40:分析
その時、ALAYAが1機と観測機が2機、現場に到着する。
「ベルハイドとシロップが出かけたという裏山に現着しました」
「……っと、慎重にね、ALAYA」
「はい」
ALAYAは観測機を使い、電波探知、赤外線探知を展開する。
しかし、何もかからなかった。
――だが勿論、油断は出来ない。
ベルハイドとシロップが聞いたという、高音と低音。
その正体に、なんとなくALAYAはアタリをつけていた。
それは相手が『電子戦』を想定しているということだ。
ミサイルロックオン技術で使われる電波ホーミング誘導や光波ホーミング誘導への対抗。
電波探知、赤外線探知、反響定位へのジャミング。
そういった電子戦を想定した機器が奏でる音。
おそらくは一般的に人間が聞き取れる範囲の周波数(可聴域)外の、僅かな音なのだろう。
しかし聴力に優れた毛民には、その音が聞こえたのだ。
……だとすれば、その音が手掛かりとなるはずだ。
ALAYAは全指向性収音マイクの感度を引き上げ、慎重に周囲の環境音を分析する。
しかし、怪しい音は聞こえない。
相手の一団は既にこの場から立ち去っているのだろうか。
いずれにしろ検知できないのであれば、あとは近距離で目視する他に手立てがない。
だがベルハイドから『相手は景色を歪めて姿を隠している』という証言もあった。
これは『光学迷彩』をも使いこなしていると言うことだ。
さらには新月という、極端に暗い夜での行動。
こうなるともう、相手のやっていることは『軍事的な偵察』に他ならない。
基本的に高度なステルス状態で行動する。
用心深い。
ALAYAは相手の行動ロジックに自分との相似性を感じていた。
つまり、相手の行動を決定しているのは『軍事用AI』である可能性がある、ということだ。
だがそれ故に、ノコノコ出向いて見つかるという愚を犯す訳にはいかない。
もし現状が軍事用AI同士の探り合いであるならば、後れを取るなど、あってはならない。
さくらも見守るこの状況では、なおさらだ。
ALAYAはユビキタスに働きかけ最大限の防音を実行した。
同時にプロペラを止め、静かに地上に降りる。
観測機も着陸させ、この場に残す。
そして腹からシャカシャカと何本もアームを出すと、多脚の蟹や蜘蛛のように歩いて移動を始めた。
それにしても暗い。
ALAYAは自分のカメラの設定を微光暗視装置に切り替えた。
些か前時代的な方式であるが、一般的な暗視カメラは赤外線を利用するので、おそらく対策されている。
先ほど観測機から裏山全体を赤外線探知した際に何もかからなかったので、どの道、今回の索敵には役立たないだろう。
ALAYAは慎重に、目視による探索を進めていく。
そしてほどなく、山の裏手の広場に到着した。
ごうごうと、崖の先にある急流の音がここまで響いている。
おそらくベルハイドとシロップが襲われた広場というのは、ここの筈だ。
ALAYAは慎重に周囲の音を分析しつつ、光学迷彩に用心しながらあたりを見渡した。
――何もいない。
相手はすでにこの場から立ち去っているようだ。
そうなると問題は『どのように立ち去ったか』にある。
相手の本隊が宇宙に居るとするならば……いや、まさか大気圏外から飛来し、また大気圏外に飛び去ったとでもいうのか。
さすがに大気圏外に脱出できるレベルのロケット噴射を隠蔽できるわけが(逆に言うと検知できないわけが)ない。
となると……。
ALAYAはマッピング済みである周囲の地形を改めて確認する。
山の中腹の広場。一方は山肌、一方は崖。周囲は森林。
航空機が滑走するスペースはない。
つまり滑走を必要としない、垂直離着陸の能力が必要だ。
ALAYAは周囲を見渡し、下草が放射状に薙ぎ倒されているのを確認した。
「これは……」
現場のALAYAと、さくらの部屋にいるALAYAが、同時に呟いた。
「ん? 現場はどんなかんじ?」
「はい、博士。これは、ちょっと不味いですね」
