俊弥
1.
夏になって入道雲が沢山空に浮かぶ季節になると、俊弥はいつも小学1年生だったあの夏休みの事を思い出す。
小学1年生だった俊弥は、人見知りが激しい性格だったせいか、小学校に入って1人も友達が出来なかった。
入学してすぐの時は、俊弥に話しかけてきてくれる子は沢山いた。
俊弥はみんなと話したかった。
でもいざ話しかけられると固まってしまって、黙ってうつむいてしまう。
そのうち俊弥と話すのはつまらないと思ったのか、俊弥に声をかける子はいなくなった。
だからといってクラスの子たちが俊弥に意地悪をしたということはない。
悪意はない…でも、俊弥にはその事があまり分かっていなかった。
ただ、みんなの輪から自分が外されている様な気がして、寂しかった。
でも、俊弥にとっては、いくらみんなの輪に入りたくても、自分からみんなに話しかけていく事はとても出来ない事で…
だから1学期が終わっても、俊弥には友達が出来なかった。
それどころか、6月ごろから体調を崩して、学校を休みがちになってしまっていた。
夏休み、体調がすぐれない俊弥を心配したのか、お母さんが言った。
「トシちゃん、昨日お父さんとも話したんだけど…夏休みの間しばらくおばあちゃんの家に行ってみない?」
おばあちゃん、すなわちお母さんのお母さんは俊弥の家から車で6時間ぐらいかかる田舎の村に住んでいる。
おじいちゃんは俊弥の生まれる前に亡くなっていて、今はおばあちゃんは1人で暮らしている。
遠い所に住んでいるから滅多に会えないけれど、俊弥はおばあちゃんが大好きだ。
「うん、行きたい!」
「じゃあ、準備しないとね。お母さん、トシちゃんとはしばらく会えなくなるから寂しいけど…いっぱい楽しんでおいでね。」
「えっ?お母さんやユウちゃん、行かないの?」
ユウちゃん…柚奈は、5歳下の妹だ。
お母さんは、少し困った顔をした。
「ユウちゃん、まだ小さいしね…お母さんもちょっと予定があって…おばあちゃんの家にはずっとは居れないの。トシちゃん、お母さんが居なくても平気よね?」
「うん…」
答えたものの、俊弥はお母さんとは一緒に居れないと知り、不安になっていた。
翌日。
着替えや夏休みの宿題、お絵かき帳、色鉛筆、…色々なものを詰めた大きな鞄をお父さんが車に積み込んでくれて、俊弥はおばあちゃんの家に向かった。
家の前でお母さんとユウちゃんが見送ってくれる。
お母さんは、ちょっと泣いているように見えた。
(お母さんも、やっぱり僕と夏休み一緒に居れない事がとても寂しいのかな…?)
小学1年生の俊弥にはお母さんが泣いている理由がよく分からなかったし、さして気にもしなかった…。
「トシー、着いたぞ!」
お父さんの声で目が覚めた。
途中、レストランで昼ごはんを食べた。
俊弥の大好きなチョコレートパフェをお父さんがデザートに注文してくれて…お腹いっぱいになった俊弥は、車に揺られながらいつしか眠り込んでいたようだ。