交際報告 彼女の家族編その2 歓迎?
「改めて、ご挨拶させていただきます。真白さんとお付き合いをしております、司総司です。本日は忙しい中、時間を割いて頂きありがとうございます。つまらないものかとは思いますが、これ、お土産です」
家に招かれた総司は、真白の隣に座り彼女の両親と対面する。
まずは、無難な挨拶から始まり手土産を渡した。中身は石鹸と高級タオル。食べ物は好みが分かれやすいので、使い勝手の良いような土産をチョイスした。
「丁寧にありがとうね。頂くわ」
真白の母、星七が受け取ってくれる。
ただ、父親の方は一言も発さずに沈黙していた。
「それで……それで、今日は僕たちに交際の許可を得に来たと?」
「はい、そうです」
ようやく口を開いた真白の父、吾妻は少し仏頂面にも見える。
何か不満があるのだろう。声のトーンも低い。
だが、全くの凄みも怖さもない。むしろ…………。
「パパ、まだ恥ずかしがってるの? 別に何歳になってもコスプレはしたっていいものよ?」
「いやだってね、いくら何でもこの格好は無いだろう」
吾妻は恥ずかし気な様子だった。
なぜなら、彼もまたコスプレしており、それがもうなに一つとして似合っていないのだ。
彼がしているコスプレ、それは某黒の剣士のコスプレだった。〇撃文庫の超有名作品の主人公に扮する真白の父。
しかも、手に持っているのはまたししても斬魄刀。
なんでやねん! と真白も総司も彼を見た瞬間に突っ込みそうになっていた。
「総司君もそう思うだろう? この年で黒の剣士はきついよ」
「あ、ははは……、いや、えっと、チャレンジすることはなにも悪くないというか」
そう濁して回答するしかない。
いっそ、似合ってないとはっきり告げるべきかと悩んだが、総司にその勇気はなかった。
「まぁ、家内に振り回されるのはいつもの事だ。諦めるよ……」
諦めるとは言いつつも、陽治は小声で「でもなぁ、やっぱりないよなぁ」などと、どうしてもふっ切れていないようだった。
「お父さんも、お母さんもふざけないで。ちゃんと、総司が挨拶しに来てるから」
真白がほんのり怒っていた。
自分たちも、制服を着たりしてはいるが、これはちょっとやり過ぎだろうと思ったらしい。
一応、このような形とはいえ、総司も誠意を見せるために来ている。
自分の彼氏が二人に悪意はなくとも弄ばれていると感じたようである。
「はいはい、ごめんなさい。お母さんたちはしゃいじゃった」
「悪かったよ真白、総司君」
娘に窘められて、星七、吾妻は軽く頭を下げ、衣装を脱いでいた。
「それで、二人は認めてくれるの?」
それを見た彼女は、頃合いだと単刀直入に尋ねる。
総司はこの瞬間、ごくりと唾を飲み込む。
「もちろんよ。娘が連れて来た人に反対する理由なんて私にはないもの。ね、パパ?」
「そうだとも。とんでもないヤバい奴を連れてきたら、ちょっとお話が必要だが。真白が嬉しそうに連れて来た彼なら何を心配することがあるのか。そう僕は思うよ」
と、微塵も反対意見は無かった。
とりあえずは安心だ。
「ありがとうございます」
総司は頭を下げる。どこで信用してもらったのか分からないが、評価してくれるのであればそれはとても嬉しいことだ。
これで、大きな関門は突破したと言えるだろう。
「良かった」
真白も安心したらしい。先ほどの怒りはすっかりどこかへ消え去っていた。
「というかね、そもそも今更って感じがするんだよ。今年の春に来たときには、もう付き合ってるものかと」
「そうねぇ。私も突然家に来るって聞いた時は、子供でも出来たの? って思ったんだから」
「「ぶふぉ⁉」」
いきなり、星七の口から子供と言う単語が出てきて、真白は飲んでいたお茶で咳き込んだり、総司は普通に吹き出しそうになった。
「お母さん!」
