―上司と優男―
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「松山太郎、26歳。今年、警察学校を主席で卒業し東京都内の某訓練施設に入隊した・・・彼だけ?」
黒髪に赤毛が少し混じった優男は、自分の上司の問いかけにたいして一言。
「合格は彼だけかな」
その答えに頭を悩ませる、少しパーマがかった茶髪に白縁眼鏡をかけた若い男は深い溜息とともに言葉を吐き出す。
「32名中1人だけ?室田君が試験官でもやったんじゃないだろうね?」
「まさか!そんな面倒臭い事俺が殺る訳ないだろう?まぁ、試験官は狗痲の御譲ちゃんと灯樹にやってもらったけど?」
白縁眼鏡の男は眼鏡を外し、目尻の辺りをぐっと指で押さえる。
「・・・それでか」
白縁眼鏡を再び掛け直し、冷めたコーヒーを一口啜る。香ばしい香りはとっくの昔に漂いきっていた。
優男―室田はただ笑いながら、白縁眼鏡の男を憐れむように言葉をかける。
「御譲ちゃんは仕事一辺等だから、本気で候補者の相手するし、灯樹は早めに終わらせたくて凄い集中するから結果全部当たるし・・・困ったもんだわー。なっ、魁?」
「あぁ、寧ろ君が試験官をした方がいい気がするよ。てゆうか、とりあえず僕が上司だから佐原って苗字で呼んで貰いたいんだけど?」
室田は笑いながら嫌そうな顔前面で言葉を返す。
「そーお堅い事言うな。てか、もしかしてまた適性試験とかする訳?ぶっちゃけ言うと、あれ面倒だし候補者死にすぎたから嫌なんだけどー」
「五月蝿い。とりあえず8人になったし、6人未満になったらまた集めるつもりだ。出来れば正志も次の適性試験までに死んでくれると助かるんだけどね?」
琉川と同じ事を佐原にも言われ、室田の顔が少し青ざめる。こういうブラックジョークに対しては多少なりともショックを受けるようだ。
それから佐原は携帯電話を一旦開き、時計を眺めて携帯を閉じる。それを見て室田は、とりあえずテンションを上げて声をかけた。
「そろそろ首相の所行くのかー?いや、佐原補佐官は大変だな~。俺もあのまま行けばそうなってたのかねー?」
「正志はあのまま行っても、サボり癖が強いからな。結局辞めただろうね」
そういって佐原は軽い笑みを顔に貼り付け、今日暗殺課の適性試験に合格した青年の詳細が書かれた書類を投げ出す。
「俺は魁みたいに優秀じゃなかったからな。だから今の色々と自由な立場で満足してるんだよ」
室田はそこで言葉を区切る。何処と無く懐かしそうな目をして、そのまま口を開いた。
「人を殺すってのは、昔やってた仕事よりもっと楽なもんだと思ってた。でも実際は、人の命を終わらせるっていうのは無責任な俺にとって大変なものだったよ」