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接続章 第一節

  接続章



 薙宮(なぎみや)一族。日本における魔術の名家の一つであり、天体魔術という大規模な魔術体系を総本山であるイギリスから日本に持ち帰り、新しく独自の魔術として完成させることでその名を世界に知らしめた一族である。現在は本家を羽巻市に移し、模擬戦闘祭典「魔宴(サバト)」の主催者として街の魔術師たちのまとめ役を買っている。

 薙宮邸の客室には円卓が据えられており、絨毯やカーテン、家具などの調度品が荘厳さを演出している。円卓には椅子が七つ用意されており、そのうち四つが埋まっていて残りは空席だ。座っている者たちは皆、和洋の違いはあれどその場の荘厳さによく映える礼装で身を固めている。若い者は四十代前半、老いた者では七十代などの様々な年齢層の男女が、残る三人の到着を待っている。呼吸の音さえ雑音と思えるほどの緊張した静謐。

「まったく、こちらもそう暇ではないのだ。要件は分かっているのならば四人で話を進めればよかろう?」

静寂を破り、苛立たし気に立ち上がったのは右頬に特徴的な傷を負った、六十代前後に見える屈強な男だった。

「まあまあ古庵(ふるあん)殿、そう焦りなさんな。」

そう間を開けず、岩のような男を彼と同年代であろう初老の男が宥める。こちらの男は古庵と呼ばれた男とは違い、細身で尚且つ武術家のような達人を想起させる雰囲気を醸し出している。

「そうは言うがな、五十嵐。五分も人を待たせるとはどういう了見だ!」

落ち着かない様子で室内を歩き始める古庵。

「五分程度でガキが騒いでんじゃないよ。あんたロクな死に方しないね。」

おそらくこの中では最年長であろう老婆が煩わしそうに古庵を見据える。

「富阪の占い婆さんに言われるとシャレにならんな。しかし朝の八時に開始と聞いておったろうに。」

窓の外を眺めていた古庵が肩をすくめる。沈黙を貫いていた、もとい居眠りを始めていた残る一人も口を開く。

「ここの主の薙宮さんの遅刻はともかく、あの二人は朝にめっぽう弱いですからね。僕が言うのもなんですが。」

獅戸(ししど)は時間に来たのだからあの馬鹿二人より全然マシだ。」

古庵の怒りが順調に蓄積され続ける。獅戸と古庵の会話を最後に、客室が再び静寂を取り戻す。

 何分待っただろうか、とふと時計を見上げる。時刻は八時二十分。古庵がやれやれと言わんばかりに首を振る。その瞬間

「やあやあ諸君!待たせて申し訳ないな!ほんとに!」

「悪いね君たち!こんなに待たせてしまって!お詫びに彼が何でもするよ!」

並の家なら蝶番が弾け飛んでしまうような勢いで開け放たれる客室のドア。入ってきたのは二人で、一人は白髪交じりの髪と精悍な顔を持つ五十代半ばほどに見える男性。普段着にしか見えない格好で、寝ぐせやら無精髭やらが彼の性格を物語っている。もう一人は女性で、背丈で言うと同時に入ってきた男より頭三つ分ほど低い。特徴的なのは触れると枯れてしまいそうな淡い銀髪だ。肩にかかるほどの長さだが、その髪から覗く緑の双眸からは好奇心が見て取れる。会心の笑みを浮かべた口元からは八重歯が見え、見た目の幼さをさらに加速させる。

「あれれ?みんな大好きルイユちゃんが来たんだよ?歓迎の拍手は?」

「貴様にはもう呆れのため息しか出んのだ!」

火に油という言葉をそのまま体現したかのようなやり取り。そこへさらにニトロを注ごうとする道化がいた。

「まあまあ落ち着いてよ、古庵さん。この天降啓(あまろう けい)に免じて、ね?」

「よく分かった。貴様ら表へ出えええええい!」

とうとう怒りを爆発させ、己の魔力を暴力へと変化させる古庵。鬼の形相の古庵を中心に力の渦が形成され、遅刻(じゃま)者を排除せんとばかりに勢いを増していく。しかし嵐は誰にも振るわれることなく不自然に霧散し、部屋は再び静寂を取り戻す。身構えていた道化二人が首をかしげ、古庵本人も何が起きたのか分からないとばかりに周囲を見回す。だが直後、その場にいた全員が嵐が止められた原因を理解することとなる。

