(12)闇夜の攻防戦
「行くわよ、付いてきなさい!」
「はいっ」
ザッと地面を蹴り駆け出したテナエラの後を、ライとクニックが追いかける。
近寄ってくる我々に気づいた闇の民は、白いローブの下から手を出しこちらに向けると、ズシュ、ズシュ、と針のような黒い光線を撃ってきた。
「防壁、展開っ……展開!」
クニックが出した魔術の防壁に次々と黒い光線が突き刺さる。
「火の精霊、我が剣に不死鳥の炎を!」
走りながらテナエラがそう唱えると、彼女の構えていた剣はオレンジ色の炎に包まれた。
彼女は臆すること無く、炎の尾を引きながらそのまま闇の民との距離をどんどん詰めていく。
そして闇の民はそれを迎え撃つかのように、腰から黒い瘴気を纏った剣を抜き、片手で構えた。
「くらえっ……!」
ダーン、と凄まじい衝撃波が走る。
二人の剣がギチギチと噛み合った。
「んっ……ぐっ……」
押され気味のテナエラ。そこに追い打ちをかけるかのように、闇の民の剣の瘴気は突如倍増し、彼女の剣の炎を包むように飲み込んでいってしまう。
「テナエラ様、引いてください!」
一度テナエラを闇の民から引き離そうと、クニックが後ろから白い光線を闇の民に向かって放った。
その光線は猛スピードで闇の民に向かって飛んでいく。
しかし闇の民は空いている方の手を光線に向け、円盤状の黒い瘴気を発生させる。すると光線はその瘴気は吸い込まれるようにして消えてしまった。
「後ろががら空きだァァァ!」
テナエラと対峙する闇の民の背後に回ったルーザンは高く跳躍し、その勢いも力に変えて大剣を振り下ろす。
「……チッ、マジかよおい」
しかし、その攻撃すら簡単に塞がれた。
闇の民はテナエラの攻撃を片手で抑えながら、鈍く銀色に光る鎧を付けた腕でその大剣を受け止めたのだ。
「そんなっ、ルーザンさんの大剣は剣をも折る力があるのに……!?」
砂漠の民のサーベルを真っ二つに折ったその力を、腕ひとつで防いでしまうとは。
「これはマズいね……ライ君俺の後ろに」
クニックがライを自分の後ろに隠すように立ち位置を変える。
その後間もなく、闇の民の周囲に色濃く瘴気が立ち上った。
「来る!」
ズササササ、と無数の黒い光線が闇の民を中心に三百六十度、放射状に放たれた。
クニックが慌てて張った防壁も砕かれ、数本の光線が彼の身体に掠る。
「クニックさん!」
「大丈夫、そのまま動かないで」
ジュウ……と焼けるような音を出す右腕を左手で抑え、痛みに顔を歪ませるクニック。
「でもっ」
「いいから!」
クニックはライの口を塞ぐと、ジッと目を凝らし前を見続けた。
辺りに充満した瘴気が徐々に薄れてゆく。
そうして見えてきたのは、ツンと佇む闇の民とその足元に横たわるテナエラとルーザン。
「チッ、あの野郎っ!」
クニックが剣を抜いて闇の民へと突進して行った。
ルーザンの援護として付いていたジンもクニックの行動を見て一緒に走り出す。
「ダメっ、待って!」
ライがそう叫ぶも二人は聞く耳を持たず。
そうしている間にもライの頭上を十数本の白い光線が飛んでいく。
振り返れば、避難民を守るように陣を組んでいたクリスティーナの騎士達が一斉に援護射撃を放っていた。
――残念ながら、我々のそれとは格が違いました。
あの日のソウリャの言葉が甦ってくる。
彼は、世界最高峰の軍事力である魔術兵団でさえ全く歯が立たなかったと言っていた。
ならば、こんな行き当たりばったりな攻撃で凌げるわけがない。
ドーン、と再び爆発が起き、その風圧でクニックが宙に舞った。
空中で体制を整えるも、彼の身体は傷だらけ。
ダメだ、勝てない。
どうしたらいいのだろう。
剣を握る右手が汗でじっとりとする。
『――躍らされるな。今自分がすべきことを冷静に考えよ』
「!?」
頭の中に直接響くような声がした。
「あなたは……」
聞き覚えのある声にライは慌てて剣を見た。
そう、これはあの日以来聞こえていなかった剣の声だ。
「教えてください、僕達はどうしたらっ」
縋る思いで剣に問う。
『考えるに足る情報を視る力は既に授けたはず。全てを他者に聞いてはお前を選んだ意味が無い』
授けた力――それは即ち“透視鏡”の力。
「……情報を視る、情報を視る」
ライは言われたことを反芻する。すると、不思議とうるさかった鼓動が静まり、思考が起動し始めた。
「よし」
ライは数回深呼吸をして、今目の前に並べられている情報を頭の中で言葉にしていく。
クニックとテナエラが闇の瘴気の中で戦っている。ルーザンとジンは姿が見えない。
あっ……闇の光線がクニックの肩に! 続いてテナエラの足にも……。
ダメだ。敵は強大な力を持つ闇の民。いくら有能な戦士とは言っても彼ら個々の力では到底敵う相手ではない。
このまま戦っていたら、日が昇るまで持たないのは明白。
力で敵わない相手に、どう戦えばいいのか。
ましてや無力な自分は、どう戦えばいいのか。
いや、待て。
「……戦っちゃダメだ」
今は戦うべきじゃない。
刃の通らない相手にいくら攻撃しても無駄。むしろ、攻撃の隙を討たれるリスクが高い。
ならば防御だけに力を注げば……。
何をするにも、まずは闇の民の攻撃の手を一度止める必要がある。
「……奴の注意を僕に集めるんだ」
この方法を取れば、闇の民は攻撃の対象をこちらに移すだろう。
でも、大丈夫。きっと、仲間が奴の攻撃から僕を守ってくれる。
ライは皆を信じ、大きく息を吸った。
「闇の民! これが見えるか!」
伝説の剣を高く真っ直ぐ上に掲げる。
「僕が勇者だ。来るなら僕の所へ来い!」




