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6話 騎士様と僕と本の魔物




「おはよ、ゼミス」


 昨日に引き続き訪れた、ギルドの図書室。入り口近くのカウンターに本を積み重ねて、寝ている男に声を掛ける。


「んぁ……?やぁ、昨日ぶりだね。グロース。今日はどうしたんだい?」

「昨日歴史書を読むのを忘れちゃったし、あとはちょっと逃げてきちゃった」

「そうかそうか。まぁ、騎士殿の事は、私も興味があるし、昨日の続きとしようか。歴史書は難しいものはいらないだろう。これと、これかな。あと個人的に気になった事を質問してもいいかな?」


 ゼミスは魔法で遠くの本棚から本を取り出し、ひょいひょいっと長机に置いていく。


「何でもきいてくれ。私がわかる事であれば答えるとも」


 では、とゼミスはカウンターの下からメモを取り出す。


「君は名前も故郷も覚えていない。それは間違いないんだね?」

「あぁ」

「しかし、言葉は交わせるし、普段の生活には殆ど支障がないことから、常識は残っていると」

「あぁ」


 ふむふむと頷く。何が聞きたいんだ?


「この世界で常識とさえ言える、生活魔法、いや、魔法そのものさえ、全く理解の理の字もなかったからね。その差はなんだろうかと思ってたんだけど、騎士殿は恐らく、魔法を知らない。あるいは魔法のない世界から来たのだと推測出来る。勿論名前と共に消えてしまった可能性もあるがね」

「それで、なんなんだよ」

「いや、なに。騎士殿は魔法を使う事が出来るのかなと。興味が出てね」


 ゼミスはポンっとひとつ本をはたき、それをリーゼさんに手渡し、ページをめくるように手を振る。


「グロース。君は最初のページに何が見える?」

「リーゼさん、ちょっと見せて」


 めくられたページを見ると、小さな火をモチーフにされた精霊がクルクルと回っているような絵が見えた。


「なんか、小さい火の精霊みたいなのがクルクル回ってるけど」

「騎士殿はどうだい?」

「私には、風の精霊のような物が沢山が笑っているように見えるが……」


 え、どういう事?僕には火の精霊っぽいのしか見えないんだけど。


「すぐに答えを求めようとするでないよ、グロース。冒険家ならこれくらいパッと出さねば」

「適正……か?」

「お、騎士殿正解だ。このくらい早く答えて欲しいものだね」

「回転が遅くて悪かったな」


 それで行くと、僕の適正は火だけど、規模から察するに……。


「あっはっはっは!そんなに悲しい顔をすることないだろう。君、そんなに魔法は使わないだろうに」

「だって、近接戦闘も勝てなさそうなのに、魔法でも敵わなそうだと思うと虚しくてさ」

「なんだか、すまない」

「リーゼさん、やめて、謝らないで!更に悲しくなるから!」

「すまない」


 何処が面白いんだか、延々と笑うゼミスを叩く。


「因みに私は、火と風の精が地上で祭りを挙げ、空に太陽の様な大きな光が存在している絵だね」

「規模の違いよ。泣けてくるね」

「面白いのは次からだよ、グロース」

「次から?」

「これはね、読む人間によって中身がガラッと変わる精霊が宿る本なんだ。自身が覚えられる事とか、運が良ければ精霊と会話ができたりするんだ」

「精霊と!?すげぇ」


 こんな普通そうな本がねぇ。


「さぁ、騎士殿。読んでみてくれないか?」

「わかった」


 リーゼさんが本を読み始めると、昨日と同じようにススッとゼミスが近付いてくる。


「なんだよ」

「いやね。ひょっとしてひょっとしてなんだけどさ。君達もしかして、二人だけで遺跡周るつもりかい?」

「そのつもりだったけど、拙いかな?」

「拙いというか、厳しいというかね?」

「何が厳しいんだよ。僕だって二年弱、近場の遺跡は周っているんだぞ」

「は〜ぁ」


 すんごい溜息吐かれたんだけど。そんな大仰しく手まで挙げて。なんだよぉ。


「君ね。いや、君が一人で遺跡を周る分には良いけどね。騎士殿は素人だよ?戦闘技能に秀でていても、それだけだ。騎士殿の武器は大剣らしいけど、それは遺跡で扱える物かい?広ければいいだろうけど、狭かったら?罠だってある。多少は君もわかるのだろうけど、いや。わかってたら一月も失踪しないよね!」

