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(1)剣の暴走

「テナエラ様、はぁ、そろそろ終わりに、しません、か……はぁ、はぁ」

「まだよ……、こうして居る間にも、侵略されてる国があるのよ……私だけ、休んでる暇なんて……」


 壁に掲げられた太陽旗。その隣には“光につかえよ”と言う王国軍の忠誠の言葉が掲げられている。

 王宮内のほとんどが寝静まった深夜、とある会堂には、ゆらゆらと動く人影があった。その正体は真っ白な軍服に身を包んだ兵士二人。片方は屈強な体格を最大に生かし大剣を振りかざす男、もう片方はしなやかな身のこなしで細めの剣を軽やかに扱う女兵士だ。二人は息を切らしながら、剣同士を激しく噛み合せる。


「休息も大切です。そんなに根を詰められては、いづれ来る剣の目覚めまでに、身体が持ちませんよ」


 そう言われた女兵士は一瞬酷く不機嫌な顔をするも、組み合わせていた剣を外し大人しく腰にしまった。

 彼女は心を落ち着かせるように何度か深呼吸をすると、額から流れる汗を腕で拭い、ふと天井を仰ぎ見る。

 高い天井に開けられた天窓からは、恐ろしい程真っ暗な空が覗いていた。


 太陽が沈み翌朝再び登るまでの間。太陽を失った我ら光の民は、どうしても魔力が弱まる。


「今日は新月なのね。明日の報告が恐ろしいこと」


 神が闇から護るために浮かべた月も、月に一度は闇に飲まれる。


「さぞ嘲笑あざわらっていることでしょうね。どんなに攻撃を仕掛けても、なんの抵抗も出来ない我々光の民を。そしてそこに来たこの新月。ただでさえ弱い我々の力がさらに弱まる日だもの」

「テナエラ様」

「こんな絶好の機会、アイツらが見逃すわけないわ」

「……テナエラ様、今日はもう休みましょう」


 男が、心配そうに言う。


「大丈夫よ、今日は剣の鍛錬に付き合ってくれてありがとう。明日に備えてあなたも休みなさい」


 テナエラと呼ばれた女は、軽く右手を振るとその場を後にした。





「おかえりクニック。今夜もまたテナエラ様と手合わせしてたのか? ほら、飲みな」


 先程の男、クニックが部屋に戻るなり、同室の同僚が水を差し出してくれた。


「ああ、ありがとう。ほんと、困ったもんだよ。きっと今頃は伝説の剣の前で祈りを捧げていらっしゃるんじゃないか? あれじゃ体がいくつあったって足りやしない」

「なんで剣はテナエラ様を勇者に選ばないんだろうな。血筋といい、魔力といい、剣筋といい、新たな勇者になるのには申し分ないだろうに」


 クニックは、本当にな、と言って肩を落とした。


「テナエラ様は本当に小さな時から、勇者になる為に、それだけの為に生きてこられたようなお方だ。勇者に選ばれないのは自分がまだそのレベルに達していないからだと思ってるらしい」

「それでここ最近、昼夜問わず鍛えてるって訳か」

「そういうこと。周りの町が滅ぼされていくのすら、自分が不甲斐ないせいだと思ってしまってるんだろう」


 クニックはコップの水の波紋を見つめながら呟く。


「見てて悲痛になる」

「同感」


 ごろん、とクニックは自分のベットにそのまま横になった。


「流石に汗流せよ、臭いぞ」

「いや、もう疲れた……」


 ベットの頭側に開けられた窓の外を見て、先程のテナエラ様の言葉を思い出す。


「……新月、か」

「ん?」

「なぁ、俺たちは王国軍魔術兵団だぞ」

「ああ、そうだな」

「次々に町が滅びていく中、こうやってふかふかのベットで雑談交わしてていいのかな?」


 クニックの言葉に、同僚はフンと鼻を鳴らす。


「忘れたのかよクニック。王立パラマ研究所の爆発に向かった先発隊、一人も帰って来なかっただろ。剣が目覚める前に、これ以上の無駄な犠牲は出せないんだろう」

「無駄……ねぇ。俺さ、大切な物を守りたくて兵士になったんだ。それなのに、こうして安全な王都ばしょで大事に護られてるなんて、笑い話にもならねぇよな」

「……お前っ、それ絶対外で言うなよ。容赦なく首が飛ぶぞ」


 騎士足るもの、それはそれで本望だな、なんて思いながら目を閉じると、ドッと疲れが襲ってくる。


 明日は朝から対闇の民の軍事会議が開かれる。上官達がその内容を我々に伝えに来るのはお昼過ぎになるだろう。

 今この瞬間に、いくつの命が消えてるのか。そんな事をぼんやりと思った。


 ジリリリリリリ!


「わっ、何事!?」


 クニックが寝入る寸前、緊急事態発生のベルが鳴り響いた。


『緊急事態発生、緊急事態発生、王宮内に異常な魔力爆発を確認。王国兵全員、集合』


 今日は新月……その言葉が脳裏をよぎる。


「クニック、急げ!」

「おう!」


『再度通告、王国兵全員集合、場所は、剣の間』


――剣の間?


 アナウンスの言葉にクニック達は顔を見合わせる。

 異常な魔力爆発が起きたのが、例の伝説の剣を保管している剣の間。

 すると、最悪の状況と最高の状況、両方が想像できた。


「クニック、体力は戻ってるか? 無理そうなら後ろにいた方がいい」

「大丈夫だ、心配ありがとう」


 二人は廊下に出ると、ほかの隊員たちに紛れて“剣の間”へと走って向かった。


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