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猫の選択と巨神戦争  作者: ぱらだいむ
第2章:無双編
30/47

30:設営

 霊樹の集落、夕刻。

 

 物見台から鐘の音が鳴り響いた。

 陽だまり集落のフリーボーン長老と導師のマルメロが到着したのである。

 

 荷車を引いていた若いかわうそに手を取られ地面に降りた二人は、ゆっくり伸びをした後、とんとんと腰を叩いて言った。

 

「ようやっと、着いたかの」

「ヒョヒョ、丁度良い物見遊山だで」

 

 そこへ霊樹の集落の住人達、シロップ、さくらとALAYAがこぞって出迎える。

 一歩進み出たローノイが声を掛けた。

 

「フリーボーン殿、マルメロ殿、ご無沙汰しております」

「ほっほ。これはローノイ殿。お出迎え恐縮です。長老会議ですな」

「はい。大事おおごとですから。近隣の集落全てに召集の書状を送っています」

 

 マルメロがシロップとさくらに気が付き、手を振る。


「当のさくら殿はすっかり、霊樹の集落の皆とも打ち解けておるようだで」

「それはもう。この二日ほど、酒盛りしておりましたから」

「ほっほっほ。なるほどの」

 

 長老達が笑う。

 次いで、フリーボーンがさくらに声を掛けた。

 

「さくら殿、寝床の問題は解決しましたかな?」

「いや~、ローノイ長老が言ったとおり、飲みっぱなしだったからね。まだなのさ」

「博士、その件ですが」

 

 ALAYAが口を挟んだ。

 皆がALAYAを見る。

 

「集落の門を出てすぐの傍ら、適度に拓けた場所。おあつらえ向きです。ここに博士の寝所を設えても良いですか?」

「ぬお? ここに?」

「はい。お待たせしておりましたが、準備が整いました」

 

 ローノイが驚いたように言う。


「設えるとおっしゃいましたか。ふむ、急ぎ建築計画を――」

「あ、いえ。毛民の手を借りることはありません」

 

 ALAYAがそう言った瞬間、すぐそばの地面から土が盛り上がった。

 まるで大きな土竜もぐらでも這い出してくるかのようだ。

 

 ぷちぷちと草の根がちぎれる音が聞こえ、次の瞬間、巨大な筒が地面から突き出す。


「「「な、な……」」」

 

 毛民達が困惑した声を上げた。

 コンクリート製でドラム缶ぐらいの太さがある、所謂いわゆる土管である。

 

 金属の蓋がしてあり、それが音も無く開くと、土管の中――つまり地面の下から――ALAYA達がワラワラと飛び出してくるではないか。

 

「たんま、たんま。どうなってんの?」

 

 流石にさくらが声を上げると、土管から出てきたばかりのALAYAが答えた。

 

「かなり昔ですが『密閉状態で地中を掘り進めれば、トウテツの勢力圏内にも入り込めるのではないか?』という仮説を立てまして。AI研の地下からトンネルを四方八方に掘りまくった時期があったのです」

「ほう、なるほど……って、その言い方だと、駄目だったみたいね?」

 

 ALAYAはかくんと肩を落とすような仕草をした。

 

「結構入り込めたのですけどね。ある地点を越えたら、いきなり掘削機が粉微塵に食い尽くされて、焦りました」

「まじか。やっぱすげえな、トウテツ」

這々(ほうほう)ていで逃げました。私からするとペイルライダーは怖くないのですが、トウテツだけは本当に、もう。そこから引きこもり生活です」

 

 ALAYAによれば、トウテツ拡大中の領域は空気中だけに展開されるが、完全な勢力圏内は土壌も水中も浸食されるとのことだ。

 ひょっとするとさらに地中深く、岩盤層であれば行けたかも知れないが、コストに見合わないので諦めたという。

 

「んじゃ、このあたりは結構、当時のトンネルが残ってた、てことね」

「はい。このあたりと言うには少し離れていましたが……この二日間の宴の最中、昔のトンネルを15㎞ほど延長して、ここまで繋げました」

 

 それを聞いたさくら目を丸くした。

 48時間で15㎞のトンネルを作るには、1時間で300㍍強、地中を掘り進めなくてはならない。

 一体どんな掘削機を使ったというのか。

 

 笑いながら言う。

 

「はっは。どうやって電源問題をクリアするのかと思ってたら、なるほど。地下に電線を通すのか」

「そうなります。あと生活排水ですね。駄々流しではなく、地下に処理槽を設けます」

 

 もはや何でもありである。

 そこへローノイが感心したように言った。

 

「なんと、地下を掘り進んできたのですか? 我々毛民に気取られないとは」

 

 確かにそうだ。

 毛民達は感覚が鋭い。地震などの到来を感じ取れる者も大勢居る。

 

 地下とは言えそんな早さで掘り進めたら、誰か気付きそうな物である。

 

「そういえば……」

 

 さくらはALAYAに手を伸ばし、表面をツルツルと撫でた。

 

「レーダー波減衰コーティング。ユビキタスを使った防音に防振動。おおかた各種のジャミングもしてるんでしょ? ALAYAってば、滅茶苦茶ステルス仕様だよね」

「そうですね。地下を掘り進める時も、防音と防振動を徹底していました」

 

 さくらは不思議そうな顔をする。

 

「なんでまた? 何から隠れたいのさ?」

「いや、これはもう癖みたいなものですかね。一応戦時中の生まれですし」

 

 確かに戦闘・会敵時に於いては、先に相手を発見した方が圧倒的に有利である。

 逆に言えば発見されない限り、そうそう後れを取ることはない。

 

 大戦末期、軍事政権が樹立した日本では、国立機関は全て軍属となった。

 人工知能研究所も例外ではなく、さくらも軍の階級を持っており、ALAYAも軍事用のAIという分類となる。

 

 戦後も敵対勢力残存の可能性を鑑み、ALAYAは隠密を貫き通した。

 やがて長い年月が経ち、流石に生き残ったのは自分とさくらだけなのが明白となった今も、何となく続けているのだという。

 

 

 

 そうこうしているうちに、地面からニョキニョキと金属の棒が生えてくる。

 地下からALAYAが突き上げているのである。土壌を固定する基礎工事のようなものだろう。

 

 次いで、電気・ガス・水道・通信の管が生えてきた。

 同時に土管から大きな板が運び出される。

 

 複数のALAYAに運び出されたその板は基礎工事の金属棒の上で広げられ、ばちん、ばちんと音を立てて嵌め込まれた。

 どうやら、床に相当するパーツのようだ。

 

 その後も土管から様々なパーツが運び出され、壁、窓、戸、天井が瞬く間に組み上げられる。

 見事なプレハブ工法だ。

 家具・調度品が運び込まれ、カーテンとカーペットが設置されると、ALAYAが言った。

 

「お待たせしました。電気・ガス・水道・PC・ベッド・風呂・トイレ・冷蔵庫・洗濯機・収納・空調完備の住居です。寝所として活用ください」

 

 ワッと歓声が上がった。

 物珍しさに集まってきた毛民達が拍手をしている。

 

 さくらが楽しそうに言う。

 

「ありがと、ALAYA。恐れ入りました」

「とんでもない。恐縮です」

 

 この(ALAYA )は本当にシンギュラリティを達成したのかも知れない。

 そう思った。

読んでいただき、ありがとうございます。

続きが気になりましたら、ブックマークと☆評価をご検討ください。


※誤字脱字、表記揺れは突っ込みいただけますと幸いです。

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