(13)闇夜と朝日の境界で
クニックに向けて黒い光線を放っていた闇の民の手が、ピタリ、と止まった。
さあ、来い――!
「ライ、逃げてっ!」
ズゴーーーン、と大爆発が起きた。
その衝撃にライの身体は宙に投げ出される。
「うっ……ゲホッゲホッ」
ライは地面に叩きつけられ、数メートル滑って止まった。
吹っ飛ぶ直前、目の前には仲間が貼ってくれた防壁が何重も見えたはず。
「防壁があってもこの威力……。でも、これなら使える!」
ライは確信を得た。
各々が自分一人で防壁を貼るよりも、一人に集中して何重も貼る方が強度は増す。
時間を稼ぐには、それを利用するしかない。
「……ハッ、僕はここだ! ここに居るぞ!」
バチっと、闇の民と目が合った。
ライは心の中で強く念じる。
僕だけに集中しろ、僕だけを見ろ。
そう、そのまま……!
そんなライの思惑通り、闇の民はライに向けて攻撃を繰り返して来た。
その度に体は空中に投げ出される。
「はぁ。はぁっ……くっ、はぁ」
もう何度目か分からない攻撃を受けたライは、次の攻撃に向けて立ち上がるが、限界は近い。肩を大きく上下させ呼吸を乱していた。
特別訓練など受けていない身でこの攻撃を耐えるのは、さすがにきついものがある。
夜明けはまだか、と視線を空に移した瞬間。
闇の民が幾数もの黒い光線を再び放った。
しかしその光線は、こちらではなく避難待ちの民衆の方へ飛んでいく。
「あっ、そっちはダメ――!」
ライが声を上げた瞬間、闇の民が笑った気がした。
光線が百八十度方向を転換する。
しまった。
そう気づいた時にはもう遅い。
仲間の防壁は民衆の方に貼られている。今からライを守る防壁を展開する時間はない。
丸裸だ。
「うあっ……ああああああ!」
鋭利な光線は容赦なくライの身体に降り注ぐ。
当たった部分が、焼けるように痛い。
光線は肩や肘にかすり、ライを数メートル引きずると、背後のレンガの壁にライを貼り付けにするように突き刺さった。
運良く致命傷を免れたライだったが、これでは身動きが取れない。
「ライから離れろ!」
視界の端でテナエラが白い光線を打つ。
だが、ダメだ。
奴の纏う“本当の闇”は光を跡形もなく吸い込んでしまう。
コツ、コツ、とゆっくり、しかし確実に闇の民はこちらへと歩いてくる。
「……黒い矢、抜けろ、抜けろ!」
ライを拘束する黒い矢は、ライの言葉など聞き入れるはずがない。
「――お前が勇者か。よく顔を見せてみろ」
「やめて、は、離せっ!」
目の前まで来た闇の民に顎を捕まれ、無理やりに視線を合わせられる。
「ほぅ……。魔術も使えぬお前のような者を勇者に選ぶとは、光の民の神とやらも、たいそう無慈悲なことだ」
闇の民という名には似つかわしくない白いローブを纏った“奴”は、面白可笑しそうに唇を吊り上げながら、甘い声で話しかけてきた。
「……言葉が話せるとは思いませんでした」
「まさか私も勇者と話せるとは思わなかった」
闇の民、邪悪な民。
勝手に言葉も通じない醜い民なのだとばかり思っていた。
しかし言葉が通じるのであれば、無闇に戦う必要はない。
「なら簡単です、話し合いましょう。これ以上人を殺さないで欲しい!」
ライの言葉を聞いた闇の民は、大きく目を見開き、そして腹を抱えて大笑いした。
「ヒヒヒヒヒッ、はぁ、傑作だなぁ優しく愛しい勇者よ。お前の純粋なその目は我らには痛い程に眩しい」
「何が言いたいんですか」
「ぬるいんだよ」
闇の民は、ライの額に人差し指を突きつけた。
「教えてあげよう、真っ白な勇者君。我々と光の民はそんな簡単な事も出来ないのだよ」
闇の民の爪がライの額に突き刺さり、つぅ、と血の筋を垂らす。
「さらばだ、勇者よ」
殺られる。
そう目を固くつぶった時、額に暖かさを感じた。
「…………?」
恐る恐る、目を開ける。
「ま、眩しい……」
目の前が真っ白でキラキラと輝いていた。
「……朝日だ、朝日が登ったぞ」
誰かが、ポツリと呟く。
「やった、俺たちゃ生き残ったんだ!」
「死なずに済んだんだ!」
城壁の上から差し込む朝日に、今度こそと湧き上がる民衆。
少し離れた所にお互い支え合うように立つ勇者団の仲間に、喜びに抱き合っているクリスティーナの騎士達。
「……勝った、のか……?」
目の前に居た闇の民は、きれいさっぱりと消えてしまっていた。
いつの間にか突き刺さっていた黒い矢も消え、ライの身体は自由になっている。
「ライ!」
「はっ、はい!?」
テナエラに呼ばれ振り向こうとすると、背後からドンッと衝撃が。
「……良かった、無事で良かったわ」
「あ、あのっ、テナエラさん!?」
ライは後ろから思い切り抱きしめられた。
「あの、その、えっと……」
相手が自分の上司にあたる人だとは言っても、流石に、さすがに、サスガニ、抱きしめられるのはドキドキしてしまう。
ライが顔を真っ赤にしていると、テナエラはライの右腕を撫で、その手に持っていた剣を奪った。
「無事でよかったわ、伝説の剣!」
「え」
「え?」
予想外の展開にライは目が点になる。
「フフ、冗談よ。ほら、行きましょう。今くらいは英雄で居なさい、勇者ライ」
ライはテナエラに手を引かれ、歓喜に湧く民衆の方へと歩いて行った。




