異世界転移?拉致だよね、これ。
どうやら僕、並波大海は今とても厄介なことになっている。
学校からの帰り道、幼馴染みの杉沢柑奈と土御門源太と一緒に異世界に召喚されてしまったらしいのだ。
「異世界の勇者のお三方、私がこの国の宰相ロドリゴ・カレーラスです」
召喚とは言うがどう考えても拉致なので、この時点で不愉快極まりない。
「そして、後ろにいらっしゃるお方がジョン・メルガルド国王です」
僕たち3人は一応頭を下げるが、そもそもこの世界での作法など知らないのでどうしようもない。
と言うか、これ本当に国王か?
椅子に座る姿は「威厳」と言う言葉より「虚勢」と言う言葉がふさわしく感じる。
服装だけは一応それなりのものだが、彼らが「王城」と呼ぶこの建物が、どう見ても田舎の豪邸の域を出ない。
王城と言うなら、調度品もそれなりに豪華なはずだけどなあ。
貧しい国だからこそ藁にも縋る思いで召喚したのかもしれない。だとしたら、僕の感想は大変失礼なものにあたる。
だが、なんとなくではあるけど僕のカンだと、カレーラスとやらはロクな人間じゃない気がする。
ん?メルガルド?
いいとこバカ貴族だろ。
逃げるか?
勿論、それは愚策だ。
何も情報が無い中で、それは自殺行為に等しい。
一緒に拉致された柑奈と源太がこういう場面で喚き立てるようなアホで無いのは助かるが、かといって積極的に打開策を考えるタイプじゃない。
お前に任せた。
そんな二人の心の声が聞こえてくるようだ。
「勝手にこの世界に召喚して申し訳無いと思っています」
だったら召喚するな、と言う話だ。
「ですが、他に手立ては無く…」
さて、どうしたものか。
まずは、視界の隅にチラついているアレを色々確認する時間が欲しい。
「話は長くなるよね?」
いつまで立ち話させる気だ、この自称宰相は。
「……あの」
「僕たちは何もこの世界の事を知らない。あなた方がある問題を抱えているだろうこと、そしてそれを解決するために僕らが呼ばれたのであろうこと。想像できることはそこまでだ」
そこまで言って少し間を置いてみた。
おいおい、察しが悪過ぎないか。
流石にこれは国家の中枢にいる連中だとは思えないなあ。
これじゃ外交なんかできないだろうに。
隣の柑奈と顔を見合わせてしまう。
「場所を変えましょう。ここで活動するために知らなくてはいけないことがたくさんあります。あなた方が知っておくべきこともたくさんあるでしょう。食事でもしながらゆっくりお話しできませんかね」