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お寿司屋さんでデート

「そんじゃねー。仲良くするんだよ。しっぽりねっとりね」

「一言余計だ。この後、気まずくなるからやめてくれ」


 講義も終わり、帰宅する小豆と別れるが、その間際に下品な笑みで下品な事を言われた。


「分かった。ぬっぽりべっとりする」

「お前もやめろ……」


 ただし、彼女はあまり気にしていないらしい。

 こういう所は自分の方がまだ恥ずかしいのかもしれない。


「晩御飯の時間までどうする? お店は七時でしょ?」

「そうだな。まだ、一時間半はある」


 店については、講義中に二人で相談して決めている。

 チェーン店の回転ずしでも良かったが、付き合った記念にと少し背伸びし、ちょっとだけ良い所で食事をするつもりだ。


「飛角らも結構忙しいらしいし、ちょっと会うのも難しそうだな」


 二人は一昨日から昨日の深夜まで一緒に飲んでいたメンバーとまだその時以来、講義やバイトなどの関係で会っていなかった。

 時間に余裕を見て店を予約しており、余った時間で彼らに会おうとメッセを送ったがどうにもレポートやらサークルやらで都合が付かなかった。


「しょうがない。時間潰そう。雀荘に行く?」

「東風戦でも南入りしたら長引くし、時間合わせにくいから駄目だな。あと、発想がおっさん過ぎる」


 時間を潰すのにまず雀荘に行くことを提案する女子大学生は、おそらく真白以外にいないだろう。


 彼女は彼から麻雀を学んでからと言うもの、ちょくちょく二人で雀荘に足を運ぶことがあった。

 真白の性格からして黙々と打てる雀荘は気に入っている模様。


「折角新しい役を覚えたのに」

「へぇ? ローカル役満か?」


 真白は麻雀の基本役をすべて覚えている。だから役を覚えることはもうないはずだ。


 ただ、ローカル役満やローカルルールについては、総司も把握しきれている訳でないない。

 だから新しい役と言うものに総司は興味があった。


「無限リーチ、東西南北、ドラ隣、二色同順と途中まで通貫」

「それ全部架空の役だろ⁉ しかも、今放送中のアニメのネタじゃねぇか」


 そりゃあ、新しい役だろう。存在しない役なのだから。

 もちろん認められはしない。仲間内でふざけるならともかく、雀荘でやったらつまみ出されてしまうだろう。


「冗談。風花雪月ふうかせつげつを覚えた」

「アレか」

「総司は知ってたの?」

「おう。実は飛角らとローカル役アリで打った時に一回だけ見たな」

「私もやってみたい」

「ローカル役なんて、出そうと思って出るもんじゃないし。それだけのためにやろうと思ったら何時間かかるか」


 普通の役満ですら滅多に見られるものではない。

 それがローカル役満ともなれば、その機会はごく僅かに限られる。


「残念」

「ま、風花雪月はルールには無いけど、ゲームで麻雀するか?」

「いいね」


 ゲームなら歩きながらでなければ移動中もプレイ可能だ。

 途中で時間が来ても、CPU相手ならゲームを放棄しても問題ない。


 二人は早速麻雀アプリで一時間ほど消化させ店に向かった。


 因みに結果は、総司が真白に有名な役満である大三元を振り込んだりして惨敗した。

 滅多に見られないとは一体何だったのだろうか。


                # # #


「ここ、雰囲気良いね」

「だろ? 前に飛角と来たことがあるんだが、雰囲気も良いしなによりめちゃくちゃ美味い」


 総司が予約した店は世間でいうところの回転しない寿司屋。

 ただ、よくある日本っぽい建築や内装ではなく、洋風でメニュー表も置いてあったりとレストランに似た雰囲気の店だった。


 回転ずしではない寿司屋なので目の前に寿司職人が常に見える状態だが、カウンターと対面の席のみではなく、カウンターに面したボックス席が設けられ家族連れや若い客にも馴染めやすいように設計されていた。

