chapter6 渡る世間は鬼ばかり・・・
早朝に散々な目にあった俺。だがそれ以上に散々な目に会うことになろうとは誰が予想できようか。人生なんて何が起こるかわからんのだ。
「はぁ・・・・はぁ・・・・なんでこんなことにぃっ・・・!」
俺は今走っている。それも相当なスピードで走っている。となりでママチャリをこぐおばさんの声援が聞こえるくらいの速さだ。
「はぁ・・・・はぁ・・・・んまっ、待ってくださひっ!」
後ろから懸命に宇宙人・ミサキがついてくる。あれだけ非常識な力を持ってるんだから、瞬間移動だとか背中からジェット噴射してもよさそうなのだが、
「あまり他の一般人に見られるとマズイので」
ということで自らの足で懸命に走っている。
ちなみに現在は午前八時十二分だ。学園の始業時間は八時二十分。学園までの距離にしておよそ八百メートル。間にあうかどうかかなり微妙なところである。
「くそっ!・・・・こっ、こんなっ、ことならっ!!」
何故俺達がこんな時間に猛ダッシュしているのかというと、そうだな、三十分ほど前の話だ。
いつものようにパンを自分の分とミサキの分をトースターに入れようとした時だ。
「・・・御主人様。朝食の用意ができました。」
ああ、そうだった。ネコミミメイド・ツクヨミさんがいるんだったよ。このうっかりさんめ。
・・・って朝食?・・・まさかまた先日のようなことになっているんじゃないだろうなという俺の懸念は杞憂では済まなかった。いつもならドライトーストとコーヒー牛乳しか存在しない机にはこれまたどうしたことだろうね、鮪が兜つきでまるごとのっていた。
「天然の揚げたてを用意させていただきました。どうぞ、召し上がれ。」
いや、召し上がれっていわれても。確かに美味そうなトロ。多分寿司屋に五千円くらいで売れるんだろうというほどはあった。だが後十分で家を出ねば遅刻しかねないのだ。全部を平らげる事はどう考えても不可能である。俺はその旨をツクヨミさんに伝えた。そしたら彼女どんな反応とったと思う?
「そんな・・・朝から熱心に四十五秒かけて作ったのに。よよよよ〜」
と、まぁなんだ。涙は出てないようだが泣いている演技をしてくれているんだね。それと四十五秒ってことは、やっぱりこれもパソコンから取り出したのか。
「はい。たまたま遠洋漁業のライブ映像が検索サイトでヒットしましたので。」
そんなことができるのなら是非とも絶世のアイドルとか超高級な車なんかもとりだして欲しかったりするのだが、そんなことをするとこの状況を受容することになる。まだ認めたくない。
「・・・・食べてくれないのですか。・・・・よよよ」
あまりにも滑稽な動作で泣くしぐさを見せるツクヨミさんに、―なんでだろうね―俺はついに折れてしまった。
「わかったよ、食べるから。泣かないで下さいツクヨミさん。」
「・・・はい。・・・ううう・・・」
目も当てられないのでとりあえず食べることに集中した。
そして食べ終えると時刻は見事に八時を過ぎていた。ツクヨミさんは笑顔で見送ってくれたものの、現実問題遅刻という二文字は俺に重くのしかかった。
「明日からはもっと早くくるように」
教室に入った俺を心待ちにしていた担任は、冷酷にも名簿欄に遅刻一とつけた。
・・・まぁこれが日常になるわけじゃないんだし、今日くらい構わないだろう。もし明日も豪華な朝食が用意されたときのためにこれからは自転車で通学することにしよう。うん、それがいい。