26:合流
午後の日差しの中、陽だまり集落の前でフローターを取り囲んでいる一団があった。
シロップが率いていた巨神調査隊だ。
あの狸達三人の賊を山窩の集落に突き返した後、帰還してきたのである。
「これは一体なんなんだ……」
「わからん、初めて見る代物だ」
口々に疑問の声が上がる。
栗鼠の学者がフローターをコンコン叩き、耳を当てる。
わざとそうしているのか、フローター(ALAYA)は知らんぷりで、何の反応も示さない。
「とにかくだ、この集落でシロップと護衛が帰ってくるのを待たせて貰おう」
そう言ったのは犬の剣士である。
調査隊が陽だまり集落の中に向かおうとしたその時、入り口の門構えの脇に立っている者が声を掛けてきた。
「よう。遅かったな」
声を掛けたのは猫の剣士――シロップを護衛していたはずのベルハイドであった。
犬は驚いて、大きな声で訪ねた。
「お、おまえ……シロップの護衛はどうした!? 何故ここに居る?」
調査隊がザワザワするが、ベルハイドは澄ました顔で返す。
「護衛は完了しているよ」
「どういう事だ? シロップは無事なのか?」
「それは直接本人に聞いてくれ」
そう言うとベルハイドは、集落の方を見やり、手を上げて合図した。
「皆に吃驚して欲しい、だとさ」
ベルハイドがそう言った瞬間、集落に入ってすぐの建物の影から、ヌッと巨大な何かが立ち上がった。
「「ばあ!」」
揃って声を上げたのは、さくらと、その肩にのるシロップである。
「「「うおああああ!?」」」
悲鳴に近い叫びを上げながら、驚愕した調査隊員達が蜘蛛の子を散らすように方々に逃げ散った。
いや、栗鼠は逃げ遅れ、目を見開いたままその場にへたり込んだ。
「な、ななな」
「なんっ、なんっ」
周囲の木立や切り株の影に逃げ込んだ調査隊員達は恐る恐る顔を覗かせながら、言葉にならない声を上げる。
「ま、まさか、巨神なのか……っ!?」
犬がやっと言葉を絞り出すと、さくらとシロップはハイタッチだ。
「「いえ~い!」」
悪戯好きの女二人が組むとこういう事になる。ベルハイドはため息を付き、頭を掻いた。
調査隊の反応に満足したさくらが言う。
「まさかの巨神だよ。『さくら』って呼んでね。……おお、剣士やら学者風の格好。みんなかわいいなあ!」
シロップとベルハイドが続ける。
「と言うことでした。やったのよ、皆。巨神探索の任は大成功ってわけ」
「ああ。護衛の任も完了ってこった」
犬に助け起こされながら、栗鼠が震える声でシロップに言う。
「ほ、報告は、霊樹の集落へは知らせたのか!?」
「まだよ。皆が戻ってくるのを待っていたもの」
「このまますぐに出発しよう……! 大変な事だぞ!」
シロップはさくらと顔を見合わせて、言った。
「そうねぇ。じゃ早速、準備しましょうか」
「ま、慌てなさんな。あたしも一緒に行く訳だし。すぐつくでしょ」
おお……と調査隊から声が上がる。
続けてさくらはフローターに声を掛けた。
「ALAYA、この人数でもイケるよね?」
「はい。全く問題ありません」
いきなり声を発したフローターに、調査隊はビクっと身構える。
「驚かせてすみません。私は『ALAYA』と申します。さくら博士にお仕えする者です。お見知りおきを」
「ALAYAってば、皆に取り囲まれてる時に反応しなかったのは偉いぞ」
「それはもう。私が先に挨拶したら台無しですからね」
さくらは満足そうに頷いて言った。
「よし。シロップちゃんの準備が整うまで、待ってるよ」
「荷物は纏めてあるから、取りに行くだけよ」
「そうなのね。ベルハイドはどんな感じ?」
聞かれたベルハイドは、あっ……と声を上げた。
「いや、その。言いそびれていたが、俺は次の仕事が入っていてだな」
ありゃ、とさくら。
えっ? とシロップ。
シロップはさくらの肩口からトッと地面に飛び降り、改めて聞く。
「一緒に来られないんだ?」
「ああ……また隊商の護衛なんだ。しばらく留守になる」
シロップは一瞬、きゅっと下唇を噛んでから言った。
「私の故郷、凄く大きな集落なんだ。長老会議場、大きな鍛冶屋と武器屋、酒場とか、霊樹の見晴台とか、色々あるの。案内とか、したかったんだけどな」
「わかった。仕事があけて時間が出来たら、訪ねるよ」
「うん……」
次の仕事の行き先こそ違うが、なにしろ霊樹の集落は近隣で一番大きな集落だ。
当然、ベルハイドも隊商の護衛で何度も訪れたことがある。
それどころか、例のお気に入りの店員(猫女子)がいる酒場は、霊樹の集落にあるのだ。
勿論そんなこと、シロップには言わないが。
「――じゃあ、私、荷物取ってくるね」
「ああ」
そう言ってシロップは駆けて行く。
ベルハイドはボリボリと頭を掻いた。
タイミングやらなにやら、どうにも噛み合わない感じがある。
少し経つと、集落の奥からゴトゴトと荷車が引かれてきた。
若いかわうそ二人が引くその荷車には席が設えてあり、長老とマルメロが座っている。
人力車の体裁だ。
長老が声を掛ける。
「さくら殿。霊樹の集落に向かいなさるか」
