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故郷ガザラに残された願い

 パラパラ、と額に何かが降って来た感覚で目が覚めた。

 ここは何処だ。

 真っ暗闇で何も見えない。

 

「……っ!」


 身体を起こそうと力を込めるが、全く下半身に力が入らなかった。


「……はは、そうだった、そうだった」


 私は背中に感じる冷たい石畳の感触に、空笑いをする。


「ああ、無事に王都に着いているといいなぁ」


 生身の人間を空間転送する術は、魔法陣を稼働させる術の中でもかなり高難度の物にあたる。

 いくら巨大な魔蓄石や聖人のご遺体の力を借りたとしても、それを扱う術者が私とリサの二人だけだなんてあまりにも負担が大きすぎた。


「目も使い物にならないなんて、たまったものじゃないね」


 おそらくこの部屋は暗闇なんかではなく、今も煌々と魔蓄石が輝いているはずだ。

 その光が見えないのは、きっと私が精力を使いすぎて視力を失ったからだろう。

 この症状が一時的なものか、或いは一生涯のものかは分からないが、命が助かっただけでも良しとするしかない。


 私は微かに動く左腕だけで、辺りの様子を伺う。

 すると、すぐ側に誰かの細い髪の毛の感触を見つけた。


「……リサ」


 私の声が微かに反響する。


「起きて欲しいな、君には」


 願う言葉が魔術きせきを起こすなら、私は何度でも願おう。


「君には、生きていて欲しい」


 私がこんな体になってしまっては、弟の帰る場所を守るのは君しか居ない。


 そんな願いが届いたのか、微かに唾を飲み込むような音がした。


――あぁ、良かった。


 そう思うと、鼻の奥がツンと痛くなってくる。

 その原因はこの不甲斐ない体のせいか、はたまた愛する弟を手放したせいか。

 いや、その他にも思い当たる物がありすぎる。


 何も映さない目からも、涙は確かに出るらしい。

 目尻から落ちた涙がこめかみを通って地面へと流れる。

 

「泣いてるの」


 不意に横から声をかけられた。

 目を覚ましたのか、やや掠れたリサの声だった。


「ああ、みっともないでしょう。泣きたいのは私ではなく、ライの方だろうに」


 私の頬に、氷のような冷えきった指が添えられる。


「大丈夫よ、きっと、貴方も、私も、あの子も泣いてる」


 ポタ、ポタ、と彼女の涙が私の鼻先に落ちてきた。


 うっすらと目を開けると、先程よりも回復した視界が彼女の顔の影を捉えた。


「ほんとだ。リサも泣いてる」

  

 私がそういうと、彼女は勢いよく抱きついてきた。

 私は彼女の腰に手を回し、きつく抱きしめた。彼女の肩越しに宙に浮かぶ魔蓄石の光をぼんやりと見つめる。


「はじまってしまったね」


 声を殺して泣いていた彼女は、震えるように何度も頷く。


「私、ずっと願ってたっ……! この日がずっと来なければいいって。あの子と笑って過ごす穏やかな日常がずっと続けばいいのにって!」

「私もだ」

「なのにどうして!? この世界の運命を背負うだなんて、そんなの可哀想すぎる。あの子には無理よ! だって、あの子は……」


 ただの優しい男の子だもの――リサの言葉が虚しく響く。


 この世界は残酷だ。

 我々光の民の運命は、まだ幼い少年きみの肩に託された。

 ライ、今まで隠していてごめん。

 傍で守ってあげられずにごめん。

 最後まで偽りを並べてごめん。


 謝っても謝りきれない“ごめん”がある。


 でも、どうか信じて欲しい。


「ライ、君は私の大切な弟だ。私は君を愛している」


 どうか、君の進む未来が少しでも明るく、幸せである事を願おう。

 お久しぶりです。作者の千歳です。

 約1ヶ月間のお休みを頂きました。ありがとうございました。


 今回は第1話の後の、ガザラに残された兄ソウリャと従姉妹のリサのお話です。

 あの2人は無事なのか……? と不安に思われていた方もいらっしゃったかと思います。大丈夫です、とりあえず生きています!


 来週からは新章開幕です。次のお話は「千一夜物語」でも語られる魔法のランプが題材となっております。


 次は3月5日更新です。是非ご覧下さい!


        2022年2月26日 千歳実悠

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