(7)それぞれの正義
「どう? 少しは理解出来たかな」
「はい! ありがとうございます。剣って手だけで扱うのかと思ってたんですけど、違ったんですね」
テナエラとの練習を外から見ていたクニックは、最大の問題点は足さばきだと指摘してくれた。
基礎的な数パターンの足さばきを教わるだけでも身のこなしが愕然と変わってくる。ライはクニックと二人で部屋に戻るまでの間も、忘れてしまわないようにステップを踏みながら帰った。
部屋に戻るとテナエラは既に寝息を立てていた。二人も急いで汗を流し、ベットへと就く。
明日はいよいよ目的地シュネーヴィトヒェンに到着する。噂されていた“白雪の鏡”とは一体どんなものなのだろう。
目が冴えてしまっていてなかなか眠りに付けないライは、二人が寝ているのを確認すると、自分の荷物から昨日貰った蝋燭を取り出した。
今朝から時間を余す度に取り出し、詞をかけていたのだが、未だに新品の状態の蝋燭。
「火の精霊、この蝋燭に――」
真っ暗な部屋に、囁くような声がしばらく響いていた。
「――見たところ力の無いただの少年じゃないか。彼にこの鏡を渡した所で、果たして使いこなせるのか否か」
「彼に鏡を渡すことによって生じる損害はかなりの物だ。はたしてこの町は存続できるのやら」
シュネーヴィトヒェンの中央に建てられた市庁舎。政治機関のひとつでもあるその建屋の一角に再び十数名の老人達が集められていた。机に置かれた蝋燭によってできた彼らの影が、部屋の壁に不気味に浮かび上がる。
「クリスティーナ様、これは間違いの無い事実なのか?」
一人の老人が、大人の頭ほどの大きさの鏡を抱えて立つ女性へと問いかける。
「……私が魔術で偽りを見せていると?」
「いやはや、まさかそんな」
クリスティーナと呼ばれた女性は、私はあくまでも鏡に“勇者を映してください”と詞をかけただけです、と言う。
「……今までの経験から、この鏡が偽りを映したことは無い。これが勇者の本当の姿だと言うのだろう」
遠く離れた地をも見通せる“白雪の鏡”こと透視鏡。そこに映し出された不甲斐ない勇者の姿に、老人達はあからさまに肩を落とした。
「明日にはここシュネーヴィトヒェンに到着するでしょう。この鏡の譲渡について悩む時間ももうありません。……どうなさいますか、シュネーヴ様」
話を振られた男、この地を治める侯爵シュネーヴ卿は意を決したように大きく頷く。
「私は――」
集まった全員が固唾を飲んで次の言葉を待った。
「シュネーヴィトヒェンの発展に、この鏡は必要不可欠だと思っている。我々の未来の栄光の為には、我々はこれを死守せねばならん。異論のある者は今のうちに申し出よ」
先日反論した教会関係者も今日は固く口を閉ざしたまま。
意見が一つも出ないのを確認するとシュネーヴ卿は、では決まりだな、と言って椅子から立ち上がり、杖を高くあげて宣言した。
「この鏡は我々の命の水。勇者と言えどもこれを奪い去ることは許されない。我々こそが正義だ! 我々はこの町の救世主となろう!」
「御意!」