「あ、長老とお婆ちゃん」
言いながら、さくらは長老とマルメロの格好に気が付いた。
二人とも帽子をかぶり、厚めの外套を羽織っている。
旅支度のようだ。
「ん? お出かけするの?」
「ほっほっほ。わしらも霊樹の集落に向かう所じゃ」
「そうなんだ。なら一緒に行こうよ。ひとっ飛びだよ」
長老とマルメロが笑う。
「ほっほっほ。なに、急いではおらぬのじゃ」
「さくら殿と出逢った毛民社会は、これから大騒ぎになるで。まず、長老会議開催になりますじゃ」
「然り。それに間に合えば良いでの。ゆっくり向かうとしますわい」
「ヒョヒョ。急に飛んだりしたら、腰抜かしてしまうで」
さくらもつられて笑う。
「にひひ。わかった。また向こうでね」
やりとりを聞いていた調査隊は、飛ぶって何のことだ……とザワザワしている。
そこへ、荷物を抱えたシロップが戻ってきた。
「皆お待たせ」
「よし、行こうか。ALAYA、ドローンはどうする?」
言われると同時に集落からドローンが飛んで来る。
さらにフローターのトランクが開き、ドローンがもう一機出てきた。
「一機、陽だまり集落に残しておきます。何かあったらお知らせします」
「おっけー。もう一機出したのは?」
聞かれたALAYAは、ベルハイドの周りをゆっくり旋回しながら言った。
「ベルハイドに付いていようかと」
「ウニャ? なんでだよ?」
「駄目ですかね? 隊商の護衛とか、凄く興味があるのですが」
ベルハイドは頭を掻いた。
「いや、駄目じゃないけどな。見てても退屈だと思うぜ?」
さくらが笑う。
「ALAYAはね、凄く好奇心が旺盛なのさ。仲良くしてやってね」
「フッ……わかった。じゃあ、一緒に行くか、ALAYA」
「はい。よろしくお願いします」
やりとりを見ていた調査隊のざわつきが大きくなる。
ドローン型のALAYAを見るのも初めてで、さらにそれが複数。
しかもALAYA同士が意識を共有していることが前提の会話に、全く理解が追いつかない。
それを尻目に、さくらが笑顔で調査隊を促した。
「さ、乗った乗った」
「え、これに? 乗るって……?」
「どういう事だ? 霊樹の集落に向かうんじゃないのか?」
さくらの狙いに気付いたシロップとALAYAが合わせる。
「乗っても大丈夫よ、皆」
「ええ。どうぞどうぞ」
そうこうするうちに全員乗り込み、フローターの手すりが締まった。
見ていたベルハイドが、ああ、と顔に手を当てる。
「じゃ、いってきまーす」
さくらがそう言って手を振った瞬間、フローターが起動した。
一気に浮上して、そのままぐんぐんと高さを増していく。
「「「うわああああ~~~~~……」」」
調査隊員達の悲鳴が空に響き渡り、フローターの高度が増すのにともなって、か細く消えていく。
最初はそうなるよな……とベルハイドは頭を掻いた。
「ほっほっほ」
「ヒョヒョヒョ」
長老とマルメロが笑うと、ALAYAもカタカタ笑う。
ベルハイドは遙か上空の、点のように小さくなったフローターを見上げた。
シロップともう少し言葉を交わすべきだったか。
そんな思いが頭をよぎり、ピシャピシャと顔を叩く。
切り替えよう。次の仕事に影響する。そう思った。
◇◇◇
上空。
ガタガタ震える調査隊を、さくらが笑顔で一緒くたに抱きしめる。
「ごめんごめん~。吃驚するよね」
「「「と、と、と、飛ん、飛ん」」」
「飛んでるねえ。大丈夫だから安心せーい」
調査隊のもふもふっぷりを堪能しながら、さくらがふとシロップの方を見ると、手すりの隙間から顔を出していた。
眼下の陽だまり集落を見つめているのである。
さくらはシロップに手を伸ばし、軽く撫でる。
「惚れた男にゃ自分の故郷を案内とか、家族や友達に紹介とか、したいのはわかる」
「今回は、いいわ。やっぱり、お互いどういうつもりなのか確認したあとじゃないと。『そういうつもりじゃ無い』とか言われたらと思うと、怖いもの」
「いやいや、仕事入ってなかったら来てたろうし、仕事明けたら訪ねるよって言うてたやん」
「仕事もわざと入れたのかな、とか思っちゃって……だめね、どうも上手くできない。こんな怖がりじゃ無かったつもりなんだけど」
それを聞いたさくらは腕を組んで言った。
「カーッ、甘酸っぱいわ~」
「ちょっとー。年寄りみたいなこと言わないでよ。さくらは巨神の基準では年頃なんでしょう?」
「いや、あたしなんかほら、同族のオトコ全滅しとるからね。達観もするわな」
シロップはアラっという表情をした。
「私とベルハイドは他種族ですけど?」
「んん?」
「種族気にしなかったら、オトコは沢山居るでしょ」
「んんん?」
人間の男子が居ないなら、毛民の男子は如何か、と言う話か?
思わずさくらはALAYAに聞いた。
「いや、え? どうなんだろう?」
「いやっ、どうなんでしょう?」
珍しくALAYAが言葉に詰まった。
いくらなんでも、それはどうなのだろう?
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