酔っぱらうとやらかすことあるよね!
「あ、またメッセージ来た。次は個人の方…………なにこれ? 撮影した告白の動画送ってきてよ?」
一人で呟きながらスマホを見る真白。
「今度はなんだ?」
「ええと、なんか私達、告白の動画を撮ってたみたい。ほら、晴音に個人チャットで動画撮りましたってメッセを送ってる」
「待ってくれ。勘弁してくれよ。何してんだ昨日の俺達ッ……!」
そんなものがあるのかと、深い苦悩に苛まれる総司。
「あ、これか」
いつの間にか目の前からいなくなっていた真白が、色々なものが散乱する部屋の中から見つけたもの、それはカメラだった。
三脚に取り付けられたまま倒れて、バッテリーが切れているカメラは総司の持ち物。そこに動画とやらがあるらしい。
バッテリーの切れたカメラをパソコンに繋ぎ、充電が回復するのを待ってから最新の録画データをパソコンの画面で再生させる。
動画が再生されると、まず真白の姿が映り何やらカメラをセットしているよう。
セットが終われば部屋の奥にいた総司を呼ぶ。
この時点で既に部屋には二人しかいないようだ。
『うえーい、今から告白しまーす』
普段は割と表情やテンションを表に出さない彼女が、悪酔いした所為か妙にクールさを残しつつそんなことをカメラにピースしながら映っていた。
『総司、ちょっと。聞いてほしいことがあって』
『なんだ?』
映像の両者の表情は赤く、声音も普段の調子ではなくかなり酔っていることが分かる。
『今から告白します。いえーい。ほら、総司もカメラに』
『いえーい。今から告白されまーす!』
総司自身も酔っているようで、普段は絶対しないようなこともテンションがおかしい為にすんなりと受け入れていた。
『では言います、総司、私と付き合って?』
『もちろん! ありがとう』
『いえーい! 告白成功しましたぁ。ぶい』
総司が迷うことなく即答すれば、カメラに向かってVサインをする真白。
『ねぇ、カメラになにか記念に残そう?』
『そうだな。そうしよう!』
そして、晴れて? 付き合うことになった二人はさらに黒歴史を積み上げて行こうとする。
「私の事、好き?」
「大好きだ!」
「好き好き大好き?」
「超好き好き大好きだぞ」
「私はオメガ超絶好き好き大好き」
急に好き好きと連呼し始める総司と真白。
恥ずかしすぎるやり取りも今の二人にはなんてことない。これが愛のなせる業、もといバカップルの生態である。
「「もうやめてえぇぇぇぇッ!」」
思わず叫んだ二人。
もうそこからはまともに総司も真白も映像を見られなかった。
二人は数時間前の自分を殴り殺してやりたい気持ちになったほどだ。おそらく、聖杯戦争を勝ち抜いたら、数時間前のやり直しを聖杯に求めるだろう。
「総司、次の聖杯戦争っていつだっけ?」
「次はもうねぇよ。シナリオ覚えてないから分からんけど」
現に、真白は聖杯戦争に参加したそうであった。
因みに後の映像は、二人で並んでカメラに向かって誰に向けたものかは分からないが、お付き合いの報告やらなにやらに加えて、自分がどれだけ相手を好きかなどを語り始めた。
おふざけが大半だが、所々になまじ本気度と本音も窺えるのが質が悪い。
とても人に見せられたものじゃない。俗にいう黒歴史だ。最悪の黒歴史である。
気まずい。とても気まずい。友人数人で受けた車の免許の試験に一人だけ合格できなかった時くらい気まずい。飲みの席で大皿にから揚げが一つ残っている時くらい気まずい。
自分に声を掛けられていると思って手を振ったら、全然違うかった時くらいに気まずい。
とりあえず兎に角、気まずかった。
「なぁ、これおふざけとかじゃないよな? 地味にガチトーンで話してるときあるし」
「うん。まぁ……」
