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司さんちの晩御飯

 時刻は六時過ぎ。

 五人が帰宅した後、真白と総司は大学の課題を片付けたり、ゲームしたりといつも通りの夕方を過ごしていた。


「真白、この後どうする? 飯は食べていくだろ? 簡単に作ろうと思ってたんだけど」

「うん、食べてから帰る。それで今日は何食べるの?」


 総司の部屋でご飯を食べるのは日によって変わるが、基本的には共にすることが多い。

 自分だけなら適当に簡単に済ませるが、彼女も一緒だと献立も変わり品も増える。なので、食材は多めに買ってあったりする。


「みそ汁とおかずは冷凍のイカを使って一味とマヨで炒めようかと」

「手伝うからおひたしも付けていい?」

「ああ、助かる。多分、ほうれん草か小松菜があったな。どっちを使ってもいいぞ」

「分かった」


 言って、真白と総司はキッチンへ。

 彼女はこの部屋にエプロンを置いてあるのでそれを着用する。


 去年の冬頃からは、たまにご飯を作ってくれたりもしており、真白が台所に立つのはすでに見慣れた光景だ。


「総司、卵の賞味期限が切れかけてるよ。どうする? 今から使う?」

「なら明日の弁当に入れようか」

「明日の二人分のお弁当もこのまま作ろっか?」

「頼んだ。作り終えたら冷蔵庫に入れて、明日俺が大学まで持っていくから」

「ありがと」


 彼女が家に遊びに来るようになってからは、冷蔵庫の食材の様子を気にかけてくれるので、腐らせたり期限を超えてしまうことが殆どなくなったのだからとてもありがたい。


「お弁当の中身は卵焼きと今日のおひたしと何がいいかな?」

「夏は過ぎたとはいえ、イカは腐ると怖いからやめておくとして。そうだな、ウインナーが残ってるし、それと弁当用の冷食のパスタでいいか」

「おっけー」


 明日の弁当の中身も決まり、それぞれは担当を分けて調理に取り掛かる。

 真白はおひたしと卵焼きとウインナーを、総司はみそ汁とイカ、ご飯を炊く担当した。


「総司、お醤油取って。それと、お味噌汁は沸騰させすぎたら良くないよ」

「あ、そうだった。気を付ける。っと、ほれ醤油」

「ありがとう」


 彼女は、自分の調理も行いながら総司に的確にアドバイスと指示を出す。

 中学の頃から母親から料理を教わっているので、真白の手際は大変素晴らしいものだ。


 一方の総司は一人暮らしをするようになってから自炊を始めたので、まだ料理の基本も怪しい。それでも、真白が優しく教えてくれるので逆に苦にもならないし、上手くできた時は褒めてくれるのと、美味しそうに食べるのでやりがいがあった。


「よし、出来た! 総司は終わった?」

「俺も終わってるぞ」


 二十分ほどでおひたしと卵焼き、ウインナーを作り終えた真白は、既にお弁当に詰め込む作業も完了させている。


 総司の方も簡単に作れるものだったので、こちらも問題なくで出来がっており、後は皿に盛り付けるだけだ。


「じゃ、食べよう」


 二人で皿に料理を盛り付けたら、食卓に並べて席に着く。


「「いただきます」」


 寿司屋の時のように、仲良く手を合わせた。


「ん、総司もお味噌汁を美味しく作れるようになったね。凄く美味しい」


 みそ汁から手を付けた彼女は、第一声から褒めてくれる。


「真白には全然、敵わないけどな」

「そんなことない。これなら毎日作ってほしい」

「プロポーズか」

「やっぱりゼ〇シィ買う?」

「買わねぇよ。ていうか男が買うものじゃないだろうし」


 真白はゼク〇ィネタを引っ張ってくる。

 気に入っているのだろうか。


 しかし、年齢も年齢だ。大学を卒業してこのままいけば、結婚する未来もあるかもしれない。

 そう考えれば急に現実的な話に思えてくる。


 いつか、結婚情報誌を読んでいる彼女の姿を見る日が来るのだろうかと、総司はそんな想像をした。


「話は変わるけど、いつ総司のお母さんにお父さんに会いに行く?」

「急にどうした?」

「えっと、付き合った報告した方がいいのかなって」


 男女が交際すると、お互いの親に挨拶に行くというのは一種の儀式的、通過儀礼的なものだ。

 ただ、昨今はあまりそう行ったことも義務ではなくなっては来ている。

 総司は冬休みに実家へ戻った際に両親に報告すればいいか程度に考えていた。


「別にしなくても良くないか? まぁ、真白の両親の所には行く予定だけど」

「だったら、総司の家にも良くよ」

「そうか? 別に気にしなくていいぞ?」


 自分の親には適当に済ますつもりだが、彼女の家には男として訪ねるくらいはしておく必要があるとも考えていた。


 総司の両親は放任主義的な色合いが強ので、彼女を作ろうがどうしようがおそらく何も言うまい。


 ただ、娘を持つ親からしたら心配な事は多いだろうから、そういう義理を果たすのは当然だと考えるのが総司だった。


「どうせ、何回か会ってるから変わらないと思う」

「だよな。どっちにしろどこかで会うし」


 実はすでに二人はお互いの両親と顔を合わせていた。


 彼女の両親とは真白が二年生になる時に一人暮らしをすることになったので、引っ越しを手伝った際に会い、総司の方はこの部屋にいる時にたまたま訪ねて来た母親と出くわしている。


 また、飛角や晴音など大学の友人で旅行に行くために、大人数で乗れる車を総司の父親が持っており、それを借りる時に出会っていたりする。


「じゃ、三十一日は出かけるしその時に会いに行くか」

「うん」


 三十日一はハロウィンに託けて制服デートの予定だ。

 ついでにお互いの家に出向くのは手間ではない。


 プラン的にはまず二人で彼女の実家に向かい、そのまま挨拶を済ませ外出。その後、帰りに総司の実家によって挨拶を済ませて帰宅することに決めた。


「なんか緊張して来た。真白の親父さんにブチ切れられるとかないよな」

「大丈夫。多分どうもしないから」


 彼女の父親は温厚で優しい人であり、彼女のやりたい事や決めた事を尊重する人とも知っているので、交際の反対などされるとは本気で思っては無いが万が一と言うこともある。


 なんだか三十一日がデートで楽しみでもありつつ不安もあった。


「だといいけどな。ま、最悪は土下座するわ」

「問題ないよ。もし、反対したら私が処すから」

「怖いな。娘のお前はそれでいいのか……」



 真白は笑いながら怖いことを言い出す。


 父親を処すなどと穏やかではない。総司の前に立ちはだかるのが彼女の父親ではなく、真白の前に総司が立ちはだからなくてはならないかもしれない。


 どちらにせよ恐ろしい。そうならないことを祈るばかりだ。


「私の方こそ、総司のご両親に認められるかな」


 真白は真白で心配らしい。珍しく不安そうにしている。


「ああ、それは心配しなくていい。絶対に反対されるなんてことは無いから。真白なら諸手を挙げて歓迎されるよ」


 彼女は個性的で変わったところもあるが美人で優しい性格だ。

 それに勉強も出来るし、今日のように料理もこなせば、掃除や洗濯などの家事スキルも高い。

 

 彼女のような女性が交際を反対されるならば、総司は聖人でも連れて行くしかなくなる。


「そうかな。だったら嬉しい」

「俺が百パーセント保証する。とりあえず、挨拶はデートのおまけ程度に考えようぜ」

「うん」


 総司の言葉を聞いて安心したのか真白は穏やかな笑みを浮かべた。


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