汚れた私には綺麗過ぎる世界
この世界に来て気づいた事がある。いや、私はその事実を認めたくなく目を背けていたのかもしれない。
もうこれは絶望だ。
世界が私を拒絶している。
しかし、もう1週間経っても無いのだ。こればかりは認めないといけない。
時代が俺についていけないなんて言葉があるけど私は今まさにその言葉を体験している。いや、更にスケールはデカイぞ。
世界が私に追いついてない!
この世界は科学も凄い発展を遂げているのに何故なんだ。
私は本当に嘆いているのだ。
あれ程魔法があるこの世界で過ごせる喜びから一転して絶望させるには十分な内容だ。
早くも前の世界にホームシックがかかる。
仕方ない。この気持ちを歌で表現するか……
「ラララ、全然薄い本が見当たらな〜い、何処を探しても見つからな〜い」
私は祈る様に歌ってみた。
「……詩音?何しているの?」
後ろを振り向くと灯華が怪訝な顔つきで見ていた。
「私の気持ちを歌にして表現してみた」
ここ数日で気づいたのだけど私は笑わない。いや、顔の表情の表現が難しいのだ。暗殺業やっていたので表情を無くす修練があったのかもしれない。
なので歌って表現したりして感情を伝えたりする様にした。
絵心は前の世界に置いてきたので薄い本を創り出すなんて無理だ。
「薄い書物ですか?薄いのでしたら絵本の事ですかね。詩音が気にいる絵本はいつか出会えるわ」
……私の求めているものはそんな純粋なモノではありません。
もっと薄汚れた不純物です。
ダメだ。純粋な人の近くにいると私まで純粋になりそうで怖い。
なんでこんなにも争いに満ちているのにこの世界は綺麗なんだろう。
争いがあるから文化が発展しないんだ。
……私が争いの元凶を滅ぼせば問題は解決するかな?
才能ある者がペンではなく武器を持つこの世界が憎い。
それよりも冬に公開だった水泳の映画をみ損ねたのが痛い。楽しみにしていたのにもう見れない辛さ。
他にも沢山の私の宝物。
もう見る事が出来ないと思うと泣いてしまう。
「詩音?何で泣いてるの⁉︎」
灯華は私が涙しているのにびっくりする。
「いえ、私は汚れ過ぎているのだと認識しただけです」
すると灯華はよしよしと抱き締めて頭を撫でてくれた。
多分、互いに汚れの部分の認識は違うと思う。
もう薄い本と出会えないなんて悲しい。
いや、諦めたらそこで終了だと誰かが言っていた気がする。
私はこの世界で薄い本をいつか見つける事を誓った。
それにしても灯華の腕の中は気持ちよかったので私は暫く灯華に体を預けた。