自分と向き合う
突然、自分でも持て余してしまうほどの力を手に入れてしまったらどうなる?
よく小説では無双したり自由気ままに力を使ったり、気分が大きくなり出来なかった事をしたりしている。謙虚な事を言ってはいてもやっている事は自分本意だ。逆に力に怯えるってのもある。
私はこの強大な力に対して1度拒絶した。しかし、慣れてしまうと手を出したくなるのは人の心理だと思う。
元々、私の記憶には平穏な記憶しかない。たわいの無い友人達と遊んだり、ゲームをしたり何処にでもいる女子学生だ。覇王の記憶はただ、人を殺す時、戦争の記憶ばかりだ。覇王の記憶はテレビのイメージだ。私の中では見た事がある程度の認識だ。しかし、事実私の中で覇王の記憶とは実体験をしたかの様な曖昧な感覚でもある。だから、私は強大な力を使う事を拒絶した。
今の私は人を殺めるのには抵抗がある。それは主人格が私だからだ。
だけどずっと人を殺す夢を見続けてくると慣れてしまう。いや、慣れないが諦めてしまう。受け入れてしまうとそのまま済しくずしに崩れてしまう。
魔物は命を奪う為だけに生きている。この世界の定義だ。そういう設定だ。
そんな魔物と私は一度対峙した。
この体になれた私は魔物をただ見たいと言う感情だけで異世界化した、いやダンジョン化した地域にワザと入った。
すぐに魔物は私に襲いかかってきた。私はそのスリーモーションの中で魔物ゴブリンの武器を手で受け止め、首を掴みただ力を入れただけだ。それだけで骨が折れ肉が潰れゴブリンはダランと肉塊に変わった。
私はさながらゲームの中に入った気分だ。いや、私にとって魔物なんて存在しなかったのだから非現実にしか感じなかった。
今までの私なら罪悪感に悩まされていただろう。
だけど強大な力を得た私はただただ肉の殺しの感触を味わった。きっと表情を動かせたらまんべんの笑みを浮かべていたはずだ。だってこんなにも気持ちが高揚しているのだから。
その後、私は私を忘れただ奪う喜びを味わうかの様に襲いかかってくる魔物達を楽しみながら殺した。
そして、終わった後に私は後悔した。軽はずみに自分の強さを確かめようとするんじゃなかったと嘆いた。
魔物は殺さなければならない設定なのを知っている。だけど私は自分の力を確かめる様にただ強さに溺れていた。
自分が自分じゃなくなっていく感覚が怖い。
確かにこの世界に生きていく為には殺しは必要だ。
だが、殺しにもちゃんとした理由をつけなければそれはただの快楽者であり殺戮者でしかない。それでは魔物と変わらない。
そして、私は自分が思っていたよりも力に溺れてしまうようだ。奪う事で得る高揚や喜びを感じるたびに私は私を制御出来ない。1度戦いに入ると私は私ではなくなる。制御出来ずに私は相手をいたぶるだろう。皆の言う四鬼家の人間のように。
だから、私は戦いが嫌いと公言している。
でも自分自身は気づいている。
本当は私は戦いが好きだ。今までは力が無かったから知らなかっただけだ。だけど確かに人間と戦うのが怖い。だって、奪う楽しさを感じてしまう私が人にも同じ感情を抱いてしまったらと思うと私は私でなくなる。
つまり、私は自分のアイデンティティーを守る為に偽善者でい続けなければならない。
私の本質は偽善者だ。
「詩音さん、私の所為でごめんなさい」
朱莉は目を覚ますと謝り続けた。
「気にしないで。私が朱莉を守るから安心して」
でもと泣く朱莉に私は言う。
「私が決めた事。確かにこんなにおおごとになるとは思わなかった。でも私はここで朱莉の不幸を見て見ぬふりをしたら私は私じゃなくなる。だから私は戦うだけ。朱莉がする事は私の勝利を見るだけでいい。ね?」
