色別者
色多き世界。
それは当たり前のようにそこにある。
人々は盲目の人以外ならばみなそう思うはずである。
毎日ように色を見て物事を判断し、ときには気持ちにまで変化を及ぼす。
人々はまたあらゆる場面で色を使う。
塗ったり着たり、というのもあるが表現にもよく使う。
ある物体を表現することがだいたいだが、
時には抽象的な気持ち、やらを表現するのにも用いる。
人々は色の中に、色の中で生きている。
それが当たり前となっている。
では当たり前でない人は?
失明、や盲目、とは違った形で失った人は?
また、失うわけではなく、
より多く見ているために当たり前でなくなった人は?
なにが当たり前で、なにがそうでないのか。
果たして本当に色がある世界はあるのか。
では色のない世界は?
どちらかがあるならもう一方もあると言えるのか。
世界が何色なのか、
色を見ることしかできない人々は一つの手段を繰り返す。
見て感じて想って。
その繰り返し。
あなたの世界は何色ですか?
朝。目覚ましよりも早く起きた少女は、目の前のカーテンを勢いよく開けた。壊れない程度におもいきり開けたときのシャーッといった音を聞くのが彼女の最近のブームなのだ。
窓から射し込む光に照らせれ朝であることを再確認した彼女は天井に、むしろ空に向かって大きく伸びをした。これも彼女の日課で、やり忘れると調子がでないだけでなく、一日ろくなことがなくなるというんだから習慣というものも馬鹿にできるものじゃない。
この日は晴天で絵に描いたような青空が広がっていた。それをみると少女は一つ大きく肯き、満面の笑みを浮かべた。彼女は晴れの日が好きだ。もともと澄んだ青だとか水色が好きだというのもあるが、透き通っているような綺麗な青が一面に広がり、時折白がスーッと流れてくるのを見るのが大好きだった。
朝の日課を終え気持ちがすっきりしたところで少女よりも遅く起きた目覚まし時計がやっと鳴り出した。少女は思わず少し笑いながら目覚ましを止め、リビングへと向かった。彼女の住んでる家はマンションなのでリビングに行くのに階段を上り下りする手間はなく、部屋のドアを開けたら廊下を進むだけだ。
フローリングの廊下をいくとリビングで母親が朝食の用意をしているのが見えた。彼女の母親はおそらく一般家庭がそうしている様に早く起きて毎朝朝食の用意している。
「あら、おはよう」
母親は彼女に気付いたようで少し笑いながら挨拶をしてきた。
「おはよう、お母さん」
少女も同じように少し笑って挨拶を返した。
少女とその母親はよく似ている。彼女は父親よりも母親に似たのだ。そのため笑うとき、その顔は酷似していると言っても過言ではない。とにかくそっくりなのだ。周りの人も、少女の祖母だとかも、「似ている」とか「お母さんの若いころにそっくりだ」とか言う。彼女は母親のことが好きなので悪い気はしないのだが、少しだけ複雑な気分にもなる。ほんの少しだけほんとに自分を見てくれているのかと、母の「娘」としか見てくれていないのではないかと少しだけ思ってしまうのだ。
挨拶をしてとりあえず席に着いた彼女は朝食を食べることにした。
彼女の家の朝食はパンが基本だ。パン以外であることはまずない。この日もいつもと同じようにトーストとスクランブルエッグと牛乳といった簡単なものだった。
彼女は席に着くとすぐに青紫の瓶をとりパンにブルーベリージャムを塗っていった。
パンとスクランブルエッグと牛乳をいいバランスで順番に食べ、最後の一口までしっかりと咀嚼して朝食を終えた。
「ごちそうさまでしたー」
これも日課で、言わないと気持ち悪い。というか母親に挨拶はしっかりなさいと小さいころから言われているため、いつの間にやらどんな挨拶もするようになったのだ。
朝食を終えた彼女は洗面所に向かい、歯を磨いてから、寝癖のついた髪の毛をとかして整えた。彼女はおしゃれとかいったものにも興味はあるが、特別なにかしようとかいったことはなく、ありのままでいいじゃないかということで、ある程度のことしかしない。そのため同年代の女子たちがしているようにヘアーアイロンだとか化粧だとかはしない。本人に自覚はないがそんなことをしなくても彼女の場合全体的に整うのだ。もちろん本人にそんなことを言ったところで確実に否定されるが。
