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大学生カップルは制服デートに憧れる

「動物うめぇ」


 真白の要望で日本で一番人気のあるフライドチキンのチェーン店にやってきていた。


 総司は秘伝の十一種類のスパイスによって調理された店の看板商品である、フライドチキンを頬張りながら感想を口にする。


「サイの部分って美味しいね。私は食べやすいからドラムが好きだけど」

「肉の量が少ないけど、食べやすいしジューシーだから俺も好きだな」

「知ってた? 注文するときに好きな部位を選べるって」

「ああ。部位とか店によっては注文できないところもあるらしいけど」

「あと、一般の人にはあまり知られてないけど、食べ放題のお店とかもあるらしいよ」

「そういや大阪に二店舗あったな。今度行ってみるか」


 二人はフライドチキン談議に花を咲かせる。

 総司と真白は魚が一番の好みだが、肉も好物で割と詳しい。


「前に馬竜うまだつがラグビー部と行って来たらしい」

「へぇ」

「写真あるよ」


 言って、見せてきた画像には肉の塊が肉の塊を喰らっている写真だった。


 写真の中央に細身のイケメン少年がピースして映っているが、周りにはムキムキの男たちの体が大きすぎて写真に納まりきらないようで、かなり詰めて映っているせいか大変暑苦しい一枚となっていた。


「グロいグロい! 絵面がエグすぎる。食事中に見る画像じゃねぇ」

「すごくおいしそうに食べてる。もう一つ食べたくなってきた」

「これ見てよく食欲が沸くな? 俺は腹いっぱいだ」

「夜はお寿司だからこれ以上食べないけど」

「寿司じゃなきゃ食べてたのかよ」

「うん」

「うんってなぁ。真白はよく食べるよな」


 真白は頷きながらポテトを齧る。


「食べても太らないし、運動もするから他の子よりは結構食べるかな」

「ダイエットとか言って全然食べない女子とかいるから、俺も気を使わなくていいのは楽だしな。何より美味しそうに食べてる真白は可愛いよ」

「む。私が食いしん坊みたいに言って」

「実際、結構な健啖家だろ」

「でも可愛いって言ってくれたから、誉め言葉として受け取っておく」


 怒っているような口ぶりだが総司から目を逸らしながらストローに口を付け、ドリンクを飲ンでいる。その頬はちょっとだけ赤みがかっていた。


 可愛いなどと言われるのには弱いようだ。


「『ダン〇ル何キロ持てる?』でも、朱美ちゃんが沢山食べられることは才能っていてたしな」

「それは筋肉を鍛える人の才能。総司は私にマッチョになって欲しいの?」

「すみません。そのままでどうぞ」


 スポーティーなスタイルの真白も見てみたいとは思う総司だが、流石にマッチョは困る。

 素直に謝っておく。


「もう行かないと。しゃべりぎた」

「だな。手を洗ったら出るか」


 時計を確認すると食事を始めてから三十分が経過していた。

 二人はすでに食べ終わったので、それぞれお手洗いで手や口周りの汚れを落とし店を出た。


「行こうか」

「うん……」

「どうした?」


 身だしなみを整えていて時間が掛かった真白を待っていた総司は、彼女が店から出てきたのを確認すると歩き出そうとする。

 だが、真白が隣を歩くのを躊躇っていた。


「手……」

「ん? まだ、汚れが取れなかったか? ああ、よくあるよな。油って取れたと思っても、匂いとかたまにするもんな」


 真白が手と口にし自分の手を見つめるので、まだフライドチキンの油が手に残っていたのかと勘違いする。

 ただ実際に真白が気にしたのは。


「ううん。ばっちりいい香りするよ」

「じゃあどうしたんだ?」 

「手、繋ご?」

「あ、ああそうか。ごめん。気が利かなくて」


 彼は言われてやっと気が付いた。

 彼女が気にしていたのは総司と手を繋ぎたかったのだ。


 いつもははっきりとモノをいうタイプなので、総司は彼女が何を伝えたいのか気が付けずにいた。

 