彼女は母親に対して、咎めるような口調で言う。
「だって、そうでしょ。すでに付き合ってると思ってたから、娘に話があるって言われたらこっちも身構えちゃうわ」
「それにしても、せめて結婚ぐらいと思うんだけど」
「今日まで一人も彼氏を連れてこなかったようなあなたよ? 初めての彼氏に舞い上がって、勢い付いちゃうこともあるのかなって思ったわけ」
「そんな心配しなくていいから」
母娘の会話が続くが、男の総司と吾妻は生々しすぎて静観するほかなかった。
「ま、なんでもいいんだけど」
「でも、もし出来てたらどうしたの?」
怖いこと聞くなよ。と言いたくなるようなことを真白を星七に質問する。
「そりゃあ、怒るわ。めちゃくちゃ怒ると思う。でも、怒り続けてもしょうがないから、その時は総司君のご両親とも相談してサポートするわ。それが親の役割だしね」
星七はそれまでお茶らけていたというか、軽い雰囲気を抑えて真面目に語る。
その、言葉はさらりと出てきたがとても重かった。一人の母親としての芯のある言葉だ。
「だって? 総司」
「コメントしづらいことを振るな」
だって、と言われても。どう答えても彼には爆弾でしかない。
怪我をする未来しか見えないものに触れたくないので、回答を拒否した。
「それにしても、ようやく肩の荷が下りたというか、安心できるというか。真白にもちゃんと良い人が出来て嬉しいわぁ。ちょっと、寂しくもあるけど」
「僕としても寂しい気もするけど、真白が幸せなら言うことは無いよ」
娘を一番に尊重する両親だが、やはり不安も寂しさも確かにあるのだろう。
極夜夫婦はしんみりしながら言う。
「そうだわ、親として一番聞きたいことがあったの。真白と総司君はお互いにどこを好きになったのかしら」
「うん。僕もそれは気になるね、で、二人ともどうなんだい?」
ぱんっ。と手を打った星七が突如、興味津々に聞いて来れば、それに吾妻も追随する。
いつ来るかと身構えていた質問だった。
必ず聞かれる事だとは思ってたので、密かに答えを用意していた総司が先に答え始める。
「全部です、と言いたいんですけど、それは雑なのであえて言うなら、趣味とかは結構合うんですけど、知らないこととか分からない趣味があっても俺に合わせてくれるところとか、かなりグッときました。後は、やっぱり優しい所ですね」
総司と真白はアナログゲーム、特にボードゲームが好きだったり、スポーツを見るのが好きだったりする。
スポーツ観戦は主に野球とサッカーで同じチームを応援している。
アナログゲームでは、真白は将棋、総司は麻雀だが、真白は総司と麻雀をするために、わざわざルールを覚えたほどだった。
そんないじらしい所が総司の好きになった理由の一つである。
「なるほど、趣味が合うのか。それはいい。趣味が合わないとお互いに難しくなってしまうこともあるし。納得したよ。それで真白は?」
「言わないとだめ?」
晴音や飛角たちから、いつ好きになったのかとという質問はされたが、今回は少し踏み込んだ内容だ。
総司や両親の前だと言いづらいのか真白は躊躇する。
「だめよ。総司君もちゃんと言ってくれたのだし、こういうことはしっかり口にするべきよ? 相手に自分の気持ちを伝えることは大事なんだから。しっかり、総司君に教えてあげなさい。どうせ、その様子だと一度もまだ、言ってないんでしょう?」
「ん。ちゃんと言う」
今度は真白が星七から窘められる。
確かに、彼女からはっきりと自分のどこを好きになったのか聞いたことは無かった。
もちろん、自分も今日まで言わなかったが、真白からちゃんと聞いてみたいと思う。
お互いにしっかり話ていなかったことを星七は見透かしたのだろう。流石、母親と言ったところだ。
真白も星七の言うことを理解して話し出した。