身だしなみを軽く整えたところで、彼女は自室に戻り制服に着替えた。今日は平日なので通常通り登校だ。今日彼女よりも寝坊した目覚まし時計を見るともう家を出る時間になっていた。少女は荷物を持つと急ぎ足で玄関に向かった。
玄関には彼女が高校入学の際に買って二年になった今も愛用しているローファーが揃えられていた。母親がやってくれたのだ。別段彼女が靴を揃えるのができないとか、そういったことはないが彼女の母親は毎朝このようにしてくれる。そしてなぜか母親が揃えると自分がやるよりも並びだけでなくローファー自体までもが綺麗に見えるのだから不思議である。
「いってきます!」
揃えられたローファーにすぐさま足をおさめた彼女は学校へと向かった。
彼女が通う学校へは自宅から二十分ほど歩いたところにある。本来この距離なら自転車を使ってもよさそうなものだが、彼女たっての願い出で徒歩での登校となっている。決して自転車がないわけでも乗れないわけでもない。ただ単に彼女がこの学校までの通学路を気に入っていて、歩きながら景色を見たりと楽しみたいのだと言う。
実際この道には四季のどのタイミングでも楽しめる要素がある。春には桜が並び咲く大通りがあるし、梅雨には紫陽花が咲く小道も通る。夏は向日葵が空高く伸びる畑があり、秋には銀杏の木がある道や、遠くに紅葉が見れる場所もある。冬には少し開けた場所に子供たちが必ず雪ダルマを作る、絶好の雪ダルマスポットもある。
こんなにも四季で変化する通学路を自転車で素通りするなんて、ものすごくもったいないと彼女は思ったのだ。そう思って以来彼女はずっと歩いて登校している。
彼女は周りの人がそうするように音楽を聴きながら登校したりということはまずない。その場その場の景色を見たりその場でしか感じられない音や匂いや色を楽しみたいというのが彼女の主義だ。
この日も四季折々の景色を楽しみながら歩いていた。緑が広がり、ところどころ花の鮮やかな明るい色がアクセントを出している。空も綺麗だ。雲の量は少なく、邪魔にならない程度に、しかし全くないわけではない、その絶妙な量と青と白の割合のバランスは彼女が一番気に入っている状態だった。
なんだか景色もいいし空の状態もいいし、今日はいい事が起こるような、そんな気がした。
そんな風に上機嫌で空を見ながら歩いていた彼女は、小道から大通りに出るとき、空に注意がいっていたせいか、横から勢いよく来る自転車に気付かず自転車にひかれかけた。自転車に乗っていた人には通り過ぎる際に怒鳴られてしまった。
上機嫌だった彼女の気持ちは一気に落ちた。いいことがあるどころか危険な目に遭ってしまったのだから。
だが、いつまでもそうしているわけにもいかないので何とか気持ちを割り切り、とにかく気をとられすぎないように気をつけよう、と気を引き締めなおした。普段からすこしばかり気の抜けている彼女だが、ひかれそうになることはあまりない。やはり相当気をとられていたのかもしれない。ここのところ曇りが多く久しぶりの晴天だったからというのも要因の一つかもしれないが。
そんな風に危ない目に遭いつつも気を引き締めて歩き出し、しばらくして同じ制服の人がちらほらと見える道に出てきた。ここまでくると学校まではもう少しだ。
彼女が通う学校は県立高校で色々な意味で低くもなく高くもなくといったところだ。そんな学校だからときどき問題児やらもいて問題を起こすたびに集会やらなんやらが行われたりなんかしたりもする。だが彼女にしてみたら関係ないほかの一般生徒に言っても仕方ないじゃないかと思うのだ。そういうのは本人たちに言わなければ意味はない。もちろん学校側も本人たちに言わないということはないだろうが、本人たちに言ってわからせたらそれで十分だと思うわけだ。別に集会が嫌というわけではなく意味を感じない。それにそのせいで周りの生徒たちがイライラしたりぴりぴりしたりするを見たり感じたりするのも嫌だった。
そんな学校だが悪いことばかりではない。校舎は割と綺麗だし、なんと言っても校舎自体はいい雰囲気を持っているのがいい。色とか形とかいう問題だけでなく雰囲気がいいのだ。悪いものがついてる気がしない。そういった意味では彼女はこの学校を気に入っている。
