0-1
金の切れ目が縁の切れ目。
その日、俺は長年連れ添った彼女と別れる為、
彼女の荷物を整理をしていた。
理由は、新しい彼女を買ったからだ。
店頭で見つけて、一目惚れしてしまった。
真っ赤な彼女。
赤は、よくないとか聞いたが、うなこった知ったこっちゃねぇ。
俺も、罪な男だぜーー。
さすがに、長年使っていただけに、ボロがきていた彼女は、
なにより閉まりが悪くなっていた。
下手すると中身が飛び出しかねない。
中身を順に抜いていく。
札を抜き、小銭を抜き、カードに手をかける。
そう、俺の彼女とは財布の事である。
おっ! 金発見!
庶民の大親友ポイントカードの
束の一番下にあったのは、折り畳まれたーー1000円札のようだった。
俺は、意気揚々とそいつを広げる。
げっーー
これは……こんな事をするヤツを俺は、1人しかしらない。
懐かしい高校時代の記憶をたどるーー。
「ねえ、10000円貸して」
昼休みが始まるやいな、
開口一番、大金をせびる非常識な女。
その時、あいつとの事で、
俺と距離をおいてる感じがしていた千秋に話しかけられ
俺は、満更でもなかったんだ。
だが、それとこれでは話が違うと。
俺は、イヤだ。と丁重にお断りした。
「そんな事言わないでさーーねえ、すぐ返すからさ」
千秋は、タダでは引き下がる気はないようだ。
「じゃあ、いつ返ってくるんだ?」
俺は返済期限を明確にし、そこから崩す事にした。
知らない仲ではないが、コイツに金を貸して返ってくるとは
とても思えない。
「一瞬だよ、一瞬」
案の定、意味がわからない。
「一瞬なら貸す必要ないだろ」
「もうーー昨日テレビで、マジック番組やっててさーーそれがお金のマジックなんだ。だぁーかーら」
「だからなんだ? 自分の金を使え。人の金ちょろまかす気か、お前は」
「失礼なぁ。別にあたしはお金にこまってないよ」
「じゃあ、自分のでやろうな?」
「わかってないなぁー。こういうのは人のお金でなきゃ、種も仕掛けもありません。なんて言えないじゃない」
「たしかに……」
「ね、お願い。じゃあ1000円でいいから、ね!」
千秋は、胸の前で手を合わせてそう言った。
まぁ1000円ぐらいならいいかと
財布を取り出すと。
やった! とつぶやく千秋。
「ほれ、1000円。絶対返せよ」
「ありがとう。じゃあ始めるよ」
と言うと俺の机に1000円を置いて手を添えると
ボケットから細いマジックを取り出した。
俺は、いやな予感がしたので
「ちょっと待て、何する気だ」
と止めに入る。
「心配ない、心配ない」
と千秋は、躊躇する事なく。細い方の蓋を外し、
その手を机につけ、その先を札に向ける。
「ちょッ! あぁ…………テメェーー」
千秋は、まるで教科書に落書きする気楽さで
野口君の顔に落書きしていいかなー?
とでも言うかのように、
お昼にお馴染みだったーーあれを鼻歌いながら
サングラスをかけ始めた。
あれ? と千秋は、困惑げな顔をすると首を傾げる。
そりゃそうだよ……。
髭がジャマで○モリには、とても見えないよ。
それに髪型は、どことなくミュージシャンっぽいよ。
あぁあああ、と俺の声が更に漏れ出る。
千秋は、なんと野モリに腕を描きマイクを持たせた。
更に、ミュージシャンっぽくなった。
「なぁ……千秋これは? 誰だ?」
「……知らない。誰だろう?」
それから、時間が止まって……
「大丈夫大丈夫、あわてないあわてない。消えるから」
千秋は、1ミリも悪びれる事なくそう言う。
「本当だろうな?」
疑い120%でそう言った。
「もちろんだよ。あたしが友樹にウソをついたことある?」
「あるよ、あり過ぎて覚えてないよ。
まさか……1000円ごと消えるなんてオチじゃねぇだろうな?」
コイツには、いつも遊ばれてやっているようなものだった。
「まぁ見ててって。
これを折っていってーー」
開くと、ほら! と俺に向けて
「あッ? なにがだ?」
コレジャナイ顔が向けられる。
「あれ? おかしいなぁ」
自分の方に野モリを向けてそう言う。
そして、何度も折っては俺にその昼顔にはなれなかった者を向けてくる。
あぁ……いいとも復活しろよーーとコレジャナイのに、俺に切ない気持ちを運んでくる。
「おかしなぁ。昨日テレビでやってたんだけどなぁ」
こいつ……今回のは今までに類を見ない悪質なイタズラだったな。
マジック失敗ーー1000円。
「テレビでやってるわけねぇだろ……金に落書きしたら犯罪だぞ」
「え? マジで?」
さすがに、犯罪という言葉に動きを止める千秋。
「あぁたしか、そんなもんをテレビでやるとは思えんのだが」
まぁ、どうせそんなもんはウソっぱち……。
「ウソじゃないよ。あたしちゃんと見たもん」
はいはいとなだめつつ
「もういいから、とりあえず1000円返せ、な?」
はい! と渡されたのは案の定。
俺は、思わず鼻で笑う。
「警察に突き出す」
「でも、あたしがやったって証拠ないし」
俺は、満足そうな千秋の顔を見ながら
右手を伸ばして野モリを受け取る。
とりあえず、10000円貸さなくてよかった。
しかしこいつ、マジックをしないマジックショーで
1000円とか……なんて高い女だよ……。
「ねぇ、何してんの? わたしもまっぜて」