「やんちゃが過ぎるな、古庵堂吾(ふるあん どうご)よ。」

炎が立っていた。薙宮家の現当主である彼/薙宮 聡一(そういち)がこの混沌とした客室に、ようやく到着したのだった。還暦を既に迎えているというにもかかわらず、活気と威厳に満ちた仕草と表情。燃え盛る炎を想起させるような激しい赤の髪が彼の覇気を後押しする。招かれた者たちは皆、「日本魔術師の生き字引」とも呼ばれる男に深々と頭を下げる。

「この顔ぶれでの召集は初めてか?自己紹介から始めることにしよう。」

優雅な挙動で空席を一つ埋める。

「私は薙宮聡一、天体魔術を専門に研究している。自己紹介とはいってもここにいるメンバーは全員顔見知りなのだが、まずは形からというやつだ。」

表情を崩し、先程までの威圧を全く感じさせないその変化に、快活で威厳のある老人という印象に怪しさが追加される。

「儂は富阪九十九(とみさか つくも)じゃ。この街で勝手に占い師を名乗らせてもらっとる。」

「私は五十嵐憲一(いがらし けんいち)と申します。そこの駅前で格闘技教室を開いております。」

用意してきたのであろう型にはまった挨拶。しかし自分の手の内は決して晒さない。他の者も二人に続く。

「古庵堂吾、元軍人だ。」

獅戸楼樹(ししど ろうき)。最近腰を痛めました。」

「お大事にな。俺は天降啓、最近子供たちが反抗期を迎えて苦労してるんだ。」

「私はルイユ・シュルレアル=トロンプ。呼ぶときはルイユでいいよ!」

魔術師にとって情報とは最高の武器であり、また自分にとっても即死の急所になり得る。だからこそ世の魔術師たちは己を嘘で塗り固めることで平穏を保つ。

「今日、今年の魔宴担当たちに集まってもらったのはほかでもない、一週間後に控えた魔宴に向けての緊急会議だ。」

厳かな雰囲気を漂わせつつ本題に入ろうとする老紳士。しかしある男がその空気を結果的に断ち切る発言をすることとなる。偶然にも紳士(なぎみや)の嫌なところを突く形で。

「……質問があるのですが。」

獅戸が意識を睡魔と混濁させながら疑問を口にする。

「なんでこの…十日もない土壇場で……会議をすることに……なったんでしょうか?」

そして力尽きたと言わんばかりに机に頭を預ける。ゴッと嫌な音が響くが反応がない。

「それは私も思ってたんだよね。あと眠いなら無理しなよ?」

「ルイユ今何気に怖いこと言ったよな。まあでも確かに遅い対応ではあったがな。」

薙宮の都合を知ってか知らずか、すかさず賛同する道化たち。もっとも、この二人なら家主のちょっとした表情の機微だけで察したのだが。

「答えないと話ができないのか?」

圧を振りまき、時間の無駄だと言わんばかりの空気感。一流の魔術師が放つそのオーラは、並の人ならば寒気を感じさせる程の力を持つ。しかし彼ら(道化)も一流の魔術師。言葉や仕草から読み取れる違和感を探りながら場を荒らす。ただ面白そうという理由だけで。

「そりゃそうさ!急に集められたんだからその説明くらいはしてほしいよ!なあ盟友?」

「ルイユの言う通りだな。まだ朝の八時半なんだからちょっとくらい時間使ってもいいだろう?」

「どんな理由でも嘘さえつかなければ怒りはしないって!」

「まあそんなに無理強いはしてやるなって。本人にも言いたくねぇことの一つや二つあるだろ?」

「それなら仕方ないか。まあ都合の悪いことを隠すのは普通だしね」

「そうだぜ。世界の薙宮にも普通なところがあるってことだ。」

ただの相槌から始まった会話は、二人の手によってどんどん幅を広げられていく。このままの勢いでは世間に何を言われるかまったく見当もつかない。それを嫌った家主が折れる。

