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猫の選択と巨神戦争  作者: ぱらだいむ
第2章:無双編
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28:飛脚

 二日後の早朝――霊樹のたもとの宴会場でさくらは目を覚ました。


 すっかり打ち解けた毛民達が、周りで酔い潰れている。

 毛民達は三交代制で「宴会で飲む者」「配膳・給仕を担当する者」「自宅で休む者」の役目をぐるぐる回していたが、主賓のさくらは二日間、ほぼ飲みっぱなしであった。


 欠伸をかいた後、大きく伸びをする。

 相当飲んだにも関わらず、ケロリとしていた。


 すぐ横でジョッキを握ったまま、大の字で眠りこけている穴熊を撫でる。

 腰のベルトに様々な工具を差した年老いた穴熊。

 鍛冶屋の親方である。


 酒の強さを自慢しており、深夜までさくらと飲んでいたのだが、流石に深酒が過ぎたらしい。


「パナケイア。親方の中にも居るかね?」


 撫でながらさくらがそう言うと、親方の口の中が僅かに青く光った。


 毛民達には、僅かだがパナケイアが受け継がれている。

 このナノマシンは元来人間の医療用であるが、他の哺乳類にもある程度の転用が効くのである。


 かつてはペットや家畜に対する需要から、様々な哺乳類への転用がテストされていた。毛民が持つパナケイアはその頃の名残だろう。

 世代交代を繰り返し、毛民の時代となっても、今だに受け継がれているとは。流石は21世紀最高の発明の一つである。


 効力は体内のパナケイアの量に比例するので、急を要する場合は新たなパナケイアを投与する必要がありそうだが、二日酔い程度ならこれでも充分だ。


「よし。アルコールの分解を手伝ってあげて」


 静かに命じると、青い光りが輝きを増した。

 毛民達から見れば、聖句を唱えずに回復魔法を使うに等しい光景である。


 ユビキタスもパナケイアも『声』で指示を出す思想のシステムだ。

 直接指示信号を発する事が出来るALAYAのような例外はあるものの、基本的に『生の人間の声』意外はフィルタリングされて、反応しないようになっている。


 通常、毛民達が発する声は『人間の声』とは判定されず、ナノマシン群は反応しない。

 つまり、彼等には使うことが出来ない。


 そこでフィルター機能をカットする命令が必要となる。

 その命令が『コマンドターミナル、ボイスフィルターカット』。つまり聖句である。


 もっとも、この命令自体も『人間の声』で行わなければならない。

 ベルハイドやシロップのように聖句を使える者は、要するに『人間の声真似』が上手いのだ。


 器用だな、よっぽど練習するのかなと、さくらは思った。

 理屈で言えば、フィルターカットできるほど人間の声真似が上手いのであれば、直接ナノマシン群に指示を出せる筈だが……まあ、聖句程度の短い語句が精一杯なのだろう。



 しばらくすると酒が抜けてきて楽になったのか、親方が寝言を言った。


「むにゃ……こんなに強いヤツがいるとは……負けた……」

「ありゃ」


 さくらは苦笑した。

 どうやら親方は、どちらが酒に強いか飲み比べを挑んでいたようだ。


「ごめんごめん。こっちはズルしているんだ。比べちゃ駄目だよ~」


 パナケイアは自分の体内に在る物を対象に、様々な自律動作を設定しておくことが出来る。

 それにより長期的・定期的な対処が必要なケースに、いちいち声で指示しなくても済む。


 様々な疾患に対応できる機能であるが、さくらは血中アルコール濃度が一定の値を超えると、自動で処理するようにしていた。

 そのため、どれだけ酒を飲んでも『ほろ酔い』を越える事がないのだ。


 設定によっては全く酔わないようにする事も可能であるが、それはそれ。

 少しばかり酔えるように設定しているのである。



 さくらは辺りを見渡し、親方以外の眠りこけている毛民達を確認すると、声を張った。


「他にも酔い潰れている子たちのパナイケア! アルコール分解を促進。二日酔いにならないように、血中濃度を下げて」


 すると毛民達の口が一斉に青く光る。

 それを見て満足そうに立ち上がると、スカートをパタパタ叩いた。