人通りが多くなったところで偶然友達と一緒になり、連れ立って学校に行くことになった。相手は同じクラスの女子。あまり得意な人ではないが特別嫌いと言うこともない。そしてその相手はと言うと、そっきから異様に愚痴を吐き続けている。親がどうのとか、同じクラスのだれだれがどうのとか、違うクラスのだれだれがとか、後輩がとか、先輩がとか、といったくだらないことを話続けている。ちゃんと相槌を入れていたはずなのだが、なにかがお気に召さなかったらしく、「ちょっとちゃんと聞いてる?」とか言われてしまった。
だからつい
「え? ちゃんと聞いてるよ?」
とかニコニコしながら言ってしまった。実際は大分聞き流しているのだが。
しかし、それで納得したらしくその人はまた一人愚痴大会を再開した。
やはりこの人は好きではないな、と彼女は思った。まず色がよくない。顔色が、ではない。ましてや服の色でもない。もちろん髪の色でもない。その人の「色」が、だ。綺麗でもなく澄んでいるわけでもなく鮮やかでもなく、ただごちゃごちゃとうるさい色になっている。
彼女が人に色を見始めたのはいつごろからだろうか。気がつけば彼女は人や言葉、場所、物などに色を見るようになっていた。人で言うならばその人を、本質をあらわすのがそれだ。言葉ならばその言葉を放った人の精神状態が反映される。優しさから出た言葉ならば優しい色だったりといった具合だ。場所や物ならばそこやそれに対する強い念や想いがあると色がでてくる。
人によっては相手のことがよくわかって便利じゃないかと言う人もいるかもしれないが、よくよく考えれば全てが色として見えるのである。気持ちとか人とかも。それはつまり目を開けている限りおよそすべてのものの状態がわかってしまうことにほかならない。理由も含めてすべてが見えるのならばまだマシかもしれないが、状態だけがわかるだけなので、なぜかとかいったことは全くわからないのだ。だからその先は自分で考えるなり想像するしかない。そんな中途半端な見え方をするからただでさえ疲れるのに、見たくなくても見えてしまうのだから余計疲れる。
さらには色が見えると言えば聞こえはいいが、本人からしたらもはや色がうるさいといった域なのだ。いろんな方向からいろんな色が見えそれについての感情なども読み取ってしまう。もともと彼女は感受性が強いほうではあるが、この色が見えるせいで余計強くなり、また感受性が強くなればなるほどよく色が見えてしまうのだ。
こんな一種の能力のせいで得、というか助かったこともあるが基本的には困ることばかりだ。とにかく見たくないものまで見えてしまうというのは困りものだ。周りからしたら勘が鋭いとかそういう風に見えるらしいのだが。
そんな感じで色のよくない女子と登校し、学校に着いた。生徒玄関まで行き、近くを通った先生に挨拶をして昇降口に入る。いつものように自分の番号のついた下駄箱にローファーを入れ、代わりに下駄箱から出した上履きに履き替える。
彼女たちの教室は三階にある。階段を上って三階にある自分の教室に向かう。教室に入るともうほとんどのクラスメイトが来ていた。一緒に学校にきた女子は仲のいいいつも一緒にいる友達を見つけたのか一目散にほかの女子のところへと駆けていった。
彼女もいつも一緒にいる友達を見つけ朝の雑談を楽しむことにした。
彼女は友達がいないほうではない。むしろ多いほうかもしれないぐらいだ。だが彼女から相談を受けたとかいう人はほとんどいない。彼女のその能力じみた特性のせいで、彼女は人の変化にいち早く気付き、なんとかしようと話を聞いたりと尽力するため、自分のことを話す機会などほとんどないのだ。
そして今日も気付いてしまった。友達の一人が一緒の輪に入って笑ってはいるが、その笑いに陰りがあることに。その友達はさっきの女子とは違う意味でよくない色をしていた。黒っぽい、いやむしろ青かもしれない寂しい、悲しい色だ。
それをみてどうしたのかと考えていると、鐘が鳴り担任が教室に入ってきた。それを確認すると生徒は皆自分の席に着き始めた。その友達も席に向かったので、少しあとを追いかけて、小さい声で話かけた。
