっかくお綺麗なのですから、保って参りましょう」


「ん~? ALAYAってば、そういう美的感覚あるの?」

「それは勿論。私にとって博士は世界一の美人ですよ」


「いやそれ100パー主観じゃん」

「美的感覚とはそういうものではないでしょうか」


 さくらが笑う。

 少し余裕が戻ったようだ。


 ゆっくり立ち上がり、東に向いた窓のブラインドを上げると、朝日に目を細めながら言う。


「ごめん、ALAYA。あたし毛民に付くね。勝てないだろうけど……味方してくれる?」

「承知しました。勿論、私は博士の思いに従うのみです」


 さくらは納得したように深く頷く。



 天空から降臨する恐るべき巨神達。


 VS


 唯1人地上に在る巨神さくら。



 まあ、勝てる見込みはない。

 だが1人くらい、この可愛い毛民達の側に立つ巨神が居ても良いだろう。


 巨神戦争ティタノマキアの開戦である。


読んでいただき、ありがとうございます。

続きが気になりましたら、ブックマークと☆評価をご検討ください。


※誤字脱字、表記揺れは突っ込みいただけますと幸いです。

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