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絶対の神が居ない世界

精霊に愛されし者2~ブルートゥス大陸のある青年~

作者: 朔夜

短編第二段!

何故か、本編より書き上がるのが早いです。

と、いうかメモを無くしたせいで本編が書きにくいです。


風邪をぶり返したようで、朝から体調が最悪です。

早く治したい……(TwT)

 戦略兵器と名高い『紅の刃』には、名前付きの炎の精霊が宿っている。

 具現化して実体をも持てる高位の精霊の名は、ルビエラといった。


 ディアマス王国第十六代国王レスクの末娘、第三王女イスフェリア=キュオ=イムハール=ディアマス、愛称イーシャが現在の『紅の刃』所持者であり、炎の精霊ルビエラの契約者である。


 彼は、残念ながら魔力属性が火ではない。

 『紅の刃』を扱えないと知っていたので、最初から封印破りをする気が起きず、挑戦しなかった。

 無理と分かっている事に挑戦するより、軽視も無視も出来ず、さりとて利用も出来ない存在であると周囲に知らしめ、殆どの者に自分がやったと気付かれぬように愚か者を排除する事に忙しかったからだ。

 完全に気付かれないように処理する事も出来たが、それでは意味が無いし、つまらない。


「イーシャを守って下さってる炎の精霊どの、貴女に一つ聞きたい事があるんです」


 本来精霊という存在は、世界の欠片であり、必要以上個体に興味が無い。

 その精霊が狂っているか、ただ単に扱いを間違えた場合にのみ、自ら攻撃してくるのであって、属性が何であれ基本的には無害だ。

 名前付きの精霊というものは、人間と接する事が多い変わり者の部類に入る。

 そして、たいがいが生来の才能が無い者に、その存在と姿形を示す事が出来るほど高位だ。

 名前を知っているからといって、その精霊自身に許可されたわけではないのに勝手に呼んだら、怒らせる事になる。

 恐ろしい事に、天眼を持つ義弟のラムザアースの見立てでは、ルビエラは火の精霊王だそうだ。

 勝手に名を呼んで怒りを買ってしまったら、火達磨どころか一瞬で蒸散しかねない。

 当のイーシャは火の王だと知らないようなので、不興を買う危険性リスクを思えば火の王とも呼べず、彼はそう呼び掛けた。


「え~っとぉ、確かイーシャちゃんの上のお兄さんだったかしら~?」


 紅玉ルビー色の巻き毛、柘榴石色ガーネッドレッドの瞳、褐色色の豊満な肢体、古き巫女のような色彩のわずかずつ異なる薄布を重ねた朱い衣装を身に纏う妙齢の美女の姿をとった精霊は、長椅子ソファーに座るイーシャに首を傾げて確認した。

