サバイバルゲーム その3
骸を見た瞬間「ひぃっ!」と那乃は飛び退いたが、遺体を前に「この態度は余りにも失礼だ」と思い直し、日本人らしく骸を前に手を合わせて「どうか成仏して下さい」と祈りを捧げる。
側の土は柔らかく那乃が杖を使うと結構な深さを掘れた。那乃はその穴に骸と骸が着用していた衣服を入れると穴に土を戻す。
「誰にも見送られないなんて…悲しすぎるよね…」
石を積み重ねた物の前にその骸が持っていた剣を指し墓石とし、もう一度その前で手を合わせた。
手を合わせながらふと那乃は思う。もし自分もこの人と同じ運命を辿った時、その時には今の自分と同じ様に誰かがお墓を建ててくれるだろうか?と考える。
「名前も知りませんが、貴方はこの世界で初めて共感出来た人です。どうか私の旅の無事を見守って下さい」
そういうと那乃は目を開けた。そしてはっと思い出した様にもう一度手を合わせる
「すみません。もし私がこの密林を抜けて人に出会う事があったらちゃんと貴方の事を調べて家族に遺品お渡しするので、貴方の持ち物貸して下さい」
先程まで無かった風が那乃の側をふっと抜ける。那乃は何だかそれが肯定の返事のような気がした。
「ありがとう」
そう言うと那乃は側にあった鞄を開けた。中には地図・ナイフ・携帯食料が入っていた。何時の物かわからない携帯食料はその場で捨て、地図を開く。しかしこの世界の常識がわからない那乃に地図を読み取る事は不可能だった。最後に残ったナイフは実用的な物というよりは装飾品のようで、小さな鞘にはたくさんの宝石がついている。
「無いよりはマシだな…」
そう言うと那乃は鞘を大切に内ポケットにいれナイフを手に持つ。女性にもしっくりとくる柄の部分に何だか難しい紋章がついていた
「高貴な人だったのかもね…」
なんで高貴な人がこんな密林のど真ん中で亡くなったのか事情はわからないけど、きっと家族は探してるはずなのできちんと伝えてあげなくては…と思う。「よしっ!」と新たに追加された使命にも燃えて墓石に「待っててね!」というと那乃はナイフで器用に制服のシャツの袖を裂いた。
「これを枝につけて、これからの道標を作ろう」
そう言うと那乃は裂いた袖を更に細かく裂き、枝に結べる小さな端切をたくさん作るとジャケットのポケットに入れ、まず墓石の上の木に結んだ。
そしてそのまま杖を持って再び歩き出した。前の印を見失わない距離で次の印を付ける。ナイフがあるおかげで先程よりもずっと楽に低木をなぎ払う事が出来、進む距離もかなり増えたが、一向に水音は聞こえず諦めかけた瞬間。
目の前にこちらに気付かない『白蛇』が蜷局を巻いていた。
恋愛ジャンルに属してるのに、色恋の気配が一切感じられない…。ぐはっ!
もうすぐ…もうすぐなんです!