「なにかあった? 話聞くよ? 夜メールするから嫌じゃなかったらなんでも話してね」
なるべく明るくにこやかに笑って言った。
「ありがと」
すると友達は少しだけ顔を緩めてそう言うと友達は席に戻った。彼女にはその顔が今にも泣き出しそうな顔にも見えた。
とりあえず用は済んだので自分も席に戻り朝のホームルームを受けた。連絡事項を 聞き配布物を受け取って、朝のホームルームは終わりとなった。
そのあとは平常どおり一限目から授業だ。彼女は特別成績がいいほうではないが悪くもなく、どちらかといえばいいほうだ。彼女はとにかく真面目に授業を受けノートをきっちりとる。彼女のノートは先生や友達にも評判で色を上手く利用して工夫されている。色をみて生きてきているのだから、こういうときぐらいは利用しなければとはじめたのがきっかけだ。先生の話を聞いてうっすら大事そうだなと思ったことはとにかくメモすることにしている。それが案外テストにでたりするのだ。
なにやら意地になっているような感じもあるがとりあえず自分の能力を最大限活用することにしている。
いつものようにしっかりと授業を受け、ノートも綺麗にびっしりと書き今日やった内容を反芻しながら今日一日の授業すべてを終えた。
放課後、「ねえぇ、友達に遊びに行かない?」と誘われたが、この日はほしかったCDの発売日だったので丁重に断らせてもらった。
「ごめんね、今度遊びに行こ? それじゃ帰るね。ばいばい、また明日ね」
笑って謝りをいれ次の約束をしいつものように挨拶をして学校を出た。
CDショップは学校からそれなりに近いところにある駅のすぐそばにある。歩いていける距離なので、彼女は帰らずにそのまま向かうことにした。
そのCDショップは行き着けでもあるので店員ともわりと仲がいい。そのため好きな歌手とかの話もしたことがあり、発売日には彼女の分を予約もしてないのにとっておいてくれることもしばしばあった。予約の仕方がいまいちわからない彼女にとってはうれしいことで、でもなんだか悪い気がして「そこまでしていただかなくても大丈 夫ですよ?」とすこし申し訳なさそうに言ったこともあるのだが結局毎回残しておいてくれる店員はいい人だと彼女は勝手に思っている。
歩くこと二十分強。CDショップにつきとりあえずレジまで行って、ほしかったCDがあるか聞いてみた。すると見慣れた店員がいつものようにとっておいてくれたようですぐに持ってきてくれた。
「いつもいつもすみません…」
正直彼女は申し訳なさでいっぱいだが店員は気にしたふうもなくけらけら笑っていいよいいよと言ってくれた。
店員の厚意もあって買い物はすぐ終わった。あとは帰るだけ。
大きい通りの交差点で信号を待って、渡ったらまっすぐ行けば家に着く。地元なので地理状況は完全に把握している。大きな通りなので信号を待っている間車の行き来も激しい。ずっと見ていると目が回りそうなくらいだ。
少しすると車が停まり始め、信号が変わるのを予感させた。
彼女も周りの人も信号を見て青に変わるのを今か今かと待っているとき、彼女はふと視界に奇妙なものが入ったのに気付いた。いや絶妙とも言えるかもしれない。
またここにきて人の色が見え始めたのだ。だが周りの人の色なんかは気にならなかった。ただただ反対側で信号を待っている人たちの中の一人にのみ視線が向かった。
「それ」は初めて見る色だった。いや色と言っていいのかもわからなかった。
「それ」は酷く灰色で、これ以上ないくらい黒で、重く、暗く、それなのに純度も透明度も高い、不思議な色をしていた。冷たくて、でも綺麗な色だった。
信号が青に変わった。周りの人たちも一斉に動き出す。
気付くと彼女は走り出していた。「それ」に向かって。
あの色はなんだろう、と。どうしてそんな色なのか、と。ほんとに人なのか、と。
疑問があとからあとから湧いてきた。
彼女は一直線に「それ」を目指した。
その色の先には。
そこにある「それ」は。
そこにいるその人は
お読みいただきありがとうございます。
数年前に書いたものです。
誤字脱字は大目に見てください。
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