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(7)壊れゆく日常

「来る!」


 ソウリャがそう言うと同時に、近くの茂みが騒ぎ始めた。


「ウィンリアネスト、我に力を」


 咄嗟にリサが不思議なことばを並べ、ライを指差す。


「えっ!? わ、わぁあ!?」


 すると突然風が吹めぐり、ライの体付近で渦を巻き始めた。そして、フッと重力を感じなくなったと思うと、なんと地面から足が離れていた。

 驚くライを他所に、リサは大声をあげる。


「ソウリャ、ライを頼むわ! 殿しんがりは私が持つ。急いであの部屋へ!」

「了解、君も必ず来るように!」

「了解!」

 

 リサが指先をソウリャの方へ逸らすと、中に浮いたままのライは、不思議な力に押されるようにソウリャの元へと流される。差し伸べられたソウリャの手に触れると、彼もまた似たような詞を並べ、風の如く坂を滑るように登り始めた。


 ソウリャとライを先頭に、地面スレスレを高速で移動する三人。

 あまりの恐ろしさにライは固く目を閉じ、ソウリャの腕にきつくしがみつく。


「ゴウカリアネスト! ロス! ロス!」


 すぐ後ろではまた違った言葉を並べるリサの声がする。そして、ジュウ、と何かが燃える音が続いた。


「ライ、もう家だ。大丈夫」

「う、うんっ」

「カメス、テラ、ア、カザ、我が名はソウリャ=サーメル、使徒アゲンテ、扉よ開け」


 ソウリャがそう言うと、施錠してあったはずの扉がひとりでに開き、二人は吸い込まれるようにしてそこへと飛び込んだ。


「私はリサを迎えに行ってくる。君はこの家から一歩も出ないで」


 床へと下ろされたライは、そうソウリャに言われると、独り部屋に残されてしまう。

 

 ダーン、ダーン、と再び地響きがなり始めた。

 何が起きているのか全く理解が出来ない。

 真っ赤に燃え盛る町――自分が見た光景が信じられなかった。

 今ここまで来る最中にも、直視できないほどの、何かおぞましい物が追いかけてきていた気配があった。


 扉の前でガタガタと震えうずくまっていると、またもや、ダーン、と窓ガラスが割れんばかりの衝撃が走る。


「リサっ、ソウリャっ……!」


 強ばった体を無理やり動かし、恐る恐る窓から外の様子を伺う。


「な、何アレっ……」


 外は今まで見た事無いほど真っ暗な闇に包まれていた。目をこらすと、その奥にさらに濃い闇が見える。そしてそれらは奇妙に触手のようにうようよと蠢いていた。


「あ、あんな所にリサとソウリャが……!」


 時折真っ白な閃光が降り注ぎ、その影の集団を一時は遠ざける。その閃光の出処でどころに二人の姿はあった。

 あんな所に居ては危ない、と思うが、今のライに出来ることなどひとつもない。


 バリバリ、と一際真っ白な稲妻が降り注いだ。

 その眩しさにライが目をつぶった瞬間、突然突風が吹き込み、ライも部屋の奥へと吹き飛ばされた。


――もしかしたら、あの影が襲ってきたのかもしれない。


 ライは恐怖に襲われ、部屋の隅に吹き飛ばされたまま動けなくなった。


 ギシ、ギシ、と何者かが近づいてくる。

 静かにしなければいけないのに、歯がガチガチと鳴るのを抑えられない。


――ダメだ、見つかってる。こっちに来る。


 近くで足音が止まった。


 トン、と冷たいものが肩に触れる。


「ひゃああああっ!」

「違う、私だ、ライ。落ち着け!」

「――! ……ソウリャ……うっうっ……うわぁぁぁ」


 悲鳴に近い声を上げながら、ソウリャに飛び付く。受け止めてくれたソウリャは、片腕でキツく抱きしめてくれた。


「ソウリャ、時間がないわ。もうここまでよ。ライに全てを話す時が来たんだわ」


 ソウリャの背後から、脚を引き摺るようにして現れたリサ。


「リサっ……! その血……!」

「大丈夫、ここに居ればじきに治る」


 かなりの出血におののくライの話を半分に流し、リサはソウリャに話し続ける。


「何も黙っておくだけが優しさじゃないじゃない。それとも何? 怖くて言い出せないだけなら私が言ってあげようか!?」

「違う! そうじゃない……上とも話はした。神父様とも話したって、ここまで来たら隠すのは無理だって事になってる。でも、こんなのあんまりだ。大人の都合に振り回されて、どうしようも無くなったら、“仕方ない”? こんな酷い話はない!」

「私だってそう思うわよ! でも、知らない所で事が進むより、ずっと一緒に居た私達だからこそ、言うべきなんじゃないの!?」


 今まで見た事もないような剣幕で怒鳴り合う二人。その喧嘩の種はどうやら自分のことらしいが、内容は全く理解出来ない。


 その時、バリバリ……と再び家が大きく揺れた。


「……まさか、ここも?」

「いや、ここは魔法陣も引かれてるし、聖書も、ワインも、聖人の力すら借りている土地だ。そんなはずは……」


 二人は我に返った顔をし、同じタイミングでライへと目線を向けた。


「……ごめん、魔法陣とか聖書とか、酷い話とか、僕だけ全く分かってないんだけど、それは何の話? 誰の話?」


 ライは、嫌な予感を拭えずに、か細い声で問いかける。


「……ごめん、全部話そう。リサ、移転の準備を進めてて貰えるかな」

「……了解」

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