「分かった。言おう。ただし、他言しないことが条件だ。」

「言うわけないじゃん!なあ盟友。」

「そんなもんどうでもいい!理由なんぞさっさと聞いて本題に入らんか!」

ルイユの同意と古庵の怒りによって、なし崩し的に話が進行していく。

「まあお前さんの事だから、研究がどうのこうの言い出すんじゃろ。」

九十九からのフォローを受けるが今の彼には関係ない。逆にそのフォローが心に負荷をかけてくる。そしてついに、この重大な会議が一週間前というあり得ないスケジュールで開始した疑問が晴れることとなる。

「実は……」



同時刻、下社高校


「とりあえず、魔術科の奴らには全員聞いて回らないとな。」

「いや、三クラスで百二十人もいるんですが。」

「じゃあまずは俺らのクラスからだな!」

「嘘だろ」

クラスが発表され、先程まで大勢の新入生で賑わっていた掲示板前は、皆一喜一憂の感情を全身で表現していた。今はひとしきり騒いで満足したのか、掲示板を眺める人はまばらだ。白目を剥きそうになっている槐も、先程までは親友と同じクラスになったことを喜んでいたのだが。

「これいつから聞いて回んの?」

「今からに決まってんだろ」

容赦ない一言。善は急げとばかりに自分の教室へと歩を進めるアルフ。教室に入るや否や、ドアに一番近い席の女子に声をかける。

「急で悪いんだけどさ!同級生で家が魔術師の子しらない?」

突然声をかけられた相手は目を白黒させる。

「あ…え?ああ……隣のクラスに…いたような…」

「そう?ありがとうね!教えてくれて」

慌てながらも答えてくれた女子に、スマイル0円と言わんばかりの笑顔を見せる。そして凱旋と言われても違和感を覚えないほどのドヤ顔で槐のもとに戻ってくる。

「聞いたか?隣だとよ」

「お前が強心臓なのか何も考えてないか判断に困る」

友人の蛮勇ぶりに頭を悩ませながら、槐は隣のクラスに向かうことにする。到着、といっても数歩の距離なのだが。みんな初めての顔ぶれなのか、教室はうつむく人、本を読む人など、まるで音を立ててはいけない空間のようであった。さすがにここでは無謀なことはしないと高をくくっていた槐だが、そんな気を知ってか知らずか、すかさずアルフの蛮勇が再び発動する。

「だれかこの中に魔術家の方はいらっしゃいませんかー!」

飛行機の中で医者を探すキャビンアテンダントのような問いかけをする蛮勇(アルフ)。そんな外来生物に対する、教室の返答は

「「「「「…………………………」」」」」

無視であった。


     数時間後


「やっぱ初日じゃ無理だよな」

「分かり切ってたことだぞ」

一日中魔術師を探して奔走した二人は、下駄箱から靴を引っ張り出しつつ文句を言い始める。

「ていうか2組の奴ら、滅茶苦茶きれいな無視だったな」

「あれはいきなり行ったお前が悪い。」

「止めてくれてもよかったんだぞ?」

「そんな暇すらなかったじゃねぇか」

互いの愚痴は反省会、もとい擦り付け合いにどんどんシフトしていく。

「魔術科にいないからって普通科に行くとかお前やべぇよ」

「しょうがないじゃん、いなかったんだから。」

玄関を出て、校門についたところで後ろから声がかかる。

「これ落としましたよ」

「ああ、ありがとゴブァあああああああ!」

槐が振り向こうとした瞬間、体が重力から解放される。投げられたのだと理解した直後、眼前に地面が迫る。

「だああああああああああああ!」

全ての運動神経を瞬時にフル回転させ、空中で体をひねることでダメージを軽減させる。肩と背中をクッションに、頭部への衝撃を和らげることに成功した槐はすぐに反撃の姿勢を整える。

