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(11)僕達が許さなさい

「逃げて!」


 テナエラが急いでそう叫んだ。しかし破壊された壁は真下の人々に容赦なく降り注ぐ。


「守の防壁シールドっ……ぐっ……」


 ジンが咄嗟に防御魔術を使うが、その重さに耐えられなかった。

 爆発された破片とは言ってもひとつひとつの質量はかなりの物。落下速度と相まって落ちた衝撃はすさまじいものになる。


 “一瞬の気の緩みが命取り”

 本当にその言葉の通りだった。


 絶望の悲鳴が響く中、ライが為す術なく立ち尽くしていると、ヒュン、と再び音がした。

 その方を見れば、今度は反対側の壁も砂煙を上げて崩れ始まる。


 これが、闇の民の力か。

 その圧倒的な力差に、勇者団は皆言葉が出ない。


「いい加減にしろ……!」 


 真っ先に走り出したのはクリスティーナだった。

 彼女は腰の剣を力強く握って、闇の民へと飛び込んでいく。


「クリスティーナさんっ」


 その後を追おうとしたライの腕を、パシっと、テナエラがすかさず掴んだ。


「いかなきゃっ」


 焦りを抑えられずにいるライに対し、テナエラは静かに首を横に振る。


 視線をクリスティーナに戻せば、彼女は止まる様子がない。

 ズシャ、ズシャ、と打ち込まれる真っ黒な光線をヒラリと交わしながら、全速力で駆け抜ける。


「貴様ァ!」


 クリスティーナは、闇の民まであと少しという所で、グッと姿勢を低くし、そのままの姿勢で奴の真横を通り抜けた。


 すれ違いざまに、キーン、と甲高い音が鳴る。


 クルッと直ぐに奴の方へ体を向け、次の一手の体制を整えるクリスティーナ。

 しかし闇の民は彼女に構うことなく真っ直ぐライ達の居る城門へと歩き続けた。

 刃を向ける人に無防備な背中を見せるなど言語道断。

 クリスティーナはここぞとばかりに動いた。

 両手で握った剣を腰の位置に固定し、奴の背中に突き刺さそうと全体重を乗せて突進する。

 刃先が闇の民のローブに届く……と思った瞬間。

 音もなく振り向いた奴は、クリスティーナの剣を篭手(ガントレット)で払い除けた。そして軸を崩した彼女の首を容赦なく掴み上げる。


「ぐっ……くっ……」


 宙吊り状態にされたクリスティーナは、息もままならない。

 ギシギシと音を立てて、首を掴む力は強められる。


「……っ……」


 カランカラン、とクリスティーナの剣が地へと落ちた。

 顔が徐々に赤みを帯びてくる。

 彼女の手がダランと垂れたのと同時に、闇の民の足元から真っ黒な瘴気が立ち上った。


 その瘴気は、遠くからでもハッキリと見えた。


「テナエラさん、どうしよう……!」


 それがどんな物なのか想像もつかないが、“絶対にヤバいやつ”な事は直感で分かった。


「どうしようって言ったって、どうする事も出来ないじゃない!」


 間に入って彼女への攻撃を凌ぐのは簡単。しかし、あの力がこっちに向けられては本末転倒なのだ。

 そうしている間にも瘴気は闇の民の腕を伝い、クリスティーナの喉元を包み込んでしまった。


 どうするべきか、と頭を抱えたライ達の横を、一人の少年が駆け抜けて行く。


「ク、クリスティーナ様を離せ!」


 少年は足元のレンガの欠片を拾って、闇の民の方へと力いっぱい投げつける。

 もちろん遠く離れている奴に届くわけはない。

 それでもめげずに何度も何度も欠片を拾い、投げつけていた。


「そ、そうだ! クリスティーナ様を離せ!」

「我々のクリスティーナ様を離せ!」


 少年の行動を筆頭に、人々が再び声を出し始めた。


「あーあ、こういう町。嫌いじゃないわ」


 勇者団達の心配を他所に、自ら闇の民の気を引き始めた住民達に、テナエラはやられたといった表情。

 彼女は足元から棒状の何かを拾い上げると、闇の民へとその先端を向けた。


風の精霊(ウィンリアネスト)、飛ばせ!」


 テナエラがそう言うと、持っていた棒は高速で彼女の手を離れ、闇の民に一直線に飛んで行く。

 そして、クリスティーナの首を掴む篭手(ガントレット)に、コツン、と当たった。


「来るわ、構えて」


 テナエラの読み通り。数秒の間隔の後、ダダダダダダ、と連続してライ達の足元に黒い光線が打ち込まれた。


「へへっ、来ると分かってれば、ある程度は防げるんですよ」


 黒い光線はジンの出した防壁(シールド)に次々と突き刺さっていく。

 闇の民は、空いている方の手をクリスティーナに向けた。

 すると、ドゴォン、と彼女を爆破の魔術で吹き飛ばした。

 恐ろしい早さで飛ばされて来た彼女は、ガラララ、とレンガの残骸をかき分けるように滑りながら地面へと叩きつけられる。


「クリスティーナ様!」


 駆けつけた騎士に抱きあげられた彼女はぐったりとしたまま返事をしない。


「あのバケモノ、こっち来ますよ。どうします? 坊、お嬢」


 ゆっくりと、しかし確実に闇の民は近づいて来る。

 このままこの城門で戦闘を起こすのは非常にまずい。下手すれば全滅という最悪の結果も有り得る。

 ライが空に目をやると、心做しか白くかすみ始めているように見えた。

 夜明けまであと少しか。なんとか闇の民の足止めをして時間を稼ぎたい。

 

「チッ、直接対決は絶対に避けたかったのに」

「テナエラさん待って」


 腰に提げている剣に手を添えたテナエラを、ライは慌てて止めた。


「僕が行きます」


 ライは背負っていた伝説の剣を外し、テナエラへと差し出す。


「闇の民が一番興味を示すのは勇者——僕のはずです。朝日が差すまであと少し。僕がここをかけ回れば、その時間を稼げるかもしれない」


 呆然とするテナエラに、ライは伝説の剣をグッと押し付けた。


「今度こそ僕は奴から()()()()()


 テナエラがゆっくりと伝説の剣に手を伸ばす。

 そして、それを受け取った。


「……すみません、貴女の剣を少し貸してください」


 と、ライがテナエラの腰の剣に手を伸ばした瞬間。その伸ばした手を思いっきり引っ張られた。


「ダメよ、行かせないわ」

「えっ……。でも、このままじゃ奴に!」


 テナエラは伝説の剣をライの手に無理矢理握らせ、耳元で囁くように言う。


「一人でなんか行かせない」


「……!」


 ドキッとして視線を上げると、彼女は覚悟を決めたような自信満々な笑みを浮かべていた。


「さぁ、いくわよ、勇者(リーダー)


 テナエラは腰の剣を抜き、ズンズンと闇の民へと向かって歩いていく。

 その後にクニック、ジン、リラ神官と、勇者団メンバーも続いた。


「いいかシマリス、“勇者の覚悟”も上等だが、俺らの“勇者と共に戦う覚悟”も侮っちゃいけねぇぜ」


 ルーザンが、ライの背中をドン、と叩いて行った。


 振り返れば、頼もしい五つの背中が自分を待っている。

 ライはその中心へと駆け寄り、シャリリリ、と背中の剣を抜いた。

 そして、ギラリと光るその剣身ブレードの先を闇の民へと向ける。


「……行きましょう! これ以上は僕達が許さない!」

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