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70.「ざまあみろ」

連続投稿の四話目です。

継続して読んで頂いている方は、ご注意下さい。

「おらぁっ!!」


 魔旋VSリフレクト・ブラスト。

 押し勝ったのは、シロウの方だった。強力な拳がエフォートを捉える。


「ぐうっ!」


 弾け飛ぶエフォート。反射とはべつに身体強化の魔法をかけていなければ、それだけで致命傷だ。


「はっ、どうした! そっちのが速いんじゃなかったのか?」

「このっ……〈ウィンディア・ディザスター〉!!」


 真空の刃がエフォートから放たれる。


「無駄ぁ」


 シロウは無詠唱のレジストで容易く消滅させた。


「〈アイシクル・ランス・クルセイド〉! 〈フレイム・バースト〉! 〈ディアボロス・ヘイル〉!!」

「無駄、無駄、無駄ぁあっ! ひひゃはははは! 心地いいぜ、テメエの無駄な悪あがき! 断末魔の意味のねえ抵抗がなぁっ!」


 次々と繰り出されるエフォートの戦術級魔法をすべて無効化しながら、シロウは勝ち誇る。 


「テメエの仕込みだらけだった王城ん時とは違え! たった一個の魔石の増幅で、どこまで続くよ!?」

「く……ここまで、とは」

「オレは女神にチート能力を与えられた、選ばれし勇者だ。主人公だ! くだらねえ罠がなけりゃ、テメエごとき噛ませ犬に負ける道理がねえんだよぉ!」


 魔力枯渇マインド・エンプティが近づき膝をつくエフォートを、シロウは見下した。


「……ずいぶん、選ばれたとか主人公だとか、固執するんだな」

「ああ?」

「自分に自信がないのか? そうして主張し続け、他人に肯定されなければ不安なのか?」


 シロウの顔から嘲笑が消える。


「黙れ」


 一瞬で間合いを詰めてエフォートを蹴り飛ばし、大岩に激突させた。


「ぐっ……!」


 ただの蹴りだ。だがチート勇者の身体能力で繰り出されたそれはこの世界の武術奥義に勝る。


「……図星を、突かれると……癇癪を起こして、暴力か……魂の年齢は大人でも……精神年齢はガキ、だな」

「黙れ」


 今度は鉄拳。魔術師の身体に深々と勇者のパンチが突き刺さり、エフォートは血反吐を吐いた。


「がふっ……! 単純で……底の浅い、奴だ……」

「黙れっつってんだよぉ! 〈魔旋〉!!」


 大岩ごと弾き飛ばされた。それでもエフォートは、ボロボロになりながら身を起こそうとしている。


(……なんなんだ、コイツは!?)


 シロウは、エフォートの異常な耐久力に疑念を抱く。そして震えているだけのミンミンを確認してから、シルヴィアに視線を移した。

 〈鑑定眼〉を持つシルヴィアも、不思議そうな表情のまま首を横に振る。


(ミンミンがこっそり回復しているわけでもねえ。どういうことだ……チッ)


 またもエフォートが何らかの策略を巡らせている可能性に思い至り、シロウは方針を変えることにする。


「気が変わったぜ、レオニング。命乞いは結構だ。……このまま消滅しろ」


 シロウが天高く掲げた掌に、雷光が宿る。それはエフォートにとって因縁のある大魔法〈カラミティ・ボルト〉の輝きだ。

 その輝きの反照に、身の自由を奪われたサフィーネたちも照らし出される。


「……これで終わりだね、お姫さん」

「リリン?」


 ポツリと漏らしたリリンに、横のエルミーは怪訝な顔をする。


「エフォートはシロウに殺されるよ。それでいいの?」

「リリン、無駄じゃよ。お姫さん達は口もきけぬようにしておる」


 シルヴィアが教えるが、リリンはなおも続ける。


「その程度なんだ。これで終わりなんだ。大したことない覚悟だったんだ。……ならもう、このままでいいのか」

「リリン? ……そなた、もしや」


 不審なリリンに、シルヴィアが鑑定眼を使おうとしたその時だった。


「いいわけがないでしょう?」


 ガァン!!