「いきなり何すんだお前!」

しかし闖入者は微笑みを顔に浮かべている。全身黒っぽいジャージで、つばの長い帽子を顔が見えないように深くかぶっている。身長はアルフや槐と比べると十五センチ以上低く見える。身長に差のある相手を投げるのは素人には到底できない芸当だ。おそらくは格闘技経験者であろう。そんな相手を不気味に感じていると、

「魔宴のメンバーを集めているという話を聞いて来たのですが、お二人であってますか?」

「……………………は?」

理解が追い付かない。今日は何度理解を置き去りにしてきただろう。もしかしたら槐の理解力はもう無いのかもしれない。話しかけられたと思えば突然投げられて、さらにメンバーに入りたいなどと言われればもう訳が分からなくなるのも当然なのだが。

「いやあ助かるよ!俺はアルフ=フェニクリスっていうんだ。でこっちのアホみたいな面してるのが天降槐。これからよろしく頼むよ。」

「こちらこそ。私は近衛結弦(このえ ゆづる)と申します。戦う面では遠距離の方が得意です。」

「そうなのか、俺は近接しかできないから助かるなぁ」

何事もなかったかのように話を進めるアルフ。そしてアルフは何も考えていないと勝手に納得させる槐。そして帽子を取る闖入者。

 その闖入者/ユヅルは結論から言うと、かなりいい奴だった。ボブ程の長さの髪は黒く、瞳もその深さを見る者に印象付ける澄んだ黒。投げられたときはボーイッシュな声も相まり男子かと思ったが、体のラインや仕草からは女性の柔らかさを感じられる。同年代の女子と比べても少し低いであろうその身長も、中学生の男子に似た雰囲気を後押しする。女性になる直前の一瞬を切り抜いたかのような儚さを湛えた少女だった。いい奴といったのは七割ほど容姿で加点している。

「改めてエンジュさん、先程はいきなり投げてすいませんでした。」

「え?おう、まあそんなに大事故にならなかったかったからよかったけど。ていうかなんで投げたんだよ」

「お二人が楽しそうで話しかけづらかったのでいっそのこと話をぶった切ってやろうかと。」

「決まりだアルフ。こいつは味方に入れると絶対後悔する。」

「いやでもユヅル多分槐より強いよ?」

「味方ぁぁあああああ⁉」

親友にあっさりと裏切られる槐。しかしこの少女より弱いと言われてると黙っているわけにはいかない。ユヅルに決闘を申し込もうと顔を向ける。すると、

「それじゃあ私がエンジュさんに勝てたら仲間に入れてもらえる、ということでどうでしょう。」

「採用。」

「俺もそれ言おうとしてたんだけど…」

話し合った結果、翌日の放課後に校舎裏で決闘をすることになった。その話し合いの中でも、槐が後手後手にまわっていたのは、また別のお話。


  同時刻、市内の公園


 街灯にまだ明かりがつかない夕方。住宅街の真ん中にあるにもかかわらず子供は見かけず、時代の変化によって使われなくなった遊具たちはその身に錆を纏っている。まだ日が沈まない時間帯ではあるが、住宅の間を縫って差し込む西日が寂寥感をさらに加速させる。そんな公園も今は無人ではなく、四人の高校生の男女がたむろしていた。

「やっと会議が始まったそうじゃん?今年はギリギリで対戦相手が知らされるのかな?」

ベンチに寝転ぶ茶髪の男が独り言ちる。

「ギリギリでいいさ。あらかじめ知らされてるとミキは相手の事調べるからな。」

「勝てないとつまんないじゃん。」

ベンチに座りなおしながらミキ/成瀬幹也は長年連れている幼馴染たちに視線を送る。

「初めて戦う相手が一番楽しいんだ。どれもこれもが新しいからな。ミキの調べる癖は悪癖だぞ。」

「だいちゃんがその呼び方やめるなら癖なんてすぐ直すよ?」

「じゃあしょうがない」

「あらら」

 真面目にはこれっぽっちも見えない成瀬と会話するのは、不真面目からは程遠そうな体育会系の青年だ。学ランのボタンは全て閉じており、シャツなども着崩している様子がない。短く切りそろえた髪と眉、端正な顔立ち、まるで大和男児という言葉にそのまま服を着せたような青年だ。実は成瀬がこの公園に来た頃からだいちゃん/五十嵐大輝は懸垂を続けている。