 丁度その時、ALAYAが上空から降りて来た。


「博士、おはようございます」

「おはよう。何か変わったことは?」

「集落の門の所で長老が飛脚を集めていますね。周辺の各集落へ伝令するみたいですよ」


 それを聞いたさくらの顔がパッと輝いた。


「なにそれ! 見たい見たい!」

「はい。見に行きましょう。身支度のシャワーとクリーニングは、移動中に施します」



◇◇◇



 集落の居住区を取り囲む石壁に作られた正門の前に、毛民(だか)りが出来ていた。

 脚力が自慢の飛脚達に、ローノイ長老が書状を手渡している、


 巨神の発見、霊樹の集落への滞在。緊急の長老会議を招集する。そういう書状だ。


 集められた飛脚達は様々な種族が混在していたが、犬の割合が多いようだった。

 瞬発力であれば猫や兎の方が優れているが、長距離を安定して走れるのは犬なのだそうだ。


「それでは、お願いします」

「「「はっ」」」


 長老は丁寧だが威厳のある口調で送り出す。

 それに飛脚達が答え、一斉に散っていく。


 それを見ていたさくらがALAYAに言った。


「飛脚かー。これは『急ぐのだからこそはしるッッ』て事かね?」

「どこのグラップラーですか」

「にっひっひ。即座に適切なツッコミが来るのは心地良いね」

「いわゆる『早馬』は使わないのと、毛民は体格、体重に対して脚力が強い者が多いですからね。現時点では走ってしまうのが一番早いのでしょう」


 そこへ長老がやって来た。


「さくら殿、ALAYA殿、おはようございます」

「あ、長老。おはよう」

「おはようございます、長老」


 ゆったりした物腰で訪ねてくる。


「熱心にご覧になっていましたが、飛脚が珍しいですか?」

「そうだねえ。巨神あたしらの社会は情報伝達手段が随分と発展してたから、飛脚は失業して久しくてね」

「なるほど。その辺りもご教授願えそうですね。楽しみにしております」

「うん、まかせといて」


 長老は目を閉じ、丁寧に頭を下げた。

 そのまま静々(しずしず)と集落内に戻っていく。


 それを見送ったさくらがALAYAに言った。


「なるべく早く通信技術を導入しようよ。結構なインパクトになると思う」

「承知しました。無線通信も目標に設定しておきます。順を追って説明していきますか」

「うん。古典的な所から行こう。説明することで彼等が理解し、作れる物」


 要するに、いきなり量子テレポート通信の機器を与えてしまっては意味が無いという事だ。

 理解できないのでは、伝えた事にならない。

 ALAYAもそれは心得ていた。


「はい。では、電波通信ですね」

「どこから取りかかった物か。モールス信号……鉱石ラジオ……違うか。まず電波を発信する所から?」

「はい。電波の前にそもそも発電からですね」

「はっは。コイルと磁石からか」


 さくらは楽しそうに頭を掻いた。

 人類の歴史では西暦1800年代初頭にコイルと磁石を用いた電磁誘導が発見されている。


「仕組みを教えるだけなら私が磁石とコイルを用意して手回しの発電機を組んでも良いですが…」

「いやー、どうせなら自動化したい」


 ALAYAがくるりと旋回する。


「では水車を使って水力発電……いや、折角なので火力発電を目指しますか。蒸気でタービンを回しましょう」

「やっぱり蒸気機関から必要になるか~。なんと言うか、人類史と同じ手順を踏むことになるのね」

「それは必然、そうなりますね。色々技術がそろってくれば、結局は組み合わせなのですが。別途ロードマップを作成して、順番を整理いたします」


 さくらがパンと手を打ち鳴らした。


「電波通信のロードマップ! 古典の漫画でそういうのあったよね」

「文明の滅んだ未来世界で科学技術関係のロードマップ引くとなると、どうしても……まあ、そこはほどほどに。いい加減、怒られますよ」


 ALAYAがカタカタ笑いながら、そう言った。


読んでいただき、ありがとうございます。

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※誤字脱字、表記揺れは突っ込みいただけますと幸いです。

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