クリスマスのお話《替え歌》
12月24日――
水滴がついた、広い窓の外側には雪がちらつき、街灯がぼんやりと幻想的に輝いている。
外とはまったく反対のここの暖かい部屋に、一定の距離を保った、男女が座っていた。
短い髪、そして切れ長の目が印象的な一弥は、机の椅子に座りながら、自分のギターを触っていた。
ちらちらと、自分のベッドに寝転ぶ子を気にしている。
黒髪を二つに結び、中学3年とは思えないくらいの童顔の香は、一弥のベッドで漫画を読んでいる。今、部屋に入ってきたばかりなのか、白い頬が林檎のように真っ赤に染まっている。
「香……?」
「ん」
すっかり漫画に夢中になっている香の気のない返事。
せっかく、2人の16ヵ月記念がクリスマスだっていうのに、香はいつもクリスマスとなるとそっけない。
『私は仏教だから、あんまり関係ないでしょ』
と何度聞かされたことか。
「俺、下からお菓子とってくる」
そういうと、香は目だけをこっちに向けた。
「うん、ありがとう」
その香の言葉を聞いて、一弥はギターから手を離して、扉をあけて廊下に出る。
ひんやり冷たいフローリングと階段をかけおり、リビングに準備しておいたチョコレートの山がのった箱をつかみ、また階段を昇る。
足でドアをあけると、もわっと暖かい空気が顔にかかった。
「ほら、チョコレート」
一弥がチョコレートの山をベッドに放り投げた。
香は漫画を閉じ、枕元におくと、小さく息を吐いた。
「か、一弥」
香は震えた声で一弥を呼んだ。
「何? チョコレート好きでしょ?」
「うん、だけどね……」
そういうと、香は何かを決意したようにうなずき、微かに笑った。
「真っ赤な頬っぺたの、香ちゃんは、いつもみんなのわーらーいーもの。でもその年のクリスマスの日、一弥のお兄さんがいーいーましたー!」
そういうと香は一弥にむかって手をのばした。
「……は?」
「続きは? 一弥お兄さんは可愛そうな香になんていった?」
何でもかんでも唐突な香にはいつも驚かされているが、まさか歌までくるとは。
相変わらず香は一弥にむかって手をのばしつづけている。
ただ……
(作詞が得意な俺に替え歌を振ったな? よし……)
「可愛い君のその頬に、思わずキスをしたくなるのさ!」
そういった一弥を、香はしばらく見つめていたが、やがて大きく目を見開き、頬だけじゃなく、顔や耳まで真っ赤にさせ、勢い良くうつむいた。
「ばっ……ばかじゃん! なんで歌うの!」
「ちょっとおまえ、矛盾してるんだけど!」
「だからクリスマスは嫌いだっ、私は仏教だ!」
「しらねぇよ」
ちらちらと雪は降り続けている。
そして町の木には、輝くイルミネーションが施され、その下をさまざまな人が行き来している。
これはあるひとつのクリスマスの物語。
みなさんのクリスマス、素敵な1日になりますように。