「くあぁっ!」

「シルヴィアッ!?」


 いつの間にか、サフィーネの手には拳銃グロックが握られていた。

 銀の銃弾を受けて倒れる吸血鬼に、エルミーは動揺する。そしてその隙に。


「戒めの夢、妖鬼の束縛! 汝縛るは漠たる鎖! 〈ナイトメア・バインド〉! おりゃあー!」


 ガラフが、ルースの分のウロボロスの魔石を握りながら承継魔法を発動させる。周囲に闇が具現化した紫の火柱が噴き上がり、そこから精神を束縛する事で身動きを封じる暗黒の鎖が飛び出した。


「! 風精シル……くうっ!?」


 精霊術は間に合わず、エルミーは鎖に捕らえられる。倒れたシルヴィアも同様だ。


 チャキィッ!


「動かないでね、リリンちゃん」


 〈ナイトメア・バインド〉の鎖は物理耐性が弱い。強い膂力を持つリリンに対しては、エリオットが剣先をその首筋に突きつけた。


「……」


 リリンは無言でエリオットを一瞥し、おとなしく両手を上げた。


「なんで、シルヴィアの傀儡眼が、効いてない、の!?」


 驚愕するエルミーを無視して、サフィーネは行動を次に移す。


「開けッ、我が秘せし扉! ……ルース!」


 アイテム・ボックスから両手杖スタッフを取り出して、ルースに投げ渡した。


「オッケーお姫さん!」

「ミンミンの、両手杖スタッフ!?」


 ルースは受け取りながら、全力で駆け出した。


「なにっ、ルース!?」


 向かう先は、まさにエフォートに向けて〈カラミティ・ボルト〉を放つ直前の転生勇者!


「ごめんシロウ様ッ! 〈魔旋〉ぇぇん!!」

「があっ!」


 魔法・物理混合属性の〈魔旋〉は反射魔法で対応できない。

 それはシロウの驚異的なレジストでも、同様だった。

 パーティで一番の腕力を持つルースの魔旋で、シロウは吹っ飛ばされ、大岩に激突した。


「ぐ……ルース……? お前まさか、本当に、このオレ様を裏切って……」


 肉体的に与えられたダメージは微小だ。だが。


「な……殴ったのか? ルース、今、オレのことを、殴ったのかぁあっ!?」

「えええ? し、シロウ様!?」


 かつて仲間による直接攻撃に、当のルースが困惑するほど精神的ショックを受けるシロウ。その動きは隙だらけだ。


「レオニングさんっ!」


 その間にミンミンが両手を掲げ、叫ぶ。


「〈リザレクション・ヒール〉!!」

「……ありがとう、ミンミン!」


 エフォートの身体はシロウから受けたダメージから劇的に回復し、反射の魔術師は立ち上がった。


「これが正真正銘、最後の魔力だ……〈リフレクト・シャクルス〉!!」

「なあっ!?」


 小さな反射壁が幾つも出現し、シロウの四肢を挟み込むように拘束した。

 それは反射魔法による手枷であり、足枷だ。


「……て、てて、テメエの反射魔法なんざ、転生勇者様の、ま、〈魔旋〉で」

「できるものなら、やってみろ」

「……ッ!?」


 シロウは息を飲む。魔力を高速回転させようにも、手足に密着する形で反射壁に抑えつけられていた。


「魔力が旋回する隙間がなければ、〈魔旋〉を生み出しようがないだろう。至近距離でお前の動きが止まっていることが条件だったが……うまくいったようだ」

「……クソがぁっ! がああ!」


 これで、シロウの身動きも封じられた。時間制限はあるが、〈ナイトメア・バインド〉でエルミーとシルヴィアも拘束し、リリンもエリオットが制している。


「……うっ」


 魔力枯渇マインド・エンプティで意識を失いかけるエフォート。


「フォート兄ちゃんっ」


 だが、駆け寄ってきたガラフに支えられ、〈マジック・パサー〉でささやかだが魔力を供給されて、なんとか耐える。


「すまないガラフ、お前もキツいだろう」

「これくらい問題ないって、オイラ若いから!」

「……オレだってそんな年寄りじゃない。シロウとは違う」


 そりゃそうだ、とガラフはケタケタ笑った。


「……バカな……なんで、なんでこうなった……」


 茫然自失のシロウの前に、サフィーネが歩み寄る。


「種明かしをご希望ですか? 転生勇者様」


 シロウは王女をキッと睨みつけた。


「テメエ、答えやがれッ! どんな汚ねえ手を使いやがった!? ……そうか、魔王だな! テメエらオレに嫉妬して、勇者であるこのオレを倒す為に魔王の力を借りやがったなぁっ!!」

