猫耳メイド
この物語において、四鬼詩音は重要な登場人物達をいとも簡単に倒してしまう強者。
単体で最強なんて言われている主人公のライバルでさえ、主人公と仲間と力を合わせて四鬼詩音と互角なのである。そうして、主人公達は纏まり四鬼詩音を倒して、世界を救う。
そんな規格外の存在になってしまった私。
この先、どう生きよう。
まだ身体が動かない為、メイドさんに担がれて、車に乗せられ何処かに運ばれている最中だ。
そして、このメイドさんも私は知っている。
名は三条灯華。
彼女はとある任務に失敗して処分されそうになったのを詩音が灯華を気に入ったので四鬼一族に仕える形で処罰になった。
四鬼一族とは国に認められた暗殺一族だ。忍者、忍び、暗殺者、様々な呼び名があるが今の時代なら暗殺者の方が伝わるだろう。
勿論、四鬼一族は怨み嫉み様々な負の感情を持たれる事が多いが四鬼一族は冷徹さ故に報復を恐れ手を出せない。
その様な一族に仕えるのは十分な罰になると考えられたようだ。
彼女は詩音に恩を感じている。だから詩音を助けた。でもこの後、詩音に殺される運命《設定》だ。
しかし、私は復讐に生きる気はない。
彼女を殺す事で詩音は様々な負の連鎖を起こす。
なら初めから、その負の連鎖を断ち切るのはありだろう。
この世界の事は知っているがただ知っているだけだ。
彼女がお人好しの善人と言う設定なのは知っている。
しかし、何を考えているかなんて分からない。知識と経験では違う様に知っている事と違う事があるかもしれない。
それに彼女は私をどうしたいのかを知ってからも逃げる事も可能だろう。
その後、何処に止まる事もなく車は走る。
どうやら、彼女のお家に帰っていたらしい。
車を運転させ、暫く彼女のお気に入りらしき歌が何回も連続でリピートされ、6回目以降からはもう数えてなくなった。
一軒家の隣に車を停めると彼女は降りて、私に声をかける。
「詩音様、また失礼しますね」
担がれる時もそうだったけど私に報告するのは癖なのかな?
動かない今の私は廃人と変わらない状態に見えると評価を貰っているのに彼女は律儀に私へ話しかけてくれる。
身体が少しずつだけど車の中にいる時に動ける様になっていたのに気づいていたのでちょっとびっくりさせようかなっと少し余裕が出てきてる。顔を横に振り向き彼女と顔を合わせる。
「……いい、自分で出来る」
これが私の声か。
この声ならカラオケで歌ったら今なら高得点取れそうだ。
彼女は私は話しかけたのにびっくりして、固まってしまった。
「何をボケッとしているの?貴方のお家に帰るのでしょ?貴方が動かなかったら私も入れないわ」
彼女はすぐに動き出し、どうぞどうぞとお部屋に招いてくれた。
そして、リビングに案内され私はソファーへ寛ぎ、彼女も向かいに座り互いに沈黙する。
沈黙も先に破ったのは彼女だ。
「本当に詩音様ですか?魂が破損して人格自体無くなったって聞きました。ですが普通に……いえ、昔より感情がある様に感じます。……まさか、覇王継承の儀は成功だったのですか⁉︎」
いきなり核心的な話をしてきますね。それに本人より感情ある様にって詩音の人格ってどんな感じだったのだろう?
「覇王継承の儀なんてものは本当は存在しないから成功も何もないよ。普通より感情があると言ったけど私は詩音だけどもう詩音じゃない」
そう言うと灯華は瞬時に距離をおき、戦闘態勢に入る。
徐々に頭の上に獣耳が生え、可愛らしい顔が緊張し、口からは長い八重歯が見える。
簡単に言うと猫耳メイドへ変身していた。