 イーシャは母親似の清楚で可憐なかんばせを己の精霊に向け、一瞬目を見開いたが、ゆっくりと頷き肯定する。


「ええ、合ってるわルビエラ。直接対面するのは初めてなのに、良く覚えていたわね」


 精霊は個人に興味を持ちにくいために、どうでもいいと判断した情報はすぐに忘却するといった面がある。

 イーシャが驚いたのは、そのせいだろう。


 ルビエラは首を傾げたまま、甘やかな美貌に不釣り合いのきょとんとした幼い表情を浮かべた。


「だって似てるもの~。それにイーシャちゃんの視界で何度か見てたから~」

「……お兄様と似てるなんて言われたの、初めてよ」


 彼と妹は腹違いだ。

 彼は赤毛、イーシャは銀髪。

 垂れ目以外父親そっくりの彼とイーシャの外見的共通点は、ディアマス王家に良く出る菫のような紫色の瞳だけである。

 そもそも外見が似てたら、彼は異母妹との接触を今ほどしなかっただろう。

 彼の母の護衛官だったセリシェレに似てるから、最初に会った時構う気になったのだし。


 ルビエラはパタパタと片手を振って、違うと仕草で示した。

 スィーっとヒトではありえない動きで、空中に浮かび、突然吐息が触れそうな至近距離に顔を近づかせ、まじまじと彼の顔を観察する。


「やっぱり~。このヒト、健康な時のヴィルに良く似てるわ~」

「ヴィル……もしや、炎滅王ヴィルリドですか?」


 炎滅王などと物騒な二つ名を持つそのヒトは、ディアマス王国二代目国王であり、『紅の刃』を発見して記録上ルビエラと契約を結んだ最初の人間である。


 ルビエラは至近距離を保ったまま、こくりと頷いた。


「そうよ~。ヴィルは精霊達わたしたちに愛されてたから、陽光に焼けなくってもっと色白でぇ、身体が丈夫じゃ無かったからもっと細かったけど~」


 精霊に愛されし者は、短命な者が多い。

 その特異性を他者に利用されるからであるが、精霊による過保護も一因と言われている。


 火の精霊が守るから火傷する事無く、水の精霊が守るから溺れる事無く決して雨に打たれない。

 風の精霊が病原菌を近づけさせず、大地の精霊が守るから転んでも怪我をせず。

 光の精霊が空気中の害を焼いて、闇の精霊が闇を見通す目を与えるために夜でも視界が効く。

 植物の精霊が毒素を無害に代えるから食中毒になる事は無く、生命の精霊が不摂生により起こる病を遠ざける。


 ヴィルリドの死因は、過労による衰弱死だ。

 三十二という若さにしては、かなり引っかかる死因である。

 生来虚弱だったようなので精霊達のせいと言い切れないが、体力が着きにくかった原因の一つだろう。


「そうですか。僕が貴女に聞きたかったのは、そのヴィルリド王の事です」

「ヴィルのことぉ~? なんで~?」

「――ルビエラ。私も聞きたい」


 がしりっ、とイーシャはおもむろにルビエラの後頭部を掴んで、彼の前から引っぺがした。

 抵抗も無く、ルビエラがあっさり離れる。

 超支近距離の凝視から解放され、ひっそり彼は安堵した。


「私もヴィルリド王の事、前から興味があったのよ。四代目のクロ―ディア女王の治世で、国土が収縮して当時の資料が大分紛失してしまったから、分からない事も多いのよね」


 ヴィルリド=テワン=フロモーネ=ディアマスについて、現代に知られている事はそう多くない。


 デイアマス王国初代国王アルスの第六子の末っ子で、妃は一人、生来虚弱。

 文官を目指していたのに、精霊に愛されし者であったせいで戦場に送られた。

 頭脳派で、将軍より軍師に向いており、数年は後方支援型に徹していたが、十五歳の時、精霊に聞いて『紅の刃』があった洞窟に行き、発見・ルビエラと契約に至る。

 精霊の愛という名の過保護な支援と『紅の刃』の力を複合させ、次々に戦場を火の海に変え、二十歳の時病死したアルスの後を継いで国王になり、国土を広げ、火の民ドラゴニアと盟約を結んだ数ヵ月後に死亡。


 軍才に優れていたためか、戦いに関する資料は割と多く残っているが、それ以外が殆ど無い。

 作戦から敵に容赦ないのは分かるものの、どういった人物だったかは謎の部分が多いのだ。


「そうねぇ。ヴィルはいつもいつも忙しくしてたわ~。忙し過ぎてぇ、私に書類の処理の仕方を教えて手伝わせるくらいにね~」

「「なんですと!?」」


 衝撃の発言に、彼とイーシャの言葉が重なった。

 ルビエラはニコニコと笑顔で頷きながら、当時を懐かしむように遠い眼で明後日の方向を見る。


「ヴィルが言うには~。

 もともとディアマスの人間は武官に向いてて~、脳味噌まで筋肉な連中が多いからマトモな文官が足りてないんですってぇ。

 軍事行動クーデターで元あった国を滅ぼして建てた王国だからぁ、基盤がしっかりしてなくって整えるのに忙しいのにぃ、信頼して任せられる人間が少な過ぎて泣きたいって言ってたわ~。