二人は真っ赤な顔をしながら目も合わせられずに言葉を交わす。映像の中のように顔を真っ赤にしているが、今度は恥ずかしさからだった。
最初はおふざけだと思っていたが、動画を見ればそれだけではないことくらいすぐに理解できる。酔っているとはいえ、記憶を失くしているとはいえ、自分自身が相手に対して想っている感情を理解しているからだ。
「えっとな、俺は真白の事、好きだぞ?」
起こったことは理解できたが、それでもどうした良いのか訳が分からず、総司は自分の気持ちを正直告白する。
以前から彼女の事が好きだったのだ。
こんな形になるとは思いもよらなかったが、これはチャンスだ。
酔って未だにはっきりと思い出せないが無かったことにはしたくないし、無かったことになりそうならちゃんと告白すればいい。
そう考えて、彼は想いを告げた。
「ばかたれ。そんなこと、いま言うな、もぅ……」
すれば、さらに顔を赤くした真白が恥ずかしそうに怒った。だが、可愛く。圧倒的に可愛く彼女は怒っていた。
「で、返事聞いてもいいか?」
「いいよ。っていうしかないもの。こんな形になったけど、私もあなたと付き合いたい」
俯き恥ずかしそうにしていた彼女は、総司の顔を見上げるようにして返事をする。
「ありがとう」
総司の口からはその言葉しか出てこなかった。
喜びのあまり、叫んでしまいたいがそれは子供過ぎると自重した。と言うよりも、実際の所は喜びの感情が振り切れているせいで、思ったように言葉を話せないし行動もできない。
「じ、じゃ、まぁそう言うことで」
「う、うん」
戸惑っているのは総司だけでなく、真白も同じ。上手く言葉を交わせない。
そのぎこちなさが初々しく、ここに第三者がいればきっとニヤニヤとしていたに違いにない。
それくらい今この空間は、空気中に砂糖が溶け込んでいるのではないかと疑いたくなるほどに甘ったるかった。
「で、動画どうする? 消すか? 送って来いって言われるけど」
「そんなの送れるわけない。でも、動画は残す。なんか寂しいから」
「そうだな。動画はしばらく封印だな」
「うん。だから金庫買いに行こう?」
「そこまで⁉」
「スイス銀行に預かってほしいくらい」
「スイス銀行はこんなもの預かってくれないだろ」
彼女にとってはそれほど厳重に保管したいもので、流出するのは問題だが大切にはしたいらしい。
総司はなんだか彼女が、いつもより千倍は可愛らしく見えた。
「それにしてもこの映像、告白とか交際報告だけの内容で良かったね?」
「どういう意味だ?」
「だって、こういうのって酔ってると、羽目外しがちだし」
「十分外してると思うけどな」
「まだ、マシなほう。だって、キスとかならまだしも、ハメ撮りとか残ってたら最悪だし。羽目を外してハメ撮り。酔ってたらやりそう」
「お前なぁ。まだ酔ってる?」
とんでもない下ネタに彼は呆れ果てる。
ただ、昨日の自分たちならやりかねん、とも思えるので実際にそんなことがあったらと想像して肝が冷えた。
「そうかも。総司と付き合ってると思ったら嬉しくて。少し酔ってると思う。というより浮かれてる」
「……ッ!」
不意に彼女から伝えられた言葉に総司はドキッとする。
彼女が先ほど怒った意味が分かった。不意に言われることに想像を絶する破壊力があることに。
「んで、今からどうしようか? 家に帰るか?」
「ううん。ちょっとだけ、ここにいる」
「分かった。俺掃除してるから」
「うん」
未だに気まずさと気恥ずかしさを残しつつ、正式な告白の余韻の中で二人は各々気持ちを整理する時間を作った。
少年は片付けながら、少女は友人たちに返信をしつつ。
こうして、酒に酔ってやらかした二人の新しい一日は始まっていく。