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猫の選択と巨神戦争  作者: ぱらだいむ
第2章:無双編
27/47

27:霊樹

 手のひらを目の上にかざしたさくらが、遠くを見ながらシロップに聞く。


「さて、霊樹の集落は南だったよね? どの辺やら」

「ここからだと南東ね。そこそこ遠いわよ。さすがに見えないと思う」


 するとALAYAが言った。


「ふむ。見つけました」

「え? もう?」

「現在、いくつか観測機を飛ばして周辺の地形をマッピング中なのです。南東およそ55㎞先に、大きな集落がありますね」


 幾つものタスクを同時に進められるのがALAYAの強みである。

 さくらは感心したように言った。


「何かALAYAってば、もはや何でもありだね」

「いえ……地形の把握は結構サボっていましたので、出来るところから始めています」

「おお? ALAYAが『知ること』をサボっていたなんて」


 言われたALAYAがカタカタ笑う。


「AI研周辺外は、何世紀もトウテツの影響がありましたから。引きこもって博士をお守りするのに専念していたのです」

「あ、そういうことね……なんかごめん。ありがとね」

「とんでもない。トウテツもなくなり、博士がお目覚めになった今、全開で行きますよ。さしあたって地球全体のマッピングを行うつもりなので、人工衛星の打ち上げを計画しています」


 これには、さくらも笑った。


「ぶははっ、凄いな」

「博士と共に世界の有りようを解明していける。光栄であり、楽しみでもあります」

「たのもしいねぇ。何か面白いもの見つけたら、教えてね」

「承知しました」


 するとホバリングしていたフローターがスルスルと移動を開始する。

 今回はALAYAの自動運転であった。



◇◇◇



 しばらく空の旅を続けると、拓けた平野のただ中に、大きな木が見えてきた。

 高さ30メートルほど。その幹周りも30メートルはあるだろう。巨木である。


 その威容に、さくらが食いついた。


「でっか! あれが霊樹!」

クスノキのようですね。あれほどの巨木は珍しいですよ」


 シロップが誇らしげに言う。


「大きいでしょう。霊樹も集落も」


 シロップが言うとおり、巨木を取り囲むように大きな集落が築かれている。

 集落の中心が緑の広場になっており、その中心に巨木が鎮座しているのである。


 広場の周りが居住区らしく、外周はぐるりと高い石壁で囲われていた。

 石壁の外側には農地が広がっている。


 まるで中世ヨーロッパの城郭都市だ。

 さくらが楽しそうにALAYAに言う。


「これはもはや『集落』どころか、村も町も超えて『市街』だね」

「はい。おそらく行政上の区別がないので、規模にかかわらず全て『集落』と呼んでいるようですね」

「中世の城下町みたいな趣。なんで石壁で囲うんだろね。毛民社会はいくさとかないだろうに」


 シロップが答える。


「昔、熊が集落に……と言うことがあったんだって。大変だったみたいよ」

「ぎえ、なるほど」


 お腹をすかせた熊が相手でも毛民は不殺を貫くのだろう。

 そうなると、かなりの犠牲が出ると思われる。


「それで、いざというときは高い壁で囲った居住区に逃げ込めるようにしたの。今は交替で見張りも立てているし、例え熊が来ても対応できる備えもあるから、大丈夫なんだけど」


 そんな話をしながらフローターが集落に近づこうとした時、石壁からさらに上に突き出た物見の塔から、鐘の音が鳴り始めた。

 一つの塔からカンカンカンカンと鳴り響くと、他の塔からも次々と響き始める。


 その音を聞いたALAYAがさくらに言う。


「もう認識されたようです。優秀な見張りですね」

「ちぇ~。いきなり壁から中を覗き込んで『その日毛民は思い出した……』ってやろうとしたのに」

「それは巨人です。博士は巨神でしょう。だいたい、あの壁の高さじゃ覗けないのでは?」


 それはそうだ。熊でさえ越えられない高さの石壁である。

 さくらの身長では無理がある。


「いや、ALAYAの知識量も大概だね」

「恐縮です」


 フローターが高度を下げていくと、早くも毛民達がワラワラと門から飛び出してくる。

 シロップが手すりから身を乗り出し、皆に手を振ると、大きな拍手が巻き起こった。


 フローターが降り立つと、大歓声である。

 凄い数の毛民だ。皆、喜びに満ちた表情で拍手し、手を振っている。


 さくらは目を丸くした。


「なんか盛り上がりが陽だまり集落と比較にならないんだけど」

「皆驚いていると言うより、喜んでいますね」


 毛民達に手を振ると、また凄い拍手と歓声だ。

 さくらはフローターの手すりを開き、地に降り立つ。


「調査隊を派遣するくらいだから、この集落では巨神の存在への確信と期待が大きかったって事かねえ」

「神話にある巨神を真面目に探索して、それが身を結んだという事になりますか」

「そうか、これもう『宇宙人探索に出た調査隊が宇宙人と一緒に帰還した』レベルか。そりゃ盛り上がるわ」


 次いで調査隊がフローターから降り立つ。

 するとシロップが群衆に向かってまっすぐに走り出した。


 それを見た壮年の兎の男が前に出る。


「お父様!」


 シロップは跳躍すると、父親に抱き付いた。

 父親はしっかり抱き留めたが、勢い余って二人はゴロゴロと転がる。


 そこにシロップの母、祖父母、兄妹が駆け寄った。

 いやもっとだ、親戚らしき一団も集まってくる。


 皆声をかけるでもなく、笑い声が響いた。

 いや、泣いている。泣きながら笑っているのである。


 百年にわたる、一族の悲願が達成された瞬間だった。



 他の調査隊員達も、皆に囲まれ、労われている。

 俺たちは大して役に立てなかった、シロップの功績だ、と説明するが、構わず胴上げが始まった。

 それを見たさくらとALAYAが楽しそうに笑う。


 そこへ、すかっかり毛の白くなった、老年のテンが歩み出た。

 年齢から少し背は丸まっているが、貂としては大柄の、立派な体格だ。


 余裕のある、柔らかな物腰。

 ゆったりとした白いローブを纏い、貫禄がある。


 霊樹の集落の長老。

 名を『ローノイ』という。


 さくらとALAYAに挨拶を済ませたローノイが聞いてくる。


「霊樹の集落をあげての歓待の宴、受けていただけますか?」

「にひひ、ありがと。勿論!」


 ローノイが片手を上げて合図をすると、銅鑼の音が鳴り響く。

 鏑矢かぶらやが何本も打ち上げられ、歓声が上がった。


 丸二日に渡る、歓待の宴の始まりであった。


読んでいただき、ありがとうございます。

続きが気になりましたら、ブックマークと☆評価をご検討ください。


※誤字脱字、表記揺れは突っ込みいただけますと幸いです。

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