「あ、えっとちょっ」

「あと君達近接に特化しすぎなんだよね。魔法はもしかしたら騎士殿が使えるかもしれないが、属性は聞いた感じだと単一。君は使えても大した威力にならないし、厳しいと思うよー?余程魔法に長けてないと連発は無理だろうし」

「うぐぐ……」

「とりあえず、最低限、探索技能に秀でたシーフを探すべきだ。永続的じゃなくても、街毎に雇うなりしないと、危険だよ」

「ごもっともです」


 お前は僕の父親か!って思ったけど言わない。それはそれで喜ぶ未来が見えてる。


 でも、確かにそうなんだよな。父さんも基本母さんと他二人とパーティを組んでいたみたいだし。


「次に、大剣とは別に使える武器を探す事。小回りが利く物がいいと思うよ」

「うん」

「あとは……」


 と、ゼミスが何か言おうとした瞬間、割と大きな笑い声が隣から聞こえる。


「あはははっ!凄いな」

「り、リーゼさん?」

「ほら、見てみてくれ、グロース」

「いや、僕には白紙にしかみえないんだけど」

「そうか……うむ。そうかそうか。ふむ……君はいつ会えるんだ?」


 リーゼさんは本の中の精霊と会話ができているらしい。良いなぁ。僕はその本のページが空白な時点で諦念しかない。


「凄いねぇ。この本と会話できた人間って、実は十人に満たないんだよ」

「本当かよ!?」

「まず、僕が見せたいと思った人間にしか見せてないのが一つ」


 少ない理由がわかった。


「いやいや、僕の好みは精霊の好みみたいな物だよ?なんたって君の五十倍は仲がいいからね!!」

「うるさいよ!」

「す、すまない。そんなに声が大きくなっていたか……」


 シュンとするリーゼさん。可愛い。いや、


「違う違う!違いますって!ゼミスが」

「そうですよ、グロース。図書室では静かにしないと〜」

「この野郎……!」


「さて。騎士殿その様子だと、大分お話が出来たようですが、いかがかな?」

「うむ。結論から言うと、私は魔法を使えないそうだ」

「使えない?」

「あぁ。魔力が殆どないらしい。代わりに……」

「風の精霊との親和性が抜群に高いのか」

「そうらしい。精霊を見る力は無いが、精霊に好かれやすい存在……という事だ」

「因みに、グロースの魔力を一として、君はどれくらいだって聞いたら答えてくれるかい?」

「聞いてみよう。どうなんだろうか?」


 本の精霊とリーゼさんが話し合う。


「……そうか」


 なんだかしょんぼりしている。ハッ。しょんぼリーゼさん。


「グロース君を一として、私はその半分もないそうだ。ただ、相性は二百くらい……らしい」

「私よりも良いじゃないか。羨ましい事だ。その段階なら、自身で使うより、精霊自身に全てを任せてしまった方が良いだろうね。良い師にあって研鑽を積めば、精霊使いとしても生きていけそうだ」


 かつてないくらいゼミスが生き生きしながら語ってるんだが。アイツ僕にはあんな顔見せた事ないぞ!?


「これは楽しくなってきたぞ!グロース。今日の図書館は閉館だ!外に出よう!!」

「ええっ!?」

「この本を持っていってもいいか?ゼミス殿」

「勿論良いとも!!その本は私の私物だからね!さぁ行こう。早く行こう!」

「ま、待てよゼミス!元々僕ら別の事調べに来たんだけど!それに他の本とか仕舞わないとだろ!?」

「そんな事は後でも調べられるだろう!?本は私がしまう!幸い今日は君達以外利用者はまだいないから、今なら出ていっても問題ない。素晴らしいね!!」


 ゼミスが手を振り、一陣の風魔法を展開すると、瞬く間に本が元の場所へ仕舞われていく。普通にすげぇんだけど、ゼミスはリーゼさんを連れて、さっさと出ていってしまう。


「待てよ!施錠はどうすんだ?」

「君が出れば勝手に閉まるよ!何しをしてるんだい、早くいくよ!」


 僕達は興奮する本の魔物にガッと腕を掴まれ、その場を後にした。



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