表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/53

(8)旅立ち

 全部話そう――そう言ったソウリャは、何か決心をしたような顔つきで、「昔壁が崩れてしまっていて立ち入り出来ない」と説明されていた地下室へと向かった。


「おいで、足元暗いから、気をつけてね」

「……うん」


 地下へ繋がる階段には壁に紫色の光が灯っていて、不気味な空気が流れている。


「ソウリャ」

「ん?」

「リサとソウリャは魔術士だったの?」

「んー、そうだね」

「……知らなかった」

「言ってなかったからね」


 ソウリャに手を引かれ、じっとりと湿った階段をかなり深くまで降りる。


「知ってるよ、僕。魔術で点けた蝋燭の炎って紫色なんだよね」

「……そうだね」

「昔、絵本で見た」

「そっか」


 ターン、ターン、と二人の足音が反響して響き渡る。


「ねえ、僕に言わなきゃいけない事って、何?」

「……着いた、ここだよ」


 ギイイ、と重い石造りの扉をソウリャが押し開ける。すると、目がくらむ程の青白い光が零れて来た。


「中に、おいで」


 眩しそうに腕で顔を覆うライの手を、ソウリャは優しく引く。


 部屋に一歩踏み入れると、中はじんわりと暖かかった。中央の床には焼け焦げたような不思議な模様が描かれていて、その両隣には石の塊が二つ並べられている。一番驚いたのは、それらの真上に浮かぶ太陽の様な光の塊だ。


「その光はあまり直視しない方がいい。力が強すぎるから意識を失ってしまうかもしれない」

「……」

「あの光は魔蓄石まちくせきって言う石なんだ。この家は君を護るために強い魔術がかけられているのさ。ほら、そこに引かれた模様みたいなものが魔法陣。その両隣にある石棺せきひつには聖人のご遺体が納められている」

「……」

「どうしてこんなものが家にあるのかって、思うでしょう?」


 驚き声の出ないライの気持ちを代弁するように、ソウリャが言う。ライはこくこくと首を縦に振った。


「それは、君が光の民にとって、非常に重要な人物だからだ」


 ドクリ、と自分の心臓が脈打つのが分かった。


「……言ってる意味が、分からないんだけど」

「……」


 グッと唇を噛み、目を伏せるソウリャ。


「君は、本当は――」

「……本当は……?」


 わなわなと震えるソウリャの唇。ライはその唇が次に何を発するのか、食い入るように見た。


「ソウリャ! 準備出来たわ! 急いでっ上の建屋は破壊されそうになってる」

「嘘だっ……!?」

「嘘なんか言うわけないでしょう?」


 リサが両手いっぱいに瓶を抱えて、部屋に飛び込んできた。


「……その様子からだと、まさかまだ話せてないの?」

「……いや」

「チッ、このっ意気地無し!」


 リサは魔法陣の周りに等間隔に瓶を並べていく。

 不思議に、彼女の足の出血は治まっていた。


「ライ!」

「は、はいっ」


 瓶を並べ終えたリサは、ツカツカとライに近寄ってくると、そのままの勢いでライの両肩に手を置いた。


「いい? よーく覚えておくのよ。あなたは誰がなんと言おうと、ライ=サーメルなの。小さな頃に私に預けられて、二人で馬鹿やって騒いで来たライ=サーメルなの」

「……うん?」

「確かに、私達はあなたに黙ってきた事が沢山あるわ。しかもこの意気地無しはこれからも隠し通したいみたい。でも、分かるよね? 私達が、どれだけあなたの事大好きかって事。どれだけ大事に思ってるかって事。分かるよね!?」

「……な、なんでそんな事聞くの?」

「分かるよね!?」


 凄い剣幕で捲り立てるリサ。

 普段強気の彼女の頬を、つう、と雫がつたい落ちる。


「それだけ忘れなければ、きっとあなたは……大丈夫」

「……わかった、分かったからリサ。泣かないで」

「……泣いてないわよ、バカ」


 そっと、ライがリサの頬に触れると、彼女は両手で顔を覆い泣き崩れてしまった。


「ライ、今から君をこの魔法陣で王都の地下へと転送する。正直、その先でどうなるかまでは私達は知らされてないんだ。それでも、君は行かなくちゃいけない」

「ソウリャは? リサは? こんな所に置いていけない。一緒に行こうよ」


 バタバタと準備を始める二人に、ライは必死に提案する。しかし、ソウリャ達は首を横に振るだけだった。


「……私達はここに残る決まりになっている」

「どうして? どうして僕だけ!?」


 その答えは教えてくれないだろう、と分かっていても、それしか口から出てこない。


「君はリヒト……光の民の唯一のリヒトなんだ」


 絞り出したような声。ライがその言葉の意味を考える間もなく、ソウリャはライの肩を力一杯に押した。


「痛っ……や、やめてソウリャ!」


 ライが尻もちを着いたのは魔法陣の中。


「カメス、テラ、ア、カザ、我が名はソウリャ=サーメル、使徒アゲンテ」

「我が名はリサ=メルロイド、使徒マーサル」

「トロイ、ナ、メガ、ラ、ボンテ、イヌアグス、ロゼ、グリムナー」


「ダメだ! 一緒に行こう、リサ! ソウリャ!」


 ライが必死に訴えるも、二人は詞を並べ続ける。

 非情にも魔法陣は光り始め、やがてふわりと体の重みを感じなくなってしまう。


「嫌だ! 嫌だ!」


 視界が霞むのは涙のせいか否か。


「やめてーっ」


 悲痛な叫び声と共に、ライは意識が遠のいていくのが分かった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