それに家を出る時はいつも通りだったのでそれも気付けなかった理由だろう。


 しかし、理解した今では彼女を観察してみると、もじもじしているように見受けられ、恥ずかしがっているのが分かる。


「ううん。私もはっきり言えなかったから」

「俺の方こそ鈍かった。ごめんな」

「じゃ、手繋いでいい?」

「ああ」


 総司はぎこちなくも真白から出された手を遠慮がちに取る。

 その感触は言葉にしがたいものだった。


 細くはあるが骨っぽくなく、しなやかさと柔らかさを感じる。

 彼女が緊張しているのか強く握って来るので、洗ったばかりで冷たいはずなのに繋いだ二人の手はすぐに熱を帯びた。


「なんか、やっぱり恥ずかしい。でも、」

「でも?」

「ちょっと幸せかもしれない。総司は?」

「俺はめっちゃ嬉しいよ」

「良かった」


 総司の返答を聞いて、真白ははにかんだ。

 その瞬間、総司も幸せだなと感じるのだから、好きな人の笑顔は凄いなと総司は思った。


「時間無いし、行こ?」


 今度は真白がその言葉を発して総司の手を引くと、そのまま駅の方へ向かって二人は仲良く歩き出した。


「平日の割に学生多いよな」


 総司と真白が歩いている駅前の通りには、平日の十二時過ぎだと言うのに制服を着た少年少女をちらほらと見かける。

 普通、彼らは学校へ行っている時間だろうから総司は不思議に思った。


「この辺の学校は確か期末試験じゃなかっけ? それか文化祭の時期が被ってるんだと思う」

「もうそんな時期か」


 総司は高校を卒業して、約一年半ほどが経つ。

 そろそろ中高生のスケジュールを忘れつつあった。


「みんな見てると、制服でデートしてみたかった」

「それなぁ。もう俺たちは無理だからな」


 制服デート。それは高校を卒業した後に、初めて恋人が出来た者たちの悩みかもしれない。


 制服を着ているからと言って、特別な何かがあるわけではないが、制服デートをしたことがない者にとっては特別な何かを感じてしまうのである。


 総司も真白もお互いに男女交際は初めてなので、当然制服デートをしたことがない。

 高校生まではどうとも思ってなかったのに、いざこうして彼氏彼女が出来ると憧れるものだ。


「見た目的にはまだイケるから、最悪は高校の制服着てデートしよ」

「それ、知り合いに見つかったらきつい奴だぞ」

「大丈夫。県外まで行けばバレない」

「熱意が高いなぁ」


 総司はそこまでして制服デートをしてみたいわけじゃないが、真白はかなり未練があるようだ。


 どうにかして叶えてあげたいものである。

 そう少し考えながら歩いていたせいで、店先の看板に軽くぶつかってしまった。


「いだっ⁉」

「大丈夫?」

「よそ見してた」


 総司が急に立ち止まったせいで手を繋いでいた真白を少しだけだが引っ張る形になる。

 もし自分がコケたりしたら彼女も巻き込んでしまうかもしれなかった。


 しっかりと前を見ていなかった自分を責める。が、同時に自分を褒めたくなることもあった。


「なぁ真白?」

「なに?」

「この看板見て思ったんだけど。今月のハロウィンの日なら制服着て外に出ても、コスプレってことになるからセーフじゃないか?」


 彼がぶつかった看板は、ハロウィン商品の入荷とセールを宣伝するものだった。

 そこからハロウィンという単語から連想して、コスプレに繋げたのである。


「あ! 総司は頭良いね? アインシュタインも舌を巻くよ」

「あの人、舌を巻くっていうより出してたけどな」

「ともかく。ナイスアイデア! ぐっじょぶ」


 サムズアップする真白は口調こそ変化は無いが、表情はとても嬉しそうだった。


「十月三十一日は予定空いてるか?」

「大丈夫、何もない」

「なら、その日はどこかへ出かけよう」

「うん。楽しみ」


 初めてデートの約束をした総司と真白。

 どこへ行こうか、何をしようか。制服はまだ着られるかなどとハロウィンの日が待ち遠しい。


 二人は共に浮かれていて大学へ向かうその足取りはとても軽やかだった。


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