 総司と真白は二人用のボックス席に案内される。


「注文、どうする?」

「総司のおすすめとかある?」

「ガリ」

「怒るよ」


 ボケてみたつもりだが、真白は言葉以上に怒っていた。

 彼女は熱いお茶を手に取る。一体、何をするつもりだろうか。


「悪い悪い。とりあえず落ち着け。その熱いお茶を置こうか」

「それで、何がおすすめ?」

「やっぱり、マグロとかサーモンかな。真白はコハダとか食えるよな? だったら、光ものもおすすめだ」

「じゃ、マグロとアジとはまちにする」

「了解。すいません」

「はい!」


 総司はカウンターの向こうに声を掛けると、若い男が対応してくれる。


「マグロとアジ、はまちを二皿ずつ。それと、たこを一皿をおねがいします」

「かしこまりました! サビはどうします?」

「サビ抜きでいいよな?」

「あ、うん。お願い」

「抜きで」

「かしこまりました! 少々お待ち下さい」


 以前に来たこともあって、彼はスムーズに注文する。

 こういう店で注文に手間取らない男は女性にとって格好良く映るだろう。


 総司はそう自負してちらりと真白を見てみるが、彼女はきらきらとした表情で席から見える寿司職人の作業に魅入っていた。


(悲しい……)


「はい、お待ちどうです!」


 二、三分もすればすぐに注文した品が出された。

 すべてのネタが光り輝いており、素人目でもどこからどう見ても新鮮だと分かる。落ち込んでいた総司の気分も跳ね上がった。


「「いただきます!」」


 同時に手を合わせて、一皿目を頂く。

 まずは、マグロから。


「おいしい……!」

「だろう? 俺もここで食べたマグロはベスト3に入る旨さだと思うし」


 マグロを食べた真白は顔を綻ばせている。

 このマグロは咀嚼に苦労することなんてない。切り方からして違うのだろう。安モノとは違って、筋が残っていたりしないからすぐに口の中で消えてしまう。


 とても濃厚だがくどくなく血の味を感じるわけでもないのもポイントだ。

 これが美味い寿司だと的確に教えてくれる一品だった。


 普段から食事中は特に機嫌が良い彼女。

 今日の真白は格段に美味しそうにしていた。


「こっちも凄い。回転ずしだと臭みがあることもあるけど全然ない」


 今度は、アジを楽しんでいる。


 安いことがウリの回転ずしでは、はずれを引くこともあるがここではそういうこともない。

 だから、安心して総司は真白をエスコート出来たのである。


「すみません、鯛と甘えび下さい。ワサビなしで」


 すっかり気に入った彼女は、自分から臆することなく注文をしていた。

 それからはそれぞれ好きな寿司を頼んで、存分に腹が満たせるまで楽しんだ。


「すごく美味しかった」

「真白は食には拘るから、心配だったけど満足してくれて何よりだ」


 彼女は、安い高いにかかわらずなんでも好んで食べるが、それは彼女が美味しいと感じるものだけだ。

 美味しくなかったらはっきりとマズいというのが真白だ。

 

 その反面、美味しいものは必ず美味しいと口にする。

 それも真白の良い所だと総司は捉えるが、雑に食事をしないという彼女の拘りがあるため、店に連れて行くのも少し怖い所があった。


「また行きたい。今度は冬が旬の魚とか楽しみ」

「そうだな。ま、流石に学生の身分でそう何度も来れないけどな」


 昼は真白が奢ってくれたので今日の会計は総司が持ったが、超が付く高級店ではないものの、やはりそれなりのお値段だった。

 また、バイトで給料が入ったら真白と一緒に来ようと約束する。


「帰ろうか」

「ん。今日はありがとう」


 歩き出して帰路に就こうとすれば、真白がそう言って手を出してくるので昼とは違い、今度は総司も自然と手を握る。


 こうして、お寿司屋さんデートは幕を閉じた。

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