(1)砂の街で聞いた噂
「はぁ、まっっったくアテにならない法螺話ばかりね」
ドサッと勢いよく腰を下ろすテナエラ。彼女は砂にまみれたレンガの上に胡座をかき悪態をついた。
「王様の耳はロバの耳風の枯れた巨木? 何をされても嘆かない爺の××? 誰も居ないのに夜あかりのつく店? はぁ〜、あの旅芸人、適当な話ばっかり吹き込んできて。この私を踊らせるなんていい度胸じゃない」
シュネーヴィトヒェンを立ってから数日。ライ達は次の力の有力候補でもある“金の泉”を目指して砂漠の町を渡り歩いていた。
しかし、残りの他の力がどこにあるか分からない今、“実は知らずに通り過ぎていました”なんて事態は避けたい。
力は何かしら噂を立てるはずだ、という教会の言葉を信じ、勇者団は人づてに“不思議な噂”を聞いては確認しながら動いているのである。
とは言っても所詮は噂話。労力に見合うだけの成果は何一つ手に出来なかった。
それもあって、勇者団の姫君テナエラはここ数日ずっと不機嫌なのだ。
「にしてもあの爺の××だけは本当に頭来たわ」
「お嬢、アレはアレで物凄いことだと思うんですけどねぇ、こちら男性陣一同は見てられない程にネ」
「凄いって何よ、ただラクダに××を踏ませたり、引っ張らせたりしてるだけじゃない。あんなのの何がすごいのよ」
「お嬢は分かってないんスよ、あの痛みを」
今朝方お会いしたご老人の特技は特にお気に召さなかったようで、それからずっとこの状態。
「んん、ゴホン。……テナエラ様、女性である貴方があまりそう何度も口にする言葉ではありませんよ」
面白半分で茶化すジンの首根っこを掴んだクニックが、呆れ顔で仲裁に入った。
「で、これからどうするのよ。さっきから端で縮こまってる勇者さん」
そこでやっと話を振られたライは、ヒィィ、と飛び上がる。
「あ、い、いや、そ、そそそそ」
まるでこれから魔物に喰われるかのように怯えるライを見て、ルーザンが大声で笑う。
「あっはっは、なんだァ、出会ったばっかりの頃に逆戻りだなぁ! シュネーヴィトヒェンで少しは成長したと思ったのによ。どうにかしてくれよリラ神官」
「仕方ありませんよ、何せ目の前の彼女が第一王位継承者だなんて知ったら、一般人は普通こうなりますからね」
優しそうに言ったリラ神官だが、一般人というのは皮肉だろう。
あの日、彼女から驚くべき事実を告げられた時、石のように固まったのはライだけだった。
つまり、ライ以外のメンバーは全員が彼女の正体を知っていたということだ。
「あのね。私のイライラの原因の半分はあんたよ、ライ。今更何よ、私が継承者だろうがなんだろうが、“テナエラ”って愛称の一人の人間である事には変わらないのに」
「あ……そ、そうなんでございますけど……やはり、テ、テナエラ様がこの国の未来の王になる方だと思いますると……」
ハチャメチャな敬語を遣うライに、テナエラは怒りを通り越して呆れた様子。
はぁ、と再び深くため息を付くと、ストン、とレンガから飛び降り、ライの前に目線を合わせるようにしてしゃがんだ。
「な、何でございましょう」
「だめよ」
「え?」
ダメ、と言われ反射的に前を向くと、思いの外近い所に彼女の顔があった。
「私は確かにこの国の姫と呼ばれる立ち位置にいるわ。けれども、貴方にも立派な立ち位置があるでしょう?」
「……た、ちいち?」
テナエラは恐ろしい程美しい作り笑いで言う。
「勇者って立ち位置。つまり私と同等、或いはそれ以上」
「いや、そんな、まさか!」
「知ってる? 統率された軍の将は必ず正しい尊厳を持っているのよ」
正しい尊厳?
突然に何を言い出したかと思い、ライが眉間にシワを寄せると、彼女は人差し指でそのシワを突つきながら言った。
「勇者団の将は貴方よ。将である貴方がそんなでは光の民の軍は統率されない。……そうね、今後一切貴方は誰に対しても敬語は禁止。そして敬称もね。私のことはテナエラと呼びなさい。OK?」
そんなOKな訳あるか! と周りに助けを求めたが、全員が怖い笑顔で首を縦に振っていた。
「わ、分かりました……いえ、分かった! が、がんばるから……その、たまに敬語になるのは許して……クダサイ」
それじゃあ午後もこの町で聞き込みね、と言うテナエラの号令でそれぞれ二手に分かれての行動になった。
「……明らかにこの人選は僕を計っているような気が」
「何か言ったかしら?」
「いえ、何も」
勇者団が二手に別れると言ったら安定のメンバー。ライと共に居るのはテナエラとクニックだ。
「はい、練習。私は誰?」
「テ、テナエラ……」
「じゃあ、彼は誰?」
「クニック……」
「よく出来ました」
自分よりも身分も年齢も上の二人を呼び捨てにするなんて胃が痛い。
だが、リラ神官が言ったようにいつまでも“一般人”に甘んじていてはダメなのは自分でも分かっていた。
半ば強引だが、変えるきっかけを作ってくれたテナエラには感謝しなければいけない。
そんな事を思っていると、通りすがりの少年達からあるワードが聞こえてきた。
「見たか? 凄かったなさっきの」
「ああ、あれは魔法のランプに間違いない」
魔法のランプ――いかにも力に関係のありそうな言葉に、ライは咄嗟にその少年の腕を掴んだ。
「な、なんだよ」
突然に腕を掴まれた少年は当然困惑ぎみ。
「あ、いや、ごめん。じ、実はさ。僕達不思議な物を探していて。その“魔法のランプ”の話を詳しく聞かせて貰えないかな?」




