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先輩彼女、五十嵐さん

「次は、どこ行く?」

「腹もいっぱいになったしな。工学部のスーパーボールすくいにでも行ってみたいんだけど」

「うん、行こう」


 腹ごなしも兼ねて、総司と真白はぶらぶらと散歩していた。


 焼きそば、フランクフルト、クレープと、十分に腹を満たしたので、今度は遊ぼうとスーパーボールすくいの店へ。


「二人分これで大丈夫?」

「たこ焼き券ですね。はい、大丈夫ですよ。どうぞ二人分のポイです」

「ありがとう」


 彼女は工学部の男子生徒にたこ焼き無料券を渡し、ポイを交換してもらう。

 たこ焼き無料券がどこでも通じるのは、公式に発行されているものなので、後で払い戻しができるからだ。


 たこ焼きが欲しくはなくても現金に換金できるので、たこ焼きより安い店などは基本的に快く交換をしてくれる。


「総司はスーパーボールすくいは得意?」

「普通くらい。真白は?」

「めちゃくちゃ得意」

「よし、競争するか」

「私、百個は取るから」


 高らかに宣言した真白は腕まくりして、流れるスーパーボールに狙いを定める。

 何度かすくうのを躊躇った後、タイミングが来ると彼女は角度を付けてポイを投入し、その縁にボールを載せるようにして救い上げる。


 ポイの紙は破けてもいなければ、ほとんど濡れてもいない。

 この調子だと本当に百個取ってしまいそうなくらいに、綺麗な動作だった。

 彼女が息を巻くだけの事はある。


「俺も負けん」


 言って、総司も真白と同じようにボールをすくっていく。

 もちろん、総司のポイにも損傷はない。


「総司もやるね」

「なにせ、小学生の時はゴッドハンドと呼ばれたくらい、手先が起用だったからな」

「そのあだ名良いなぁ。私は、剣聖って呼ばれてたから」

「なんだよそのあだ名。めっちゃカッコイイじゃねぇか。俺はそっちの方が羨ましいわ。てかなんでそんなあだ名が付いたんだよ?」

「登下校中に、男子が傘でチャンバラを挑んできたから、全員返り討ちにしたらそうなった」

「ああ、やったなぁ。傘でチャンバラ」


 スーパーボールすくいをやっているというのに、一体何の話をしているのだろうかと思いつつ、彼らは話しがら淡々とボールをすくっていく。


 そして、十分ほども熱中してすくい続けた結果、僅差で総司が勝った。

 数は七十一個と六十五個だった。


「むぅ、腕が落ちてるかも」

「俺ももっと行けると思ったんだけどな」


 二人は乱獲したスーパーボールが入った袋を持って、歩きながらちょっとがっかりしていた。


 遊び足りないので次は何処で遊ぼうかと、学祭のパンフレットを眺めていれば、総司の肩が叩かれた。


「やぁ、二人共。学祭を満喫してるようやな」

「……飛角か。驚かせるなよ」


 振り返れば、「よっ」と手を挙げている飛角がそこにいた。

 そしてその隣には、少し際どい軍人風のコスプレをした背の高い黒髪のロングヘアの女性が、飛角にぴったりとくっついていた。


「こんにちは。司さん、お久しぶりですね」


 女性は丁寧なお辞儀と共に挨拶をする。

 エロティックなコスプレこそしているものの、その所作は大和撫子と表現して差し支えないだろう。

 色んな意味で、彼女だけこの場所で異様に浮いていた。


「五十嵐と会うのは夏休み以来だな。にしても、相変わらず二人は仲が良いよな」

「そうですか? こうでもしていないと、男の方に声を掛けられてしまうので」


 困った様でいて、どこか嬉しそうに彼女は言う。

 五十嵐と呼ばれた女性は飛角の恋人。


 彼女は今年のゴールデンウィーク頃に、飛角と同人即売会で出会ってから付き合っているコスプレが趣味の女性だ。


「えっと、そちらの方は?」

「そう言えば、五十嵐と真白は面識が無かったんだっけな。俺の隣にいるのは、少し前から付き合ってる彼女だよ」

「あら! 司さんに彼女さんが出来たんですね。初めまして、わたくし五十嵐いがらし雪菜ゆきなと言います。飛角君の彼女です。以後、よろしくお願いしますね」

「極夜真白です。総司がいつもお世話になっています」


