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第5楽章 「吸血チュパカブラに捧げるレクイエム」

 (わたくし)の視線の先では、醜い肉塊のオブジェから滴る大量の鮮血が、大浜大劇場の舞台の床を忌まわしく汚していたのでした。

 なんと悍ましく、忌々しくも見苦しい有様でしょうか。

 その手前にある客席では、千里さんがレーザーライフルを肩掛けされながら、マリナさんの一挙一投足を見守っておられました。

 作戦成功の喜びを千里さんと分かち合った後、処理が終わるまで吸血チュパカブラの死体を監視しよう。

 今の自分に出来る事と成すべき事を判断し終えた(わたくし)は、マリナさんがお使いになっているのとは別の階段を用いて、千里さんの許へと歩みを進めるのでした。

 千里さんが(わたくし)の気配に御気付きになったのは、残りの段数が20段を切った辺りでした。

 吸血チュパカブラを倒した事で、緊張の糸が緩まったのでしょうか。

 或いは千里さんも、マリナさんの整った立ち振舞いに、思わず見とれていらっしゃったのでしょうか。

 その理由は定かでは御座いませんが、普段よりは少し反応が遅かったように思われます。

「他の歌劇団メンバーと観客の方々の安全が確保出来ましたので、加勢に馳せ参じたのですが、勝負は着いたようですね…」

 振り向きざまに立ち上がった千里さんに向けて、(わたくし)は静かに語りかけました。

「英里奈ちゃん…」

 この無邪気で屈託のない千里さんの明るい笑顔に、(わたくし)はどれ程救われて来たでしょうか。

 思い起こせば、特命遊撃士養成コース編入時に話し掛けて下さった千里さんが、(わたくし)にとっての初めての御友達でした。

 あの時、もしも千里さんが話し掛けて下さらなかったら、今日の(わたくし)は存在しなかったでしょう。

 それに千里さんは、「黙示協議会アポカリプス鎮圧作戦」の際にヘブンズ・ゲイト最高議長に負わされた重傷が元で、ほんの少し前まで昏睡状態でいらっしゃったのです。

 長い間、無言でベッドに横たわる御姿ばかりを見続けていたので、出会った時と変わらぬ無邪気で快活な笑顔が戻って来た時には、そのかけがえのなさを痛感した次第でした。

 そのように考えを巡らせますと、千里さんの事が愛しくなってきます。

「舞台を血だまりに変えている醜い肉塊が、通報にあったチュパカブラの成れの果てですね。特命機動隊が到着して処理を終えるまで、あの肉塊は(わたくし)が監視致します。千里さんは、マリナさんに着いていてあげて下さいね。」

 マリナさんへの慕情と、千里さんへの愛しさ。

 その2つを振り切るように、(わたくし)は努めて平静を保ちながら、千里さんに要件を告げるのでした。

「分かったよ!英里奈ちゃん、気をつけてね!」

 軽く手を振って応じられた千里さんは、レーザーライフルを構え直すと、マリナさんの後を追ってエントランスへ歩みを進めるのでした。

「ありがとう…マリナさん、千里さん…!」

 千里さんの小柄な背中に頭を下げた(わたくし)は、踵を返して舞台を目指すのでした。

 こうしてバトルモードに展開したレーザーランスを握っていますと、闘志と活力が沸き上がってきます。

 舞台上に転がる醜悪な肉塊など、何するものぞ。

 そのような勇ましい感情は、人類防衛機構に参加する以前の(わたくし)には、全く無縁の物でした。

 こんな(わたくし)でも、こうして特命遊撃士を続けて来られたのは、ひとえに周囲の皆様の支えがあってこそ。

 明王院ユリカ大佐といった上官に、特命機動隊の方々。

 (わたくし)達を応援して下さる管轄地域住民や御子柴高等学校の一般生徒の皆様。

 そして何より、マリナさんや京花さん、千里さんといった御友達。

 今後もこうした方々の期待に沿えますよう、ベストを尽くしたい物ですね。

「う…」

 しかしながら、舞台上に広がった血の海と吸血チュパカブラの死体から漂う腐臭には、閉口させられましたね。

 適切に冷凍処理を行わなければ、病原菌が発生してしまうでしょうね。

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― 新着の感想 ―
[一言] ホント、素敵な友人に恵まれましたよね( ´∀` )
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