「……呆れますね。女神のチートに頼る貴方と一緒にしないで下さい」


 わざと王女らしい口調で話し、サフィーネはため息を吐いた。


「ざけんなぁっ! だったらテメエら自力でシルヴィアの傀儡眼を解いたってのか!? 真祖である吸血鬼の瞳術を破るなんざ不可能だ!!」

「……ボクだよ。ボクの〈マインド・リフレッシュ〉だ」


 ミンミンが口を挟み、シロウに怒りの形相で睨みつけられる。幼女はビクッと肩を震わせるが、今度は誰の影にも隠れなかった。

 シロウは喚き続ける。


「ミンミン……いや違う! お前なんかミンミンじゃねえ! 本当のミンミンはオレを裏切ったりなんかしねえんだぁあっ!」

「言うに事欠いて、本当のボクとかどの口が言うの……? 大体、そっちが知ってるのはあの化け物の分体でしょ」

「うるせえぇえ! そうだ、女神の分体じゃなくなったテメエに、そんな真似できるワケがねえ! テメエの前に魔術構築式スクリプトなんざ見えなかった! シルヴィアも警戒してた、魔法を使えた筈がねえんだ!」


 ぎゃあぎゃあと喚くシロウに、今度はエフォートがため息を吐いた。


「ならばシロウ。お前にオレの反射魔法の構築式スクリプトが見えるのか?」

「なっ……」


 エフォートの言葉に、シロウは絶句する。ミンミンはそのエフォートの横に立ち、親しげに腕を掴んだ。


「ボクは聖霊獣エル・グローリア戦でレオニングさんと魔術同期シンクロした時、反射魔法と並列展開する別の構築式スクリプトを見た。それは式を隠す為の特殊魔法。勇者に魔法を奪われないようにするものだった」

「まさか……」

聖霊獣エル・グローリア戦の後も、ボクは同期シンクロを解いてなかった。だから構築式スクリプト隠蔽の構築式スクリプトを使いながら、お姫様達に〈マインド・リフレッシュ〉をかけられたんだ。レオニングさんにも治癒魔法をかけ続けながらね」


「待って。ちょっと、待って!」


 後ろで聞いていたエルミーが、叫んだ。


「だとしても、だよ! あんな連携で、ワタシ達を、出し抜くなんて! 陰険魔術師とそんな相談、できなかった、はず!」

「できたさ」


 エフォートは懐から、二つに割れた通信魔晶の片割れを取り出す。

 サフィーネも同様に取り出して、にっこりと笑った。


「……! でも、そんな暇は」

「エルミー、お前と別れてからここまで飛んでくる間にな。確かに話せた時間は短かった。だが」


 エフォートはそこまで言ってから、チラリと王女を見る。


「フォート」

「俺とサフィが意思疎通するのに、長い時間など必要ない。どれだけの時間をサフィと重ねてきたと思っている」


 その言葉を聞けただけで、サフィーネはエフォートからご褒美を貰えた気がした。

 潤んだ瞳でエフォートの横顔を見つめるサフィーネ。

 そんな二人の姿は、シロウの嫉妬心を煽るのには充分過ぎた。


「……ざけんな……ざっ……けんなぁああ!!! 王女だって本当は、オレ様のものなんだぁあああ!!!」


 シロウは絶叫し、手足を封じられたまま戦略級魔法を解き放つ!!


「グロリアス・ノヴァァア!!」

「リフレクト」


 ガォンギィン!


 エフォートに容易く反射され、シロウは身体を爆散させた。


「……今の魔法も、お前が手を抜かずに属性変容の構築式スクリプトまでコピーしていたら、俺は反射できなかった。すべてはお前の、怠惰と傲慢と他力本願が招いたことだ」


 冷めた口調で呟くエフォート。

 女神のチートにより、シロウの身体はすぐに治癒され、爆散した肉体が時間が逆回しされるように再生する。

 だがその心に負った傷までは、癒されることはなかった。


「……バカな……負けた? 俺が……女たちに裏切られて、負けた……? 主人公だぞ、オレは……! オレはぁあああァアアアアッ!! 主人公だぞォォおおっ!!! こんな、こんなバカなことがあってたまるかぁああアア!!!」


 絶叫するしかない、転生勇者のシロウ・モチヅキ。

 その勇者に奴隷にされ、三年の時と幼さを奪われた回復術師はポツリと呟く。


「……ざまあみろ」


 ミンミンの呟きには、万感の思いが込められていた。

今夜の連続投稿は、今話まで。

応援、よろしくお願いします!

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