朱莉はうんと力弱く頷く。納得はしてないようだが私の言葉を信じてくれた。
私が朱莉を助けるのに四鬼の者だと知っても気にしてないからだ。
「じゃ、そろそろ向かうから私の勝利を見に来てね」
私は落ち込んでいる朱莉を置いて闘技場へ向かった。
闘技場へ着くと人溜りの凄さにびっくりする。
うへぇ……みな娯楽に飢えすぎ。
中に入り待合室で戦いの時間まで過ごす。いや、そわそわしていた。
私は思ったより好戦的だとまた認識する。
だけど、平穏に過ごしたい自分もいる。
今回の放送付きの決闘はどうしようかと思ったが平穏に過ごす為に利用も出来るとふんでいる。
時間になり、闘技場のフィールドに行く。
すると既に薬師丸がいた。
私を見るなりニヤッとする。
私はまだマントを人前でとってないので薬師丸しか私の外見をしらない。
「逃げずに来たのか。お前が言った通りにさせて貰ったぜ?文句はねぇよな?」
「構わない。それより、フィールドの擬似空間って壊しても良いの?」
私がそう尋ねると薬師丸は大笑いする。
「エーテルフィールドを壊すってドラゴンでも被害があるだけで壊せねぇよ。仮に壊せてもお咎めはねぇだろうな。お前のジョーク面白いな」
確認は済んだし後は戦うだけだ。
すると大男がフィールド内に入ってきた。
好戦的な目つきに圧倒感がある。
「君が四鬼家の落ちこぼれか。確かに友の為に戦うアサシンなんて聞いた事がない」
カカカと笑う大男を見て理解する。彼は五條家当主だと。
「五條家当主、落ちこぼれを嘲笑いに来たのなら後にしてほしい。私は早く終わって朱莉を安心させたい」
五條家当主は私を観察する様に見続け話す。
「……ほぅ、俺の殺気を涼しげに受け止め俺を瞬時に判断するか。今回は五條家のしきたりが使用されその延長での決闘だと学園長から聞いた。なら、俺が正式に取り合った方が後で問題にならないだろう?」
少しは責任でも感じているのか?血族の当主が見届け人になるのなら不都合はない。私は頷く。
「なら、両者は五條家のしきたりの延長でこの決闘に挑む。内容は事前に決定した通りだ。薬師丸の勝利時、四鬼詩音は薬師丸のモノになる。四鬼詩音が勝利時は朱莉を好きにする。薬師丸は今後朱莉には近づかない。それで良いんだな?」
私と薬師丸は頷く。
「分かった。五條家の名を持ってしかと受け取った。では、学生同士の戦いだ。客席で見物でもするか」
五條家当主がフィールドから離れると司会の者がフィールドに入ってくる。その瞬間、周りの景色が変わった。壮大な岩のフィールドだ。これが噂に聞くエーテルフィールド。
司会の者は報道部のあの幼馴染だ。
「では、決闘の審判を務める相間アオイと申します!どちらかが戦闘不能もしくは戦意消失が決闘の勝利条件です!この空間であればどんな戦いをしても死ぬ事はないので思う存分に戦って下さい!では、互いに何かありますか?」
「あぁ、俺はちょっと気になったんで聞いて良いか?」
私は頷く。
「四鬼の人間なのに友達の為に戦うってお前本当に四鬼家の者か?」
「君にも噂を聞いたはず。落ちこぼれや出来損ない、役立たず。暗殺者に感情はいるか?入らないから落ちこぼれだ。友を大切にする暗殺者なんているか?いないから出来損ない。四鬼家の為に何もやらない者は役に立つはずがない。だけど、私の本質は四鬼家の者だとだけ言っておく」
「なるほど、四鬼家から捨てられる訳だな。なら何やってもいいって事だな?だけど始め位は一発受けてやるから何処からでも攻撃してこいよ!」
薬師丸は私を見下しながら挑発する。
「私からも一言。3割の力で蹴るから一発で壊れないでね」
私の言葉に薬師丸は大笑いする。