「んん?? というと?」
「相手はすでに裏山にはいません。そして、相手の移動手段はヘリコプター、もしくはティルトローター機です」
それを聞いたさくらが、むっ……と黙って難しい顔をする。
何が『不味い』のか、一瞬で悟ったのだ。
「つまりその……『相手はヘリやティルトローターで飛び回ってもALAYAに検知されないレベルのステルス能力を持っている』『その手の航空機で移動しているということは、すでに地上のどこかに活動拠点が設けられている』『これまで検知できていなかった以上、いつから地球への介入が始まっていたのか分からない』……てことね?」
「はい。その通りです。唯一の救いは……我々の存在が悟られていない事ですかね」
さくらが頭を掻きながら頷く。
毛民たちが言う『神隠し』は人類による『地上生物のサンプル採取』の一環であると思われる。
つまり本格的な介入はまだ先の話で、現状は調査段階で間違いない。
宇宙移民たちの最大の問題点はペイルライダーの存在だ。
如何にして、かの殺人ナノマシンに対抗するか。
そんな状況で『何故だかペイルライダーを克服した女が地上をウロウロしている』のが見つかったら大騒ぎになる。
調査段階も何もない。初手で確保に動くだろう。
さくらは腕を組み、低い声で唸る。
「んむむむ……期せずして最重要人物になっちまった。でもって人類生き残っていたのが確定、地球へ戻ろうと色々画策が始まっているのも確定。あたしと同世代のイケメンおるんかな……とか言ってる場合じゃないんだよな」
渋い顔をして言った。
ALAYAも頷く。
「はい。では伺いますが博士、どちらに付きますか? 『生き残っていた人類』か『毛民たち』か」
「んぎっ!」
悩んでいる命題を言い当てられてしまった。
そう、もっとも懸念されるのは『人類と毛民の、本格的な敵対』である。
「その……仲良く共存――」
「無理です」
喰い気味に否定された。ALAYAが続ける。
「人間同士ですら、宗教、社会不安、政治的主義、わずかな文化・肌の違いなどを理由に、何処までも残酷に振る舞ってきました」
「そ、それは、そう」
「インカ滅亡、魔女裁判、ホロコースト、ホロドモール、クメール・ルージュ。挙げ連ねたら一晩かかります。二次大戦では非戦闘員の市民に核兵器を2回もぶっ放す。終には三次大戦でナノマシンを投入して、この有様」
「あー、うー……」
「ましてや他種族への残虐性となると想像を絶します。なぜホモ・サピエンスは亜種がおらず一属一種のみなのか。なぜネアンデルタール人、デニソワ人が滅んだのか」
「それは、その……」
「博士の言い方を真似ますが、事象から逆算すれば明らかです。ホモ・サピエンスは多数に分岐した亜種を1つ残らず滅ぼし尽くした」
「そんなキラーエイプ仮説みたいな……」
「そんな狭量な種族が2000年来の悲願で地球に帰還しようとしたら『なにやら言葉を話すよくわからない他種族』が闊歩していた。一体どうなりますか」
「ぐんぬぬぬ……」
「よくて害獣駆除。悪くすると殺すだけでは飽き足らず、戦利品扱い。毛並みの良い毛民はマフラーやコートに。兎に至っては食卓に上りかねません」
「そこまで言わんでも……」
「ここは言わせていただきます。いいですか、地球の歴史上、最強かつ最凶であり、最狂にして最恐の生物。それが人類、ホモ・サピエンスなのです」
「あ、あたしも一応人類なんだけど……」
「存じておりますが、私の敬愛と忠誠は博士だけに向けられているのです。私的にはホモ・サピエンスという『種』そのものの評価は、決して高くありません」
「左様でゴザイマスか……」
言い込められたさくらは頭をワシャワシャとかき乱した。
「ちっと、考える時間頂戴」
「承知しました。差し出がましい事を言ってしまい申し訳ありません。どうあれ、博士の決定には従います」
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