 自己紹介をして、二人は握手をする。

 お互いの恋人の彼女同士と言うことで、どこか緊張しているようだった。 


「あ、雪菜って呼んで頂けると嬉しいです。わたくしも真白さんとお呼びしてもよろしいでしょうか?」

「はい。大丈夫です」

「えっと、わたくしは癖でこんな話し方ですけど、真白さんも司君と同じ学年でしたら、私も同じ二十歳ですので、敬語ではなくても大丈夫ですよ」


 彼女は社交的な性格のようでそうやって真白に歩み寄る。


「え? もう少し年上かと思った」

「よく言われます。どうしましょ。わたくし老けているように見えるのでしょうか?」


 雰囲気といい、話し方といい動作のすべてが大人の女性っぽく見える彼女は。とても二十歳には見えない。

 ただ、それは見た目ではなく立ち振る舞いによるものだ。

 

 しかし、こうして頬に両手を当て、雪菜はあわあわしている姿は年相応と言うか、少女然としていてそのギャップがとても可愛らしい。


 その彼女を見て総司や飛角が笑えば、真白もつられて笑っていた。


「皆さん、笑わないでくださいっ! 真剣に悩んでいるのですから」

「ハハハ! 雪菜、別に老けて見えとるわけやないって。みんな、君が大人に見えるだけや。良い所のお嬢様やし、大人びて見えるのはその所為やろ。大丈夫、僕が保証する。君はここにいる誰よりも綺麗やで」

「もう、いつもはからかってくるのに、調子の良いことを言ってわたくしを困らせるんですから。でも、わたくしはそう言うあなたも好きですけどね」


 飛角が彼氏の役目と言わんばかりに、雪菜をしっかりとフォローすると、彼女は照れながらも、彼の腕をぐっと引き寄せる。


 そして、公衆の面前だが、当たり前のように堂々といちゃつき始めた。

 見ている総司と真白の方が恥ずかしくなってくるくらいだ。


「どうしたんや。君ら、顔赤いで? ははぁ、これくらいのスキンシップ見て恥ずかしくなってんのやな。ソフィからは抱き合ってたって聞いたけど。これやとキスもまだっぽい感じやな!」

「うるせぇよ」

「馬竜、デリカシー無い」


 からかってくる飛角に向かって、二人は顔を赤くしつつ言う。


「飛角君、そう言う所ですよ。お二人共、すみません。きつく叱っておきますので」

「痛で! 痛でででででっ! くひつふぁふぁんでひゃ」


 さっきまでラブラブとしていた空気を霧散させた彼女は、飛角の口を指でつまんで捻り上げる。


 どうやら、このカップルは彼女が手綱を握っているらしかった。

 真白には無い余裕と恋人の扱い方を備えているようで、交際半年とはいえ流石は彼女歴の先輩である。


 真白には雪菜が、自分よりもずっと大人に見えた。 


「それでは、お二人もデートの最中だったでしょうから、この辺りでお暇させて頂きますね。さ、飛角君、行きますよ」


 どこまでも丁寧な物腰の彼女は、飛角の手を引いて行こうとする。


 そして、


「真白さん、余計なお世話かもしれませんけど……キスって良いものですよ? それと、するなら学祭最終日、後夜祭がおすすめです」

「っ⁉」

「ふふっ。それでは」


 雪菜は、真白の耳元でどこかなまめかしく艶のある声で囁いてから、総司たちが歩いてきた方へと飛角を連れて去って行った。


「何言われたんだ?」

「ひ、秘密……!」


 総司には聞こえなかったので、不思議そうにしながら尋ねてみるが、顔を真っ赤にした真白はそう答えるだけだった。

ここまでで、面白いと思って頂けましたら☆☆☆☆☆に色を塗ったりブックマークをしていただけるとすごく励みになります。

また、誤字報告など本当に助かっております。ありがとうございます!


それと、事後報告で申し訳ないのですが、以前から申し上げていました通り、この物語のIFのお話である、彼らが高校生だった場合の作品を投稿致しました。


本当は明日に投稿する予定だったのですが、予約投稿の日を間違えてしまい、こんな形になってしまいました。


タイトルは「趣味が渋い銀髪美少女同級生と気が合うのは多趣味な俺だけらしい」です。よろしければ、そちらの方もよろしくお願いいたします。

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