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(5)伝説の予言

 真っ青な顔をし、その場に残されたライに神父様は耳打ちをする。


「先程の少年の前では言えませんでしたが、この知らせを伝えてきたのは貴方のお兄さんです。戻ってきた船も、出ていった船より一隻少ない。時期に帰ってくるのではないでしょうか」


 はっとして、ライは神父様を振り返る。神父様はライに伝書鳩が運んできた紙を見せながら、静かに微笑んでいた。


「……ほら、来ましたよ」


 神父様がそう言うと、崖の向こうから、最後の一隻が顔を出した。負傷はしたが軽かった人達だろうか、その船には数人の人影があった。

 キイ、ときしむ音と共に停泊する船。乗っていた人達は、お互いに支え合うようにして下船する。

 最後に姿を見せたのは、ライがずっと心待ちにしていた、大好きな兄の姿だった。


「ソウリャ……っ!」


 すかさずに彼に駆け寄り抱きつくライ。ふんわりと、懐かしい香りに包まれる。


「あーあ、こんなに泣かせてしまって。誰にいじめられたんだい?」

「もう、ホントだよ」

「ふふ、待っていてくれたんだね、どうもありがとう」


 このふざけた調子の会話が懐かしい。

 今までの緊張が一気に緩み、次から次に涙が溢れてくる。そんなライを宥めるように、ソウリャは片手で背中をさすってくれた。

 しばらく泣いて、ある程度落ち着いてきた時、ソウリャの右腕がだらんと垂れ下がっていることに気がつく。


「……ソウリャ、右腕!」

「あー、うん。ちょっとしくじりまして。でも、痛くもないし、大丈夫。こうやって生きて君を抱きしめられるだけで十分さ」


 マリーナ号の沈没。一体何があったのかは分からないが、想像を絶する状況だったのは間違いない。


「さあ、行こう。リサも心配しているはずだ」

「うん」



 広場では神父様から直接お話があり、今後の生活で大事な事がある、と各世帯の代表者が教会に招集される事となった。

 話し手に回るソウリャはもちろん、何故かリサだけでなくライも招集され、今は教会で話が始まるのを待っている。


「ライ、あんたにも直接関わることだから、よく聞くのよ」

「う、うん……」


 リサは何かを覚悟したかのような表情で、前を見つめている。


「お集まりの皆さん、これからお話する事は、非常に残念ですが事実です。ですが安心してください。神は必ずしや我々の味方となってくれることでしょう」


 神父様がそう前置きをし、続きはソウリャに託された。


「皆様、私はソウリャ=サーメルと申します。マリーナ号の副船長を務めておりました。まず最初に、皆さんの大切な御家族を無事にお返しすることが出来なかったこと、深くお詫び申し上げます。大変に申し訳ございませんでした」


 ソウリャが深々と頭を下げると、どこからか啜り泣くような声が聞こえてきた。


「マリーナ号に何があったのか、詳しくお話させていただきます。その前に、皆様“光の伝説”はご存知でしょうか」


 光の伝説。


 それは、千年前の「全面戦争」を舞台にした伝説である。


 千年前はこの世に大きくわけて二つの種族が存在した。ひとつは「この世は光から生まれた」とする光の民。ひとつは「この世は闇から生まれた」とする闇の民。

 彼等は幾度となく戦を繰り広げてきた。そして、その規模が最大となったものを「全面戦争」とよんでいる。


 長い戦いに土地は荒れ、光の民は窮地に陥っていた。

 そんな時、神が地上に一本の剣を落とす。その剣は、一振りで闇の民を封印することが出来るものだった。

 しかし、なかなか剣は鞘から抜けない。この剣は自ら「持つべきもの」を選ぶらしく、どんな剛腕が試しても抜ける気配がない。

 困り果てていたところに、「剣の声が聞こえる」という一人の青年が現れた。

 彼はそういうと、簡単に剣を抜いてしまったのだ。


 それからは光の民が優勢にたつ。あっという間に闇の民を葬り、世界の平和を取り戻した。

 彼は世界を救った勇者として崇められ、のちに大きな王国「マラデニー王国」を築いた。


「建国神話にもつながるこの話。しかし、実は非公開とされていましたが続きがあったのです」

「つ、続き!?」

「非公開って、なんだぁそりゃ」


 ソウリャの驚きの発言に一同ざわめく。


「闇の民の王は、消滅する寸前に残りの力を使い、彼の子供たちを長い眠りにつかせました。十数年前に研究で明らかになりましたが、古文書にはこう記されていたようです」


『その子供、千年の後目覚め、五人揃いし時再びこの世に暗黒の闇を放つ』


「この古文書の通り、数週間前に眠りについていた子供達が目を覚ましました。そして世界最新鋭と言われていたパラマ研究所を破壊。南の島々は次々に侵略されています。我々の船も彼らに……」


 ソウリャは目を閉じ痛々しく話す。


「このガザラに到達するのも時間の問題です」


 最後の一言が、重々しく皆にのしかかった。


「……いや、でも、王都が何とかしてくれるはず。だってほら、あそこには魔術兵団も居るし、なあ? そんな心配はねぇよなぁ?」

「そ、そうだよ、闇の民ってったって、相手はたかが五人だろ?」


 傍聴していた一人が言うと、次々にそれを肯定する声が上がった。

 ライも、そうだ、と思った。

 マラデニー王国が世界に君臨しているのは、何も経済が発展しているからだけでは無い。他国には抗えない程の軍事力を持っているからでもある。

 しかし、そんな希望もソウリャが間髪入れずに否定した。


「残念ながら、我々のそれとは格が違いました」


 ピシャリと言い放ったソウリャ。それに続くように、長老と呼ばれるこの町で一番の老人が話し出した。


「……千年もあれば時代が大きく変わるのに充分よ。化学の進歩によって、魔力の存在価値は小さくなってしまったからの。今や我ら光の民で魔術を使えるのはほんのひと握りしか残っておらん……。そ奴らだって、千年前と比べれば魔力はかなり弱まっておる。……魔力を失った光の民は、未だ千年前の魔力を持つ彼らに叶うわけがない」


 長老の言う通りだった。

 昔は魔術を用いて夜を照らしていた。だが今は違う。マッチを擦って蝋に点火すれば明かりがつく。

 魔術で水を導かなくたって、ポンプを漕げば組み上げられる。


 千年の間に、魔術を修得せずとも生きていける世の中になってしまったのだ。次第に魔術が廃れていくのも当たり前なのである。


「しかし、我々にも対抗する術が無いわけではありません。古文書には、再び勇者が現れるとも記されていました」

「勇者が!?」

「勇者って、剣の声が聞こえるってやつか?」

「そうです。第二の勇者が現れるまで、耐えましょう。我々の努力を神は見捨てたりしません」


 そして、その後には我々にも簡単に出来る対策が告げられた。

 光の民は、太陽が沈んだ後神の御加護を受けにくいと言われている。そのため日没後は知り合いの家に集まり、なるべく多くの蝋を灯し、交代で祈りを続けること。絶対に戸締りを忘れない事。何があっても外に出ない事だった。

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