 実際に手伝ってあげたら泣いて喜んでくれたの~。

 ディアマスに良い感情を持ってない人間を調べるのには~、風の小精霊シルフィード達に頼んで着け回ストーキングさせて監視させてたわよ~。

 植物の精霊にもよく通りがかる人間の話を聞いて覚えさせてぇ、情報を集めてたみたいねぇ」


 当時は想像してたより、酷い状態だったようだ。

 ディアマス一族は、元々傭兵団である。

 戦術は得意でも、戦略規模で考えれる人間は少なかったのだろう。

 上に五人もいたのにヴィルリドが国王になったのは、総合的な強さと勝ち戦が一番だったからというより、もしかすると国王として一番まともに政治が出来る人間だったからかもしれない。


 それに、ヴィルリドは合理性を求める人間でもあったようだ。

 幾ら人手が足りないからと言って、実体を持てる火の王に書類仕事を覚えさせるなんて、普通の人間では考えもしないだろう。

 精霊に愛されている事を上手く利用して、最小限の労力で維持出来る確実正確な情報元を持っていたのだから、なかなかしたたかでもある。


「そ、そんなに使える人間が少なかったんだ。でも、どうして?」


「識字率? っていうのが低いせいでぇ、他の人でも出来る余計な仕事が多く回ってくるって言ってたわ~。

 学校建てたいけど税の採り方も地域によって違うから~、予算が上手く建てられないとか言って泣いてた事もあったわね~。

 出来るヒトが足りない、実行する予算が足りない、計画する時間が足りない、苦手でも書類仕事サボるな愚兄ども~って、ヴィル、煮詰まるとよく言ってた~。

 特に酷い時なんかね~、もうこのまま眠って目が覚めなくて良いって言うのよ~」


 彼はヴィルリドの死因を思い出した。

 過労死――おそらく、眠ったまま起きなかったのだ。

 炎滅王は、図らずしも希望通りの死に方をしたようである。


「后っていうヒトは一族の結束を重視した結婚だったからぁ、あんまり書類仕事得意じゃ無かったしぃ。

 自分の娘にも期待してなかったみたいね~。

 一流の武人には成れるかもしれないけどぉ、政治家には向いてなさそうって言ってたわ~。

 三人目のお兄さんの子供のヒースちゃんがそこそこ出来る子だからぁ、その子が大きくなったら少しは楽になれるかもって期待はしてたみたいよ~。

 結局ヒースちゃんがたくさん手伝えるようになるまでヴィルの寿命が持たなくってぇ、ずっとずっと忙しいままだったけどね~」


 ヴィルリドの鑑定眼は確かだった。

 彼の後を継いだヒースクレスト王は、森の民エルフと盟約を結び、戦死するまで国土を無事に維持し続けたのだ。

 彼の一人娘の名はクロ―ディア。

 従兄の後を継いだはいいが、隣国の仕掛けた謀略に嵌まって国土を奪われた女王である。


「そうですか……貴重なお話をして下さってありがとうございます」


 いい情報にもなった。

 やはり、国王の任される仕事は分散した方がよさそうだ。

 ヴィルリドとは比べ物にならないほど楽になったとはいえ、現状でも他者に任せられる仕事は多い。


「……なにか企んでいらっしゃいますか? アルフェルク王太子殿下」

「ひどいな、イーシャ。この兄に、そんな猜疑心に満ちた眼差しを向けるなんて。その言い方では、いつも何か僕がしているかのようだよ」

「……自分の胸に手を当てて、よぉく聞いてごらんになって」

「ふふふ。面白い事を言うね、イーシャ」


 僕は君に嘘をつかないのに。

 そう言うと、異母妹は腰に手を当て、口を尖らせた。


「嘘をつかないけど、アルフお兄様、ご自身の都合が良い事しか口に出さないだけじゃない」

「分かっているならいいんだよ」


 イーシャは気付いていない。彼は他の者に対して、そんな手間をかけない事を。


 何か異母妹が勘違いしている事に気付いたが、彼は放置する事を選んだ。

 イーシャは彼を嫌っていても、彼を排除しようとは決してしないと知っていたから。


 

時系列的に、本編の1年くらい前のお話。


アルフの思考は彼があえて読ませてるだけで、隠そうと思ってれば完璧に悟らせません。

本当に何か企んでたら、イーシャには全く読ませない。

お兄様には、自分が王になるという自覚がキチンとあります。常に全力を出すほど国に対して執着が無いので、傍目にダラけて見えるだけで。


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