「大輝さ、暑苦しいから懸垂やめるか学ラン脱ぐかしてくれねぇ?」

ジャングルジムの上から声がかかる。ぼさぼさの髪を手でいじりながら気怠そうに見下ろす声の主

「それこそユキが真面目に訓練してくれないとこっちもやめられないさ」

「俺が真面目になるなんて面白いジョークだな。」

「だいちゃん、こいつを働かせるにはそれこそ天地をひっくり返さないと。」

ジャングルジムの王/永立雪都(えいりゅうゆきと)は不敵な笑みを浮かべる。和気あいあいと話す男の中、紅一点が話題を変えるように話を待っていく。

「そうそう、今日うちの学校で参加者集めてる男子がいたんだよ。」

「マジか。この段階で人集めるのは手遅れ感あるなあ。」

「私も勧誘されたんだよね。」

「まあヒロは行かないでしょ?」

「相手がイケメンだったから悩んだ」

「あぶねえなぁおい!?」

味方が一人減るところだったと大仰な反応をする成瀬。

 あだ名のつけ方が独特な大輝にヒロと呼ばれたのはこのグループ唯一の女性、杉琴千聖(すぎことちひろ)。黒い髪に白と赤の特徴的なメッシュをしている。というのも、彼女は右側の髪にだけメッシュがあるので、アシンメトリーになっており印象的なのである。目は鋭く、獲物を探す猛禽類のそれに近いものが感じられる。そんな彼女に成瀬は、持ち前の調べ癖を発揮する。

「で、そいつらの家名は?特徴でもいい」

「イケメンな方が金髪。あと一人は普通な奴だったよ。」

「そんなんで特定なんかできるかよ!」

やめだやめだと手を振り上げる。彼女が知らないというのなら本当にわからないのだろう。魔術師としての彼女の素質を知っているうえでの降参なので、諦めとは少し違うのだが。

「ただ気になる点、のようなものはあった。」

「そうそう、そういうの教えてくんない?」

追加の情報に気力が戻る。

「金髪は立っているときの姿勢と歩く時の重心に違和感があった。」

「服の中になんか持ってるってことじゃん!こえー」

「恐らくそうだろうね。今のご時世、拳銃なんかでは人は死なないんだけど。」

魔術の応用による物理結界力場。魔力を常に循環させ、外からの衝撃を大幅に軽減するというものである。これの登場により、簡単に人を殺し得る銃が無力化されたのはまだまだ記憶に新しい。

「普通な方は、魔力を使った形跡が無いのに奴からは魔力の流れを感じた。」

「先天的な超能力とかそっち系?」

「多分そうだろうね。超能力、妖や神関連、魔眼、自然からの加護とかだとよくある。」

千聖は魔術師としての才能が優れているわけではない。彼女の生まれ育った環境が優れた観察眼を生み出したのだ。杉琴家は代々続く暗殺一族である。毒などを用いる暗殺ではなく、気配を消しつつ標的に近づき、刹那ののちに命を奪う暗殺。幼少期からそれを叩き込まれた彼女は、相手の隙を伺うようになる。そしてそれはいつの日か癖を見抜く眼になり、観察眼へと昇華された。

「そいつらの後はつけたりしなかったのか?」

「学校付近に新しいパン屋ができたの」

「よし、読めたからもういいぞ」

 血濡れの手。

 そんな彼女を友達として受け入れた者たちがいた。

 この何気ないひと時さえも幸せなのだ。

「まぁなんにせよ、もうすぐ魔宴だ。誰が相手だろうが本気でかかれよ?」

幼馴染四人を仕切るのは成瀬の役目だ。この凹凸グループのまとめ役は生半な者では務まらない。

「俺たちで荒らしてやるのさ。薙宮の箱庭(オモチャ)を、な?」

 これは居場所を守る物語。

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