Ep1:放浪者
この世界ではかつて、悪の組織『ダークネス』と正義の組織『セインティア』が争っていた。
これは、その戦いの後の物語である。
「うぅーーん……」
とある街の一角にある『花畑ラーメン』の前で唸っている男がいた。
赤いムカデによって円が描かれたジャケットがくしゃくしゃになってしまっている。
「このままじゃ」
「給料が貰えなくて生きられない、ですか?」
唐突に女性の声が聞こえたので、男は驚いた。先程まで自分の周りには誰もいなかったのだから。
「……誰だお前」
紺色の髪と真っ黒なスーツを着た女性に問いかける。
「私ですか?」
すっとぼけた言い方に、男は苛立ちを覚える。
「当たり前だ」
男は戦闘の姿勢をとる。それを見た女性はクスッと笑い、
「流石、戦い慣れていますね……」
そう、男に言い放った。
「やはりまだ染み付いていましたか」
「マジで何もんだ……お前」
私ですか?とすっとぼけた様子を見せたあと、
「私は『ブラック』です」
そう、黒服の女性ことブラックは言った。
「……冗談ならもうちょいマシなのにしてくれ」
男にはその名前を警戒する理由があった(ここでは語らないが)。
「あぁ、貴方が知っている方の『ブラック』ではありません……『ブラック』というのは、飽くまでコードネームです」
「コード……ネーム?」
聞き慣れない単語に、男は首を傾げる。
(なんかの役職か何かか?)
そんな素振りを見て見ぬふりをして、『ブラック』と名乗る女性は質問する。
「あなたは……」
「あなたは、もう一度人々を救いたくないですか?」
聖母のような……いや、立て篭り犯が自分の要望を通すための声で男に言った。
半ば脅迫のような口調で、普通の人なら即座にハイと言わせるような声で女性は質問した。
「いやだ……と言ったら?」
男は断るそぶりを見せる。断らなければならない理由があった。
「それなら……」
それを見透かしていたかのように、ブラックはすぐに提案した。
「鬼ごっこ……で決めましょう」
「……は?」
状況が読み込めていないような顔をする男に、ブラックはもう一度、ゆっくりと言った。
「あら?知りませんか?鬼ごっこ」
「そうじゃない……一体何を企んでるんだ?」
何度も言わせるな、そういう態度でブラックは言う。
「貴方を仲間にすること……ですかね」
(質問しても無駄みたいだな……)
そう考えた男は、